元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。

経済規模を考えれば、日本は富裕層が少ない国と言われています。今回はその理由を見ていきましょう。

日本の富裕層は50世帯中1軒

 野村総合研究所(NRI)の調査によると、日本の純金融資産1億円以上の富裕層、および超富裕層(同5億円以上)は全世帯の2.3%。町内に家が50軒あったとすれば、そのうちの1軒が「1億円の壁」を突破していることになります。

 これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれでしょうが、保有資産の規模で見ると、富裕層と超富裕層の資産は合計272兆円。これは全体の19.4%にもなります。つまり、50世帯中1軒の世帯が、その町の住民の全資産の2割もを保有しているのです。

 富裕層を専門とするプライベートバンクにしてみれば、過剰ともいえるほどの時間とお金とマンパワーを特定の顧客に投入したとしても、その資産の一部でも自社に預け入れてもらうことができれば十分に元が取れるわけです。金融各社が富裕層ビジネスに力を入れる理由がおわかりいただけると思います。

 ちなみにボストンコンサルティンググループ(BCG)が2015年におこなった世界の家計金融資産の報告書(Global Wealth 2015 : Winning the Growth Game)では、日本の富裕層世帯は110万世帯。国別の富裕層世帯数では1位が米国で約690万世帯。2位が中国で360万世帯。日本は世界で3番目に富裕層世帯が多い国です。

日本の富裕層を減少させた2つの「リセット」

 世界で3番目という事実は誇るべきことですが、人口比で見ると日本の富裕層は決して多いわけではありません。

 日本の富裕層世帯率が2%ほどなのに対して、米国の富裕層世帯率は5.5%(アメリカの世帯数と先ほどのBCGのデータから算出)。2倍以上の差がついています。世界一富裕層の世帯率が高いスイスともなると、13.5%。人口比で日本の6倍も富裕層がいる国ということになります。経済規模を考えれば、日本は富裕層が少ない国とすらいえるのです。

 その理由は、日本ならではの「2つのリセット」にあります。

 1つ目のリセットは、太平洋戦争後にGHQによっておこなわれた財閥解体、農地解放、預金封鎖、財産税の課税といった大改革です。
 戦前まで日本の長者番付の上位を占めていた財閥系家族に対しては、企業の解体と株の没収(強制的に安値で放出)をおこないました。また、地主に対しては農作業に適していない山間部を除き、わずか1町歩(3000坪)までの所有を認める以外は全て国が買収し、小作人に譲渡したのです。

 さらに、戦後の日本では戦時国債の返済や兵士への恩給を支払うために政府がお金を刷りすぎ、物価が数百倍に膨れ上がるインフレが起きます。このインフレを抑制するために日本政府は銀行の預金を封鎖し、新しい貨幣(新円)を発行しました。そのとき、封鎖された預金から新円で引き出しできる金額は、個人の場合、月額で世帯主300円、世帯員1人各100円のみとされたのです。1946年の国家公務員の初任給が約500円ということを考えると、その影響の大きさがよくわかると思います。

 また、財産税は1946年当時に10万円以上の財産を保有する個人に課せられたもので、その最高税率はなんと90%(保有資産1500万円以上)に達しました。これにより、旧財閥系家族をはじめとする富裕層の財産は激減してしまうことになります。

 以上の結果、当時の日本人の現金資産の多くはいったんリセットされてしまい、結果として富裕層が減少することになったのです。

 もう1つの「リセット」は、高すぎる相続税です。
 日本で相続税が初めて導入されたのは1905年(明治38年)。そして戦後のGHQは財閥解体を目的として相続税の最大税率を90%まで引き上げる法改正をおこないます。

 これは農地解放、財産税などと同じく、明らかに富裕層の財産を没収するための税率だったわけですが、サンフランシスコ講和条約によって占領を終えた後も日本の相続税は高いままになり、2003年の税制改正までは最大で70%もありました。

 2003年の税制改正で相続税が最大50%に下げられたときはようやく日本も普通の資本主義国になるのかと期待もされましたが、2015年から55%に引き上げられています。

 私たち日本人にとっては、相続税があるのは当たり前だという感覚が一般的だと思います。でも、実は相続税がない国というのは、ざっと挙げるだけでも、イタリア、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、オーストリア、スウェーデン、メキシコ、中国、タイ、マレーシアと、多数あるのです。

 米シンクタンクのタックス・ファウンデーションが2015年に発表した各国の相続税率調査によると、OECD加盟国の相続税率ランキングで日本の55%は世界1位。OECD加盟国の単純平均は15%にすぎないそうです。

「富める者が持たざる者を助けるのは当然だ」という意見もあるでしょう。そこを議論するつもりはありません。しかし、世界的に見ても日本はどこまでも富裕層に厳しい国であることは間違いありません。そしてそんな日本に嫌気がさし、海外に移住する富裕層が多くいるのも事実です。

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