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AUTOCAR Awardsにおいて、最も栄誉ある個人賞「イシゴニス・トロフィー」。ジャガー・ランドローバー(JLR)の並外れた成長を指揮し、かつてない成功へと導いたCEO、ラルフ・スペッツこそ、この賞に相応しい。

text:Steve Cropley/Matt Prior

イシゴニス・トロフィー、ラルフ・スペッツが受賞

ラルフ・スペッツがCEOとしてソリハルに帰還した7年前のあの日のことは、JLRに在籍する人々にとって今なお語り草となっている。

当時、その場に居合わせた人物は語る。「彼が、JLRの成功を望むのは、英国が自動車産業を必要としているからだと言ったのです。そして、仕事の手を早めようと呼びかけました」


スペッツが、たった7年で成し遂げた極めて大きな進歩は、短期間の成果としては並外れたものだ。

今回わたし達は、レンジローバーの最新モデルであるレンジローバー・ヴェラールの生産ラインを目にする機会に恵まれ、そのインプレッションも実施することができた。

レンジローバー・ヴェラール試乗


ヴェラールは、小ぶりなイヴォークと大きなレンジローバースポーツの中間に位置するモデルだ。つまり、レンジローバーのモデルラインに存在するギャップが、このクルマによって埋まることになる。

全長4.8mのこのクルマ。メカニカル的にはレンジローバー・イヴォーク「プラス」というよりも、レンジローバー・スポーツ「マイナス」と言った感が強い。スポーツほど大柄ではないものの、ジャガーXE、XF、F-PACEと同じ、縦置きエンジン用のアルミニウム製プラットフォームをベースとしている(イヴォークは横置き)。
 

動力性能を支えるアルミ/マグネシウム

ヴェラールのシャシーには、ジャガー以上にアルミニウムが多用された。ボディの81%がアルミニウム製である。重量がかさむ鉄は、重心バランスを考え、主にリアの荷室フロアに使用。エンジン周りには、フロントの軽量化のためにマグネシウム素材を用いた。


その結果、一番大きなディーゼル仕様を除く全てのモデルが、1900kgを切る車重を達成した。

そして原点とも言えるオフロード走行にもフォーカスをあてている。ジャガーと同じ手法を用いて、フロントにはダブルウィッシュボーン、リアにはマルチリンクのサスペンションを組み合わせたが、さらに剛性を上げるために補強を施しているのだ。

上げ潮に乗るジャガー・ランドローバー

2010年以来、JLRの生産台数は4倍の60万4000台まで拡大した。これは、少し前なら社内の誰も話題にしなかったような数字である。しかも2017年は、EU離脱騒動もどこ吹く風とばかりに新記録を達成する勢いであり、慎重なことで有名なスペッツが、100万台規模というわれわれの希望的観測を否定しないほどだ。「スロバキア工場が完成した暁には、それに近い数字になるでしょう」と彼は語る。

これほどの成長を続けるJLR。その新作のヴェラールに選んだエンジンは、6種類(日本仕様は4種類)から選択が可能だ。オフロード走行性能を高めるエア・サスペンションは、V6エンジンモデルのみに提供されるが、4気筒モデルはコイルスプリングが標準となる。ヴェラールはオフロード性能を積極的に求めたというよりも、ランドローバーが自らも言っているように、最もダイナミクス性能を高めたモデルなのだ。

早速ヴェラールに乗り込んでみよう。
 

シート/パッケージ その出来は?

ダッシュボードは、レンジローバーならではの、レザー張りの肉厚なブロックが横断している。

そのダッシュボードには、高解像度のタッチスクリーンが2段並ぶ。ステアリングホイールに備わるボタン類が高い機能性を有していることは、特筆すべき点だ。


フロントシートはゆったりとしており、スライド式のアームレストを装備。リアシートの広さも十分である。一般的な身長のドライバーが適切なドライビングポジションを取っても、後席の乗員にはゆったり座れる空間が確保されるはずだ。

トランクスペースは、ジャガーF-PACEのように広々としている。その容量は、ライバルのポルシェ・マカンが500ℓであるのに対し、673ℓに達する。ただ、たとえフルサイズのレンジローバーではないとはいえ、スペアタイヤが標準のタイヤサイズではなく、スペースセイバータイヤなのは好きになれない。一応、オフローダーなのだから。

路上での振る舞い ランドローバーか、ジャガーか

180psの直列4気筒ディーゼルエンジン車と、すべてのガソリンエンジン車が、8速ATを介して駆動される。全モデル4輪駆動で、ランドローバーの伝統であるパーマネント方式ではない。

このクルマもジャガー同様後輪駆動をベースとしているため、必要に応じてチェーンドライブによって前輪へとトルクを配分する仕組みなのだ。
 

オフロード走破性を検証

エアサスペンションの車高は、テレイン・レスポンスシステムによって上げることが可能だが、センターデフのロックはできない。また、前後タイヤへの駆動配分は電子制御により行われ、自ら50:50の駆動分配にするといった選択は不可能だ。

リミテッドスリップデフはオプション設定。リアに装着すれば、より高い走破性と、トラクションを得ることができるだろう。

オフロード走行性能

・最低地上高:
コイル・サス仕様213mm、エア・サス仕様251mm
・アプローチアングル:24度
・デパーチャアングル:27度
・ランプブレークオーバーアングル:20度
・水深渡河性能:
コイル・サス仕様600mm、エア・サス仕様650mm


その走りについて、ジャガー・ランドローバーのエンジニアに、レンジローバーのように仕立てたのかを尋ねてみた。彼は「そうです」と答えていた。たしかにそうなのだが、ジャガーのテイストも感じさせるクルマである。

ここでいくつか注記を。今回は、ジャガーF-PACEでは選択できないエア・サスペンションを装備したディーゼルV6(日本未導入)とガソリンV6の2車種を試した。よって、コイルサスペンション仕様の4気筒モデルなら、よりジャガーテイストを感じる可能性もあるが、どうだろうか。 

「洗練」 他にはない方向性

ヴェラールで走り出すと、ランドローバーのロゴが付いた運動性能の高いクルマだと感じるが、ジャガーにはない方向性で洗練されていると思う。

とても良くできている。ポルシェのロゴも、アウディのロゴも、似つかわしくない。アウディQ5の競合車種というよりは、Q7のクラスが比較対象に相応しい仕上がりだ。その点では、ボルボXC90はエンジンの洗練度合で一歩譲る。


つまりヴェラールは、俊敏な運動性能というよりも、全体的な洗練度の高さが際立っている。ステアリングは軽くて気難しさがなく、乗り心地はどんなスピードでも快適だ。

エンジンノイズは遠くでささやく程度。ATも非常にスムーズだ。マカンやXC90とは異なる乗り味を作り出し、レンジローバーに近い水準に達している。見た目の洗練度合も素晴らしい。

ランドローバー・ヴェラール 「買い」か?

ランドローバーの開発者は、非常に多くのコストと労力、素材を投入することで、同じアーキテクチャをベースとしながらも、より広い空間を生み出すことに成功した。

その点は重要だ。プラットフォームやアーキテクチャなどに縛られた単一的なクルマを作ることは簡単である。ただし、車種を増やすことはできても、共通のシステムを内包したクルマとなってしまうだろう。

しかしながらランドローバーは、このヴェラールを、プラットフォームの規格を超えたクルマに仕上げたのだ。


2015年にナイトの名誉称号を受けたスペッツは、この年に親会社であるタタの経営陣に加わり、その助けもあるとはいえ、JLRの利益は今や年間£15億(2132億円)を超える。さらには、英国で研究開発に最大の投資を行っており、過去2年で£60億(8528億円)を超えるそれは、今も減る気配を見せない。


その成長を受けて、JLRの従業員数は5年間で1万5000人から4万2000人へ拡大。特にエンジニアの雇用に積極的で、その数は1万7000人からさらに増え続けているという。それを聞けば、レンジローバー・ヴェラールのようなモデルがどのようにして生まれたのか、納得できるというものだ。