米国で「アンティファ(Antifa)」という言葉がしきりに語られるようになった。アンティファとは「アンティ・ファシスト」(Anti-fascists)の略、つまり「ファシストに反対する勢力」という意味の略称で、極左の暴力的な秘密組織なのだという。

 そのアンティファがいま、米国の政治や社会で触手を広げ始めた。

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“極右勢力”に激しい暴力で対抗

 ごく最近では、8月12日にバージニア州シャーロッツビル市で起きた紛争でアンティファが重要な役割を演じたことが知られている。

 同市では、南北戦争の際の南軍司令官の猛将ロバート・E・リー将軍の銅像を撤去することを市当局が決定した。リー将軍は特に南部の白人から高く尊敬されている。市当局が撤去を決めたところ、白人至上主義とされるKKKや、ネオナチなど、超保守の極右組織のメンバーが撤去への抗議運動に加わり、紛争が起きた。

 この極右勢力に対抗して、激しく争った側に、アンティファを名乗る人間が多数いたという。現地での当時の報道によると、右派の暴力に対して棍棒やバットを振り回して最も激しく戦ったのが、黒装束で覆面のアンティファの面々だった。

 アンティファは今年1月にトランプ氏が大統領に就任した際も、就任に反対する全米各地の抗議デモで中核になった。今年2月、カリフォルニア州バークレー市で、右派の活動家たちが言論の自由を求める集会を開いたところ、やはりアンティファと称する集団から投石や殴打などの暴力を受けた。

 バークレーでは、この8月27日にも保守系の集会に対しアンティファを自称する十数人の集団が棍棒などの凶器で攻撃をかけた。さらに9月10日には、オレゴン州ポートランド市で保守派が礼拝集会を開いたところ、アンティファだと宣言する100人ほどの男女の集団に襲われた。この集団は警備にあたっていた警察官も攻撃し、警察側に十数人の負傷が出た。

 こうした騒動の結果、アンティファの名が全米に広がり、危険な極左暴力勢力というイメージを広げることとなった。

トランプ政権の誕生が刺激に

 では、アンティファという組織は一体なんなのか。

 その答えが見つからない中で、アンティファに対して、同じ左派とされる民主党リベラル系の政治家たちも警戒心を表明するようになった。

 アンティファという名称自体は、第2次世界大戦前のドイツで、ナチスの台頭に反対した実在の組織の名である。戦後、アンティファは保守系の政治家やイデオロギーに激しく反対し、共産主義に同調する極左組織として、イギリスや米国にも根を広げていった。

 そして、保守の典型とも言えるトランプ政権の誕生に刺激されて、米国の各地で新たな動きを活発にみせるようになった。トランプ大統領はシャーロッツビルでの事件の直後、「ヘルメットに黒いマスク、棍棒などその他の凶器を持って出てくるのがアンティファだ」と述べた。

 アンティファは米国で「反体制の過激な左翼」とされている。ところがここに来て 左派からも批判の声があがり始めている。8月27日のバークレー事件の後、民主党リベラル派のナンシー・ペロシ下院院内総務は、「アンティファと称する集団の暴力は許すことはできない。民主主義ではいかなるイデオロギーへの反対でも暴力的であってはならない」と非難した。

 つまりアンティファは、いまや米国政界の左右両派から糾弾される存在となったわけだ。

本部は存在せず、支部も把握できず

 ただし、アンティファの組織の実態は今なお謎に包まれている。

 まず本部が存在しない。全米各地で200もの拠点があるとされるが、支部として明確に認知できるのはオレゴン州ポートランド市内の一事務所だけだという。しかも組織の代表も名を出していない。組織の加盟者の人数も分からない。

 分かっているのは、アンティファのイデオロギー面での代弁者はマーク・ブレイ氏という政治活動家だということだ。ブレイ氏は『アンティ・ファシスト・ハンドブック』という著書を出して、アンティファの政治理念などを説明している。

 トランプ政権下の米国では、社会の分断を連想させる過激な政治勢力がますます動きを活発にさせていきそうである。

筆者:古森 義久