【母乳110番の現場から】完母ママだって外出OK!悩めるママに送る「魔法の合言葉」【特集:公共の場での授乳問題(10)】

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「完全母乳だから出かけられない?そんなことないのよ」と、にこやかに語る先輩ママがいます。

「ママだって出かけたい」はワガママ?授乳期のお出かけは控えたほうが良いのか、産婦人科医に聞いた

【母乳110番】代表で、母乳育児書のロングセラー『おっぱいとだっこ』等の著者でもある竹中恭子さん。体験談も交えつつ、心が軽くなるヒントを語っていただきました!

はるか遠くの授乳室から戻らないママ……実際にあったストーリーから見えてくることは?

――「公共の場での授乳」について悩む方の多くは、いわゆる“完母”のママたちです。赤ちゃんがお腹を空かせたら、母乳しか選択肢のないママたちは、家に閉じこもるしかないのでしょうか。

竹中さんは「完全母乳でも出かけられる」とおっしゃいますが、本当のところはどうなのでしょうか。

竹中恭子さん(以下、竹中): まずは、私の体験を聞いていただきましょうか。

ママ友たちと公共施設の芝生のお庭で子どもを遊ばせながら、お弁当を食べた時のことです。

授乳服を着ているママは肌が見える心配がないので、授乳しながらパクパクモグモグやっています。

授乳服は持っていないけれど、いつも外で授乳し慣れているママは、食べ終わってから周囲を見回し適当に服をめくって、子どもの頭をそこに突っ込み隠しながら授乳。ケープ授乳のママも、適当に食べながら。

人それぞれの光景、だったのですが。

その中に一人「授乳室でないと授乳できない」というママがいまして。仮にAちゃんママとしましょうか。

そのAちゃんママが恐る恐る「授乳室ってあるんでしょうか」と聞いてきました。

「たしかそっちの右の奥に『いつでも授乳にお使いください』って書いてある『保育室』があったよ」とみんなが言うので、その日は子連れでなくて身軽だった私が彼女に付き添い、1階にある保育室へ行きました。

貼り紙、ありました。確かにそう書いてあります。でも「お使いになる時は1階受付事務までお声かけください」とも書いてあります。

そこで受付に行って聞くと…普段であれば自由に入って授乳に使わせてもらえるというその保育室は今「イベントのための一時保育に使用中」だそうで。

もちろんスペースは十分にありますが、ママから離れて預けられている子どもたちがいるところに部外者親子が入っていって、しかも目の前で授乳をするのはどうなんだろう、という問題があるらしく。

たしかに子どもたちが自分のママを思い出して泣き出したら保育士さんも困りますし、何より子どもがかわいそうですから、事務室と保育室で相談してくださったようなのですが、やがて、
「そういう時は、こちらにご案内することになっているそうです。お待たせしてすみません」
と言われて、職員の方も珍しい事態に戸惑いながらではありましたが、2階の事務室に案内されました。

2階の事務室は、建物のずっと先の奥まったところにあります。Aちゃんママと一緒に「こちらで授乳できるお部屋に案内していただけると聞いたのですが」と声をかけると、女性職員の方が立ち上がり、案内してさらに奥に連れていってくれました。

「スミマセン、すみません」と恐縮しつつ職員の方について行くAちゃんママと別れ、私は1階に下りて庭に戻りました。

ほかの友人たちに「遅かったねえ、どうだったの?」と聞かれたので「1階の保育室は保育中で使わせてもらえなかったの。でも2階になんかあるみたいで、案内してもらって行った」と報告。

その後しばらくみんなで談笑していましたが、Aちゃんママが、かなり時間がたっても戻って来ないのですね。

やっとたどり着いた会議室でビックリ!そして授乳を済ませたママと赤ちゃんは?

竹中:なかなか帰って来ず「これじゃおしゃべりが終わって、みんな帰る時間になっちゃう」「それは寂しいよね」というわけで、赤ちゃんを抱いたほかの友人と一緒に迎えに行きました。

「ずいぶん遠いんだね」「うわ〜、会社みたい」「静かだねえ」「そうなのよぉ」なんて話しながら階段を上り、しんとした廊下を抜け、案内された場所に着いたのですが。

その、会議室のドアの前で見たものにビックリ!

イベント用の告知板が立てられていて、そこに「授乳で使用中。入室禁止」と、太字マジックで書いてあったのです。

――告知板に、太字マジックで、ですか。

竹中:よく「講師控室」とか貼ってあるような、立看板ですよ〜。思わず友人と顔を見合わせました。

「こ、これ、なんかコワイね」「うん……使わせていただけるのだから有難いとは思うけど」

そしてノックして中に入ると、Aちゃんママが、

「授乳できたのはいいんだけど子どもが寝ちゃって、連絡もできなくて……どうしようかと思っていたの。バギーを持ってきていればそこに移したりもできたんだけど、荷物も多いから動けなくて」と、困惑顔で座っていたのです。

「よかった〜、戻ってこないからどうしたかと思ったわ」「じゃあ私が荷物を持つから、抱いて戻ろうか」

そっと赤ちゃんを抱き上げて、事務室にお礼を言って3人で庭に戻りました。

Aちゃんはこの後、すぐ起きてしまったのですが(笑)

母乳の赤ちゃんを見たことがある人ならご存じだと思いますが、赤ちゃんは起きると再びおっぱいを欲しがる!んですね。

でも、もうみんな帰る時間なので、もう1回あらためて会議室を借りにいくことはせず、泣いているAちゃんを代わる代わる抱っこしてごまかしている隙に、空腹のままだったAちゃんママにもお昼を食べてもらって、それからバギーに乗せて帰りました。

この経験から「完母ママがお出かけするヒント」について、私は学んだのですよ。

母乳育児は「不規則授乳」が原則!授乳室などの設備が“使えない”時はどうする?

――「完母ママがお出かけするヒント」ですか?それはぜひ伺いたいです!

竹中: 完母の赤ちゃんの場合、子連れで出かける時、

「時間や場所などに“制限”のある物理的な枠組みは使えない」または「使えないことが多い」

と思っていたほうが、いいのではないかな。

先ほどお話しした体験についても、今回「公共の場での授乳」論争の舞台となったレストランといった場所ではなく、最新設備を整えた公共施設でしたが。

母乳育児の場合「不規則授乳」が基本なので、いつでも欲しがる時にあげる、自然にまかせたスタイルになると思うのですが、そのために、使える時間や場所に“制限”のある環境は、たとえそれが「授乳室」だろうと「保育室」だろうと「会議室」だろうと、あっても使えない、もしくは使いにくい、ということになります。

――「あっても使えない」ことは、自身の体験から考えても往々にしてありますが……でもそれを言ってしまうと、お出かけのハードルが上がってしまうようにも思うのですが。

竹中:もう一度、Aちゃんママの体験を思い出してみてください。

みんなから遠く離れて、一人ぼっちで会議室での授乳。寝てしまった子を抱いて、動くに動けなかったAちゃんママ。その時はかわいそうでしたが、合流後はみんなで抱っこしてあやしている間に、お昼を食べることができました。

乳児期のママって、誰かが赤ちゃんを抱いてくれて、それこそ両手が空いた状態で食事できることなんて滅多にないでしょう?慌ただしくはあったけれどAちゃんママ、「うれしい〜」と言って、おいしそうに食べていました。

完母の赤ちゃんでも抱っこであやしながら、しばらくの間、気持ちをおっぱいではないことに向けることができたりする。結局のところ、使えるのは……

赤ちゃんをコントロールすることは誰にもできない!たとえママでも無理なものは無理

竹中:「使えるのは『人の手』である」
ことが多いのです。

――「人の手」ですか。

竹中:母乳育児の場合、繰り返しになりますが、時間も場所も問わずしょっちゅう泣かれるので、規則で使い方がカッチリ決まっているような物理的な枠をいくら用意しても使いにくい、もしくは使えないことが多いことを実感しています。

それは例えば会社が授乳時間を提供してくれたり、授乳室を用意してくれたりしても、残念ながら赤ちゃんのニーズがそこに、ちょうどよくはまってくれないのと同じです。

子連れ出勤で有名になった授乳服ブランド「モーハウス」の本社では、授乳時間も決めていないし、授乳室もないけれども、事務室の後方にカーペットが敷いてあって、そこで授乳や眠くなった子どもの寝かしつけをできる仕組みなのだそうです。

「働きながら授乳できる」し「授乳しながら働ける」。逆にそのくらいでないと、母乳育児中のママにとっては現実的ではないということ。

つまりポイントは「場所」や「枠組み」ではなく、「人」と「人を動かす仕組み」なのです。

ママがお出かけの時にイライラしたり焦ってしまったりするのはある意味当然で、どうしてそんなことになるかといえば、大人が用意した環境に赤ちゃんが満足して収まっていてくれないから。

でも、発想を逆転させてみると「赤ちゃんのニーズに当てはまらない枠は使えない、もしくは使いにくい」のです。

こればっかりは、赤ちゃんが悪いワケでも、ましてやママが悪いワケでもありません。「赤ちゃんのニーズ」はまさに自然そのものですから、明日のお天気を決められないように、そもそもコントロールしようがない(笑)

つまり「子どもの躾に問題がある」ワケでも「ママの段取りが悪い」ワケでもないのです。

このことを覚えているだけでも、気持ちが楽になるママもいらっしゃるかもしれませんね。

――決してママが“駄目母”なワケではないのですね。肩の力が少し抜けました。

○○すべき!に縛られ過ぎない方がいい?赤ちゃんのニーズに寄り添うということ

――でも、そんな予測不可能な「赤ちゃんのニーズ」に、どうやって応えたらいいのでしょう?ましてや公共の場となると、どれだけ臨機応変に動けるかが勝負になってしまいそうで、それはそれでプレッシャーを感じるのですが。

竹中:「赤ちゃんのニーズ」にどう応えるか、不安を覚えるママも多いですよね。

実は、私自身は一人目の母乳育児中、アルバイトの口があって、子どもが生後3カ月の時に働き始めました。まだ元気だった姑が子どもを預かってくれて、冷凍母乳を託して出勤して。

でも、娘がガンとして哺乳びんから飲んでくれなくなってしまって……どうしたかというと、困った姑がオンブして娘を連れてきました。

姑には、足が悪いのに申し訳ないことをしたと思いますが…。

で、事務所は男性もいる部屋だし無理なので、翌日から昼休みに駅ビルにある授乳室で待ち合わせて、そこで授乳しました。それが赤ちゃんにとっても母体である自分にとっても、心身ともに非常にスムーズだったので驚きました。

毎日通ってくれた姑はといえば、いまを去ること60年ほど前に乳児期の子どもをおぶって、合間に授乳を挟みつつ働いた経験もある人だったので、違和感はなかったらしいのですが。

でも、私にとっては「こういう方法があるのか」とビックリ!

あの時の娘にとっては、ママに会える時が飲める時、飲みたい時で、そうでなければ「要らない」「飲みたくない」という状況だったのに、大人が「○○すべき」にこだわり過ぎるあまり「いま飲ませなきゃ!哺乳びんで飲め!飲め!」だなんて、赤ちゃんの要求とは見当違いのことをしてしまっていたのですね。

そんな思い込みによってお互いによりしんどくなったり、解決方法を見失ったりしてしまうことって、結構あるような気がします。

言い換えれば、困っているのは「何時間ごとに飲ませなければいけない」とか「そのためにはこのツールを使わなきゃ」とか、そんな決まりごとに凝り固まっている大人のほうで、もっと赤ちゃんの様子を見て、赤ちゃんの要求に合わせることが必要、なのでしょう。

今で言う「変則授乳」は赤ちゃんの側から見ると変則でもなんでもない。ママがいる時は飲めて、いない時は飲めない、というだけ。

そんなことを痛感したのを、よく覚えています。

そして同じことが、外出中のママにもいえるのではないでしょうか。

ママにできることは意外にシンプル!それでも苦しくなってしまったら?

――ママが「赤ちゃんはこうあるべき」「お世話をする大人はこうあるべき」にがんじがらめにならず、どんな時も、もちろんお出かけの時も、ただ「赤ちゃんのニーズ」に寄り添うということでしょうか。

竹中:ママは、お出かけしたい時も、またせざるを得ない時も「赤ちゃん」のニーズをよく見てあげて。

よく見て、なんていうと何だかすごーく大変そうに思えるかもしれませんが、授乳して欲しければ赤ちゃんはすぐに欲しそうな様子を見せますから(笑)その要求にできるだけ合わせてあげたらいいのです。

「できるだけ」ですよ。授乳は一人じゃできません。赤ちゃんとママと両方の合意がないと成り立たない行為なのですから、ママの無理のない範囲でいいのです。

「授乳服」や「授乳ケープ」などを活用してもいいでしょうし、「スリング」や「ストール」で隠してもいい。

そしてもうひとつのポイントは、しっかり授乳タイムを取れないような場では「ごまかす」ことを覚えることです。先ほどの話のように、おっぱいを飲みたくて泣き始めた完全母乳の赤ちゃんだって、短時間なら抱っこされてあやされて、ごまかすことができます。

よく「赤ちゃんに泣かれると、母乳が出ない僕じゃどうしようもないから預かれないよ」という新米パパがいますが、「そうでもない」ってベテランパパやベテランおばあちゃんは、みんな知っていますよね(笑)

抱っこして歩き出したり、お外を見せたりお話をしたり、歌を歌ってゆすってあげたり。

空腹の赤ちゃんでも、多少の時間は「ごまかす」ことができる。

最近は電話相談で「『あやす』ってどうやるんですか?」と聞かれるような時代ですが、昔の人は、たぶんごく普通に母乳の赤ちゃんをそうして育てていたのだと思います。

時間や場所に“制限”のある枠組みについては「赤ちゃんのニーズ」または「ママのニーズ」に合った時、有り難く利用させてもらいましょう。いろいろな“制限”で思うようにならないのではないか、そんな不安を感じる時には?

「人の手」を借りる。そして「ごまかす」ことを覚える(笑)

この2つはですねぇ、親の必須技かも!くらい重要ですよ。

そもそも“赤ちゃんのお弁当”でもあるママが、たった一人で空腹の赤ちゃんと常に向き合おうとするから、ごまかしが効かずに苦しくなるのです。

ママひとりで赤ちゃんとお出かけするのが難しいと感じた時は、パートナーや家族や、お友だちに声をかけてみましょう。

地域の育児サークルでもいい。特に子どもは子どもが来るとじっと見ますよね。まだ一緒に遊べない時期の赤ちゃんでも、ほかに子どもがいると飽きないし、ごまかせる面があるんですね。

「一時保育」の利用や、乳頭混乱を防ぐ「コップ授乳」「スプーン授乳」についても同じ考え方をしてもらえたらと思うのですが、それは別の回のインタビューで、コツも含めてご説明させていただくとして。

孤独に思い詰めないで、ぜひとも「人」を頼ってみて。

誰よりも大切な「赤ちゃん」のニーズに、ただただ寄り添って、便利なグッズも活用しながら、授乳室などの枠組みは自分たちが便利な時だけ利用させてもらって、困ったら自分だけで頑張ろうとしないで、人の手を借りる。

そして、究極の合言葉は「ごまかす」(笑)

いっぱい考えちゃうと、ものすごく難しい問題のように思えてきちゃいますが、ママにできることって、意外にシンプルなのではないでしょうか。

それでも、もしかすると誰にも相談できないで悩んでしまうことも、時にはありますよね。そんな時には【母乳110番】にお電話ください。私たちが、応援していますよ〜!

記事企画・協力:光畑 由佳

【取材協力】竹中 恭子(たけなか きょうこ)氏 プロフィール

【母乳110番】代表・電話相談員。イラストレイター・ライター。1男1女の母。『おっぱいとだっこ』『おっぱいとごはん』『家族のための〈おっぱいとだっこ〉』の母乳育児3部作ほか、著書・共著多数。

『おっぱいとだっこ』は第9回ライターズネットワーク大賞受賞。2016年には電子化もされ、海外でも好評を博している(電子書籍版『おっぱいとだっこ』)。近年は水彩画家「武蔵野つきこ」として『授乳美人』作品シリーズも発表。 公式ブログも。

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