キリンビール広域販売推進第2支社営業1部主任の梶浦卓哉さん。

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■昼も夜も「日高屋」全身全霊を捧げる

単なる取引先の域を超え、まるでハイデイ日高の“ビール事業部”の一員のようだ。

「どこかの店で『ビールサーバーの具合がおかしい』といった話があれば急行するし、一人の客としても、よく日高屋さんで食事をいただいています」

キリンビール営業1部主任の梶浦卓哉さんは、照れた表情を浮かべながら真っ直ぐ前を向き話し出す。その梶浦さんが三日にあげず足を運ぶ場所が、埼玉県大宮のハイデイ日高本社だ。ハイデイ日高が経営する「熱烈中華食堂日高屋」や「焼鳥日高」などの店舗数は400店舗を突破し、拡大路線を進める。

現在の400店舗に、ほぼ1社独占の形で生ビールを供給するのがキリンビールだ。かつてはほかのビール会社も扱っていたが、キリンビールの代々の営業担当者の努力によってハイデイ日高とのパートナーシップが強まった。

ハイデイ日高の高橋均社長と営業管理部長の渕上龍俊さんは口を揃える。

「キリンの営業担当者さんは真面目で、いつも一生懸命ですよ」

一方、ハイデイ日高について「『こんなに真面目にコツコツとやる会社はない』と歴代の担当者は口々に言います」(梶浦さん)。

体質が似通う2社。7代目の営業担当となった梶浦さんにもその真面目さは引き継がれている。ここ4〜5カ月間はハイデイ日高の400店舗突破記念のイベントの打ち合わせが重なり、大宮駅に降り立つ機会が増えた。本社だけでなく店舗に顔を出すことも多い。

2006年に入社した梶浦さんはスーパーやディスカウントストアを担当した後、居酒屋の営業やビールの輸出の仕事を経て、16年4月からハイデイ日高の担当になった。

梶浦さん以前の6代の営業担当者もハイデイ日高の要望につぶさに耳を傾け、よきパートナーとして働いてきた。例えば生ビールを注ぐサーバー。

「ハイデイ日高さんから、誰が注いでも失敗しないし、ビールを注いでいる間に別の作業ができて効率的だと、それまでのレバータイプからボタンタイプにしたいとご要望がありました。サーバー価格としては高くなるのですが、生ビールがよく出るお店から徐々にレンタルで切り替えさせてもらいました」

現在は全店、ボタンタイプが設置され、店員によって泡の量が不安定だったり、ヘタな人はこぼしたりといったミスがなくなった。

ハイデイ日高の生ビールの売り上げは、店舗数の拡大によって前年比1.2%増で推移。それは同時にキリンビールの売り上げにも比例した効果をもたらす。ところが、既存店ベースで見ると逆に1.2%減。既存店もアルコール飲料全体の売り上げは伸びている。つまり、ビールからハイボールや酎ハイへのシフトが起きているのだ。

日高屋の各店にとってハイボールや酎ハイは利益率の高いアルコール飲料だ。だがいまだに生ビールの販売量はアルコール飲料全体の4割を占めるし、1杯の粗利はハイボールより高いので、生ビールが多く売れるにこしたことはない。

そのためにビール会社ができるのは、おいしい生ビールをできるだけフレッシュな状態で提供することに尽きる。

それに関して梶浦さんが2017年、力を注いできたのが日高屋の「クオリティ(品質)」「サービス」「クリンネス(清潔)」のいわゆるQSCに対する提案だ。

「ビールサーバーの洗浄の基準についてプレゼンしたり、ネットを使ったアンケートでサービスや料理の水準を調査し、それを報告させてもらったりしました」

梶浦さんより前の営業担当者の時代も同じことはやっていたが、よりフィードバックする姿勢を強くした。

■もっと遠くまで、もっとフレッシュに

例えば梶浦さんは各店舗の洗浄状態をA、B、C、Dの4段階でランク付けし、改善ポイントをハイデイ日高に提示。それで評価の悪かった店舗は「どうしてそうなったのか」「どう改善していくのか」を改善報告書にまとめて本部に提出し、実際の改善に生かす。

よい商品と思っても市場ニーズに合わなければ売れない。真摯に市場に向き合い、市場の声に耳を傾ける。この営業の極意を梶浦さんは体現している。

今回、画期的だったのが、IoTを活用して明らかになったビールサーバーの使い方の改善だ。

評価が悪かった店舗で、ジョッキが一度に2つ置ける2口タイプのサーバーに、ビールの流れ方や洗浄の状態がわかるセンサーを取り付けて調べてみると、左右の注ぎ口のほとんど一方しか使われていなかったことが判明した。2つの注ぎ口には、別々の樽からチューブを通してビールが出てくる仕組みになっているので、あまり使われないほうの樽は空になるまでの時間が長くなりビールが劣化してしまう。

解決策としてサーバーの仕組みを少し変えることにした。一つの樽からチューブを2本出してそれぞれ注ぎ口につながるようにしたのだ。どちらの注ぎ口を使っても、同じ樽のビールが減っていくことになる。これならばビールの鮮度を保ちやすい。

真面目同士の会社の共同戦線。リニューアルしたばかりの一番搾りの生ビールをフレッシュに提供するための手筈は整いつつある。

■▼キリンビール 布施孝之社長
飲みたかったのは地元の味「ビールの魅力を再発見!」

ビール類のマーケットが毎年少しずつ小さくなっているのは、お客様がビールに対してあまり魅力を感じていないからです。

当社はビールをもっと魅力のある飲み物にし、市場を活性化していくための3つの方向性を打ち出しています。

1つ目が今進めている「一番搾り」のフルリニューアルです。90年に麦汁をつくるときに最初に自然に流れ出た麦汁だけを使うという世界に類を見ない一番搾り製法で、一番搾りを世に送り出して以来ですから、実に30年近い時を経ての大改革となります。

2つ目が、2016年からスタートした47都道府県の一番搾りです。これはお客様の「地元愛」に応えるビールです。このビールにはベースがあって、もともと全国にある9工場で「地元に合うビールはどんなものだろうか」と考え、開発したところ、お客様に大変よろこばれました。地元をよく知っている方たちに人の気質や食文化などを教えてもらいながらつくり上げました。

そして、もう一つがクラフトビール。今はまだ国内ビール市場の1%未満にすぎませんが、諸外国を見ると必ず拡大する市場です。つくり手の顔が見えたり、遊び心があったりという特徴があります。代官山に醸造所とレストランを併設した「スプリングバレーブルワリー東京」を出したところ、20代、30代のお客様があふれ、味わいを楽しんだり、料理とのマッチングを試したりしています。そういう嗜好の方たちに応えられるクラフトビール市場を21年までには3%くらいのマーケットにしたいと考えています。

 

(Top Communication 撮影=慎 芝賢)