『過保護のカホコ』が熱狂的なファンを生んだ理由 遊川和彦と岡田惠和が描く“純愛”の違い

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 13日の最終回放送を前に早くも「カホコロス」なんて声が挙がるほど、熱狂的なファンを生んだ『過保護のカホコ』(日本テレビ系)。ここまでの平均視聴率は11.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、飛び抜けて高いわけではないことを踏まえると、「多くの人々がハマる」というより、「一定の人々に深く刺さる」作品と言えるだろう。

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 深く刺さる理由としては、「高畑充希の熱演が素晴らしい」「竹内涼真が演じる初くんがステキすぎる」などのキャストから、「遊川和彦の脚本が抜群」「ほっこりしたり、泣かせられたり癒される」などのスタッフに関するものまで絶賛の声が飛び交っているが、いずれも納得できるものばかりだ。

 ただ、6日放送の第9話を見た私は、「遊川和彦らしい純愛セリフの応酬が刺さっているのではないか」と感じている。

■赤面を誘うストレートな愛の言葉

ーー初代(三田佳子)の病床で「まだ天国行っちゃダメだよ」「ばあばが目を覚ましたときに、みんなが幸せでいられるようにカホコ頑張るから」「カホコは、『ばあばが元気になる』って信じてるから」※カホコ、「ねえ私、ちゃんとやってこれたかしら? いい母親だった?」※初代、「地上最強の母親よ」※節(西尾まり)

ーー糸(久保田紗友)を引き留めようとして「本気でチェロ売っちゃう気? そんなに大切なもの、手放しちゃっていいのかな? 糸ちゃんのハートとか魂みたいなものがなくなっちゃうんじゃないかな?」※カホコ、「あんたは今でも奇跡を起こせる子だって信じてるよ」※節

ーー家族の問題に悩むカホコに「あきらめなきゃ、カホコにはできるとオレは信じてる」「二人で頑張るんだ。家族の問題が解決すれば、みんなにもオレたちの結婚も応援してもらえる」「そんな弱気でどうすんだよ。いつかお前言ってたろ? 家族みんなのことを『愛が詰まったすっばらしい人』だって、『今も信じてる、これからも信じ続ける』って。だからあんまり思い詰めんなよ」※初、「大丈夫だよ。初くんがいるから」※カホコ

ーーカホコと初代、最後の会話で「これからはあなたがこのうちと家族のことを守ってちょうだい。だって誰よりも一番ウチの家族のこと愛してるじゃないの」「どんなにつらくても、ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、好きな人の手を離さないで」※初代、「ばあば、大好きだよ」※カホコ

ーー初代が亡くなったあと「愛してるよ、初代。ありがとう……。愛してるよ、初代。ありがとう……」※福士(西岡徳馬)

ーーラストシーン「病めるときも健やかなるときも、愛し合うことを誓います。誓いのキスを」※カホコ、麦野

 9話だけでこれだけ多くの純愛セリフがあった。まさに、赤面を誘うほどストレートな愛の言葉。カホコの口グセである「私、こんなの初めて」も含め、できるだけ多くの純愛セリフをカホコと初に言わせることで熱狂的なファンを引きつけているように見える。

 本来これらの純愛セリフは、「それを言わせたら身もフタもないでしょ」「キレイごと過ぎると思われるのでは」という懸念があり、避ける脚本家が多い。実際、純愛セリフが多いため、初代の「大事なのは、その愛に自由があるかどうかよ。カホコから考えることを奪わないでね、泉(黒木瞳)」という名ゼリフが埋没しかけたが、遊川はまったく気にしていない。それどころか、確信犯的に純愛セリフを詰め込んでいる。

■リアルとファンタジーのさじ加減

 思えば遊川は、朝ドラのタイトルに『純と愛』(NHK)と名づけるほどの純愛論者だ。実際、近年の作品は、『〇〇妻』(日本テレビ系)、『偽装の夫婦』(日本テレビ系)、『はじめまして、愛しています。』(テレビ朝日系)と、愛の深さをはかるようなものばかりだった。

 ここで浮かび上がるのは、遊川と同世代であり、友人でもあり、互いを認め合っている脚本家・岡田惠和の存在。岡田が現在手がけている朝ドラ『ひよっこ』(NHK)と、遊川の『過保護のカホコ』は、同じ家族の純愛を描いているにも関わらず、対照的である。

 『過保護のカホコ』は、母と娘の新たな過保護スタイルや、未熟なカホコが就職できず、初代が病死するなどのリアルな世界観がベース。その中に、初代の病床で童謡・ぞうさんを歌い、死の直後に福士が「愛してる」を連呼し、カホコと初がアトリエで教会風に愛を誓い合うなどのファンタジーを織り交ぜている。

 一方、『ひよっこ』は、主要人物が死なず、これといった悪人もいないファンタジーな世界観がベース。その中に、農家の生計は苦しく、みね子の勤める向島電機は倒産するなどのリアルを織り交ぜている。

 つまりその作風は、「リアルの中にファンタジー」の遊川、「ファンタジーの中にリアル」の岡田。野球の投手で言えば、「速球でグイグイ押しつつ、変化球を混ぜて三振を狙う」タイプの遊川と、「変化球の中に速球を混ぜて、打たせて取る」タイプの岡田。だから遊川には『家政婦のミタ』(日本テレビ系)のような大ヒット作が飛び出し、岡田には『ちゅらさん』(NHK)や『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)のような人気シリーズが生まれるのだろう。

■たとえ話が増えているのはいい傾向

 最後に、話を『過保護のカホコ』に戻すと、回を追うごとに「遊川の筆が乗ってきている」と感じている。過去に何度かインタビューをしたのだが、遊川は手応えのあるときほど、たとえ話が多くなる傾向が見られた。

 実際9話では、「そうやって教師を信じてない生徒のような顔で見るなよ」※初、「私たちみたいな夫婦に何でこんなかわいい子が産まれたのって信じられなかった。もしかしたら、かぐや姫みたいにいつか私たちのもとからいなくなっちゃうんじゃないかって」※節、「蒔いた種は明日じゃなくても、1か月か1年後か、いつか絶対花咲かすって信じて頑張ろうよ、二人で」※初 などのたとえ話が見られた。

 それだけに今作の遊川ならラストシーンまで、熱狂的なファンとの信頼関係を守れるのではないか。『純と愛』や『〇〇妻』の悲惨な結末で猛批判を浴びた遊川はもういない。安心して最終回の放送を待つことができる。

■木村隆志コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月間20数本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。