今春生まれたツシマヤマネコ=8月

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 《ツシマヤマネコの飼育施設の担当者が集まる「ヤマネコ会議」は年2回、開かれる》

 環境省や日本動物園水族館協会など関連団体や、全国9施設の担当者が集まります。

 今年は7月に沖縄の「沖縄こどもの国」で、9月上旬には「富山市ファミリーパーク」で開かれました。

 京都市動物園では今年、2匹の赤ちゃんを帝王切開で取り出し、国内で初めて人工保育を試みているそうです。昨年も2匹が生まれましたが、残念ながら死んでしまった。飼育の現状を各園が報告し、繁殖に向けた今後の取り組みを話し合います。

 動物園で生まれたツシマヤマネコを、野生の生態系を崩すことなく、野生復帰させる。それが会議の大きな目的です。しかし、野生復帰以前に、思ったほど繁殖していない。各園が同様に抱える課題です。

 各園が飼育するツシマヤマネコは高齢化し、繁殖に使える個体が限られてきています。ツシマヤマネコが赤ちゃんを産めるのは、2歳から10歳ごろまでの8年間ほどです。

 ケアが充実し、個体が長く生きるようになったこともありますが、出産がうまくいかなかった時期もあり、繁殖力のある若い子が少なくなっているんですね。

 《平成21年、ヤマネコ会議の議論を踏まえ、ネコの集約が始まった》

 繁殖の時期に、ネコを集めて繁殖の可能性を大きくしようという試みです。ヤマネコが大移動し、福岡と長崎・佐世保の動物園に集約されました。こうなったからには、重い責任があります。移動最初の年に繁殖が成功し、みんなで喜び合いました。

 その後も繁殖の時期になると、ネコが移動します。福岡のネコが名古屋や京都へ、東京のネコが横浜へ。飼育上の疑問点の解消に、動物園間をつなぐメーリングリストも活用しています。飼育に関する動画の共有もするようになりました。

 福岡市動物園は、日本で最初に繁殖に成功し、ノウハウを蓄積してきました。過去の成功例やエサの内容などについて、他の動物園から質問を受けます。

 京都市動物園や東山動植物園(名古屋市)の飼育員が、研修に来たこともありました。

 《各動物園は、さまざまなアプローチで繁殖技術の向上に取り組む》

 井の頭自然文化園(東京)は、日本獣医生命科学大学(同)と連携し、人工授精に取り組んでいます。精子を採取するところまではできていますが、受精には至っていません。技術向上にも取り組んでいく必要があります。

 フンの中のホルモンを調べることで、発情や妊娠判定に生かす研究も大学で進んでいます。韓国では、アムールヤマネコを野生復帰させる取り組みをしています。この専門家から、報告を受ける機会もありました。

 《ヤマネコ会議は、ご当地の長崎・対馬でも、2年に1回ほど開かれる》

 飼育員として最初に対馬に行ったとき、こんなに山深い地域で、なぜヤマネコが少なくなるのかと思いました。事情を見聞きすると、多くのトラックが道路を走り、整地をしたことでヤマネコが住みにくくなっているようです。

 その後も対馬に行ったときは、野生のヤマネコをひと目見ようと、朝早く起きて、いそうな場所へ足を運びます。ですが、今まで遭遇したことはありません。それだけ少ないんですね。

 対馬の自然を眺めながら、ネコは、動物園と対馬にいるのでは、どちらが幸せなのかと、ふと考えます。

 エサがあるけれど狭い環境で暮らすのか、エサはいつも取れないかもしれないけれど、自由があるところで暮らしていくのか。

 なかなか答えはでませんが、対馬に行くと、動物園生まれの子が、野生でも生き抜けるように取り組んでいこうと、気持ちを新たにします。