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互いに「ナチス呼ばわり」する米極右と極左

 ドナルド・トランプ政権誕生以来、米国内で「ナチス論争」が巻き起こっている。

 平たく言えば、「お前はナチスだ」、「何を言うのか、お前こそ、ナチスだ」という言い争いである。その一方で「ネオナチス」と「アンチナチス」同士の流血事件があちこちで起きている。

 ナチスと言えば、米国人が最も嫌悪する存在。第2次大戦で勝利した米国の最大の誇りは、ドイツ・ナチスを打ち破ったこと。それによってナチスの世界制覇を防いだという自負心がある。

 ところがトランプ政権が誕生して以来、それまで米社会の片隅に追いやられていた「ネオナチス」が息を吹き返している。

 人数はそう多くないが、バージニア州シャーロッツビルで起こった騒乱は、元々「ネオナチス」が南軍のリー将軍像撤去に抗議して行った集会が誘因だった。

 なぜ、「ネオナチス」が出没し始めたのか。

 ホワイトハウスには極右であることを自他ともに認める連中*1が入り込み、大統領の傍で政策立案にアドバイスする者まで出ている。

 トランプ大統領をホワイトハウスの外から支援する応援団的極右メディア「ブライトバート・ニュース」も存在感を増している。「ネオナチス」はトランプ周辺に「ナチスの匂い」を感じ取ったのだ。

*1=トランプ大統領のアルタエゴ(分身)と言われたスティーブ・バノン氏は8月末、首席戦略官を更迭されたが、バノン氏が連れて来たステファン・ミラー補佐官(兼首席スピーチライター)ら極右分子は今も健在なのだ。

 極右の胎動に極左も敏感な動きも見せ始めている。「反ナチス」集団、「アンティファ(Antifa=Anti-Fascist)」がそれだ。黒覆面姿で極右の集会に殴り込みをかける。

 「シャーロッツビルの騒乱」はまさに両者による「睨み合い」に端を発していた。極右に対する善良で非暴力の反対派市民の反発と片づけるほど単純なものではないのだ。

トランプ曰く「極右の中にも尊敬できる人物はいる」

 「ナチス」とは何か。一般の米国人が考えるのは、「白人至上主義者」(白人優越主義者)、人種差別主義者、反ユダヤ・反黒人・反有色人種(むろん日本人も含まれている)主義者。

 彼らの主張は、一言で言えば、こうだ。

 「今の米国はユダヤ人に牛耳られ、同性愛主義者や非キリスト教のイスラム教徒や有色人種移民に寛容すぎる、異常な社会だ。建国当初の欧州系白人を中心とした国家改革すべきだ」

 主要メディアは、こうした「ネオナチス」は、極右であり、狂信的ナショナリストだとレッテルを貼っている。

The Big Lie: Exposing the Nazi Roots of the Americn Left by Dinesh D'Souza Regnery Publishing 2017


 ところがトランプ大統領は、「シャーロッツビルの騒乱」直後、両者を喧嘩両成敗。極右の中にも「尊敬すべき人たちはいる」と言い切った。

 主要メディアはむろん激しく大統領を叩き、共和党内でも抗議の声が上がった。トランプ大統領は前々から「白人至上主義的人物」だと憶測されていた。

 それがこの発言で「白人至上主義者に同情的な人物」という烙印を押されてしまった。

 「リベラル系メディアの中には、トランプ大統領周辺に漂う『白人至上主義的雰囲気』をとらえて<トランプ、トランプ支持者、共和党保守はナチス容認者だ>と激しく批判している。これが一般市民の間に浸透すれば、来年の中間選挙で共和党は極めて不利になる」(米主要紙ベテラン政治記者)

 こうした空気を一掃しようと試みた保守派識者の本がこのほど出版された。「The Big Lie: Exposing the Nazi Roots of the American Left」(真っ赤な大嘘:米左翼のナチス・ルートを暴露する)。

 本書のセールスポイントはこうだ。

 「トランプがナチス的だと宣伝するリベラル派の主張は『真っ赤な大嘘』だ。歴史を紐解けば、民主党リベラル派ほどナチスと持ちつ持たれつの関係にあった米政治勢力はなかった」

「一般大衆は『真っ赤な大嘘』ほど信じる」

 著者はインド系米人ジャーナリストでドキュメンタリー映画制作者のデニシュ・デサウザ(56)氏。

 インド・ムンバイ生まれ。17歳の時、交換留学生として米国に留学。ダートマス大学で英米文学を専攻したのち、数々の論文を書いて、論壇では高い評価を受けてきた。

 プリンストン大学発行の月刊誌「ザ・プロスペクト」の編集長などを経て、レーガン政権では政策担当顧問に抜擢された。

 その後、保守本流の識者としてリベラル批判の本を次々と出す一方、ドキュメンタリー映画制作にも携わってきた。一時期、キングズ・カレッジ学長も務めている。

 タイトルの「Big Lie」(真っ赤な大嘘)という表現は、ヒトラーの自伝「我が闘争」の一節に出てくる。著者は、「今、米国に『真っ赤な大嘘』がまかり通っている」と切り出す。

 「一般大衆は小さな嘘よりも大きな嘘の犠牲になりやすい。なぜなら一般大衆は小さな嘘なら見抜くことができるが、嘘があまりにも大きいとそれが嘘だと言うことに躊躇するからだ」

 「一般大衆は真っ赤な大嘘が嘘だとは思わない。虚偽であるとの疑いは頭の片隅にも浮かばないし、大上段から構えた厚かましい大嘘を疑えるだけの能力を持ち合わせていないのだ」

 「いい例がユダヤ人に関する大きな嘘だ。一般大衆は、ユダヤ人と言えば、みな大資本家だ、いや皆ボリシェビキだという嘘を信じてしまう」

 「ユダヤ人の男は、金髪の北欧女性に強い性欲を持てないないほどの不能者だと信じているようだし、ユダヤ人はそもそも文化的には取るに足りない民族だとか、世界制覇を常に狙っているとか、根拠のない嘘を信じ込んでいる。これはみな大きな嘘だからだ」

 そして、この種の「真っ赤な大嘘」があたかも「真実」であるかのように受け入れられていると、著者は断定する。その1つがトランプ大統領に関する「真っ赤な大嘘」だと指摘する。

 「リベラル派、特に左翼の連中は、トランプはヒトラーやムッソリーニの米国版だと言う。共和党はナチスの生まれ変わりだと言って憚らない。この『ファシズム・カード』は、トランプはファシストだから早く追放しろという保守派への脅しとしてしばしば使われている」

 「彼らは、ナチズムが究極的にはヘイトクライムに通じる憎悪を具現化させたものだと主張する。私はこの左翼どもの邪悪な主張を歴史的事実を提示することでひっくり返してみせる」

 「私に言わせれば、民主党、特にそのリベラル派の連中こそ、これまでナチスの脅迫手法を散々使ってきた真のファシストなのである」

「ニュルンベルク法」は「ジム・クロウ法」を“盗作”

 何やら、にわかには信じがたい主張なのだが、著者は過去におけるナチスと民主党(特に南部民主党)との関わり合いについて、以下のように列挙している。

、1935年にナチス党が制定した「ニュルンベルク法」は、米国南部11州(民主党)が1876年から1964年まで堅持してきた人種差別を盛り込んだ「ジム・クロウ法」からヒントを得たものだ。

 後者にある「非白人」(黒人、インディアン、黄色人種など)を前者は「非アーリア人種」(ユダヤ人)に差し替えただけである*2。

*2=この分析は、イエール大学法科大学院のジェームズ・ホイットマン教授の研究を引用している。「Hitler's American Model: The United States and the Making of Nazi Race Law」, James Q. Whitman. Prinston University Press. 2017

、ヒトラーが検討する政策の1つとして考えていた「レーベンスラウム」(生存圏)構想は、1800年代、民主党が決定していた原住民居留地(インディアン居留地)政策を参考にしていた。

 同構想自体はヒトラー政権発足以前からあったが、ヒトラーはポーランドを併合してドイツ人を移住させ、東方への防壁にすることなどを考えていた。

、民主党のウッドロー・ウィルソン第28代、フランクリン・ルーズベルト第32代大統領は、社会主義やファシズムの強い影響を受けていた。

 特にウィルソン大統領はヒトラーやムッソリーニが作った宣伝機関を真似たメディア監視機関を堂々と設置した。

 自分に反対するメディアや反対勢力に圧力をかけたり、脅迫したりした。反抗勢力を拘束したり、投獄したりしたのもウィルソン大統領だ*3。

*3=ウィルソン大統領の反対勢力への抑圧政策については、保守派コラムニストのジョナ・ゴールドバーグの著書、「Liberal Fascism :The Secret History of the American Left, From Mussolini to the Politics of Change」, Jonah Goldberg, Crown Forum, 2009が引用されている。

「左翼ファシズムへの転換点はオバマだ」

 著者は前述の保守系メディア、「ブライトバート・ニュース」とのインタビュー*4でさらにこう述べている。

 「今、米国には根深いファシスト的傾向が見受けられる。皮肉なことにそのファシスト的傾向は反ファシストを錦の御旗にして行進している」

 「言い換えると、奴ら(リベラル派)は反ファシズムの衣をまといながらトランプや保守勢力を追い落とそうとしているのだ」

 「リベラル派の牙城となっている学界が言い出し、それが主要メディアやハリウッドによって伝播されている『真っ赤な大嘘』とは、トランプがあたかもヒトラーの再来であるかかのような主張をしていることもある」

 「確かにトランプは『米国第一主義』を唱えるナショナリストだ。ところが多くの知識人までがナショナリスト=ファシストだと思っている」

 「冗談ではない。ナショナリストはファシストではない。そんなことを言ったらガンジーもマンデラもチャーチルも皆ナショナリストだ」

 「かっての米国は、保守とリベラルが激論を戦わしてきた。1980年代のロナルド・レーガン(第40代大統領)とティップ・オニール(民主党重鎮、下院議長)とは激しくやり合った」

 「議論が終わり、政策が決定した後、2人はビールを飲み交わす仲だった。こうした保守とリベラルとの関係は消滅してしまった」

 「左翼ファシズムへの転換点はバラク・オバマ(第44代大統領)を選んだ時点からだった。民主党は、ビル・クリントン(第42代大統領)までは良かった。ところがオバマになって民主党はギャングスタ―イズム(暴力団的志向主義)に大きく舵を切った」

 「ヒラリー・クリントン(前民主党大統領候補)もオバマと同じ穴の狢に過ぎなかった。反対する勢力に対して連邦捜査局(FBI)を使って盗聴し、国内歳入庁(IRS)を使って銀行口座をチェックするなどファシスト的手法を行使したのは奴らだった」

*4=http://www.breitbart.com/radio/2017/08/04/dinesh-dsouza-big-lie-fascism-crept-deeply-bowels-left/

 本書を通読して感ずるのは、激しさを増す米極右と極左の「ナチス呼ばわり」の根っこの深さだ。

 1つだけはっきりと分かったことは、これほどヒトラーを忌み嫌う米国人と米社会の土壌には密かに、しかし間違いなく染み込んでいるヒトラーとの「腐れ縁」だ。

 罵り合う極右も極左もその体内にはヒトラー的「白人至上主義」が潜んでいるのだ。これは非白人である第三者には分からぬブラックホールなのかもしれない。

筆者:高濱 賛