管理職の本音は「女性部下はやりづらい」

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男女とも約9割は「女性の職場進出に抵抗感がない」と考えています。ところが女性の課長相当職以上の比率は1割強です。なぜ女性管理職が増えないのか。その背景には、男性管理職に「女性より男性のほうが仕事を振りやすい」という考え方があるようです。しかし女性部下への苦手意識をなくさなければ、自分のクビをしめるだけです。障壁を取り払うには、どうすればいいのでしょうか――。

■女性の管理職比率が著しく低いのは誰のせいか?

厚生労働省の「2015年度雇用均等基本調査」によれば、2015年度に育児休業を取得した女性の割合は81.5%に上り、平成8(1996)年度の49.1%と比べると、育児休業を取得する女性が増えていることが明らかになっています。

一方、2015度の女性の課長相当職以上の比率は11.9%、係長相当職以上の比率は12.8%にとどまり、女性の管理職比率はまだ著しく低いのが現状です。職場環境として、仕事と子育ての両立はしやすくなっているものの管理職まで登用される女性は少ないことが問題として挙げられます。

ただ、現場からは、管理職候補となる能力と意欲の両方を兼ね備えた女性が少ないという声がよく聞かれます。男性の課長相当職以上の比率が約9割であることを踏まえれば、男性管理職による女性部下の育成が課題のひとつであるともいえます。

本稿では、男性管理職による女性部下の育成を進めるために必要な3つの論点を取り上げます。

男性管理職はいかに女性部下を育成すればいいのか?

【女性部下の育成に必要なこと1:会社方針の策定や意識啓発】

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「第7回勤労生活に関する調査」(2016年9月)によれば、職場における女性の活躍に関する意識として、「女性の職場進出がもっと進むこと」については、「抵抗感がない」と回答した割合は、男性(87.2%)、女性(85.7%)と約9割に上ります。

さらに、「女性の管理職がもっと増えること」についても見てみると、「抵抗感がない」と回答した割合は、男性(86.5%)、女性(88.3%)で、ほとんど変化はありません。

男女ともに、女性が職場で活躍し管理職になることについては、非常に理解が浸透している状況がうかがえます。

■「女性管理職を増やす」ことへの男性管理職の本音は

しかし、筆者の経験に基づけば、男性管理職から次のような声がしばしば届きます。

「女性の活躍推進に関する会社としての方針や姿勢がわからない」
「女性の活躍推進に関する会社の方針はあるようだが、内容はよくわからない」

個人では女性の活躍推進が重要であると認識していても、特に会社の管理職という立場として実際に行動を起こす際には、会社が目指している方向性がわからなければどのように動いてよいかわからない。そんな本音が隠れているのではないでしょうか。

経済産業省・東京証券取引所の「2016年度なでしこ銘柄」レポートによれば、調査対象企業のうち、女性など多様な人材活躍推進に向けた方針を策定している企業は、全業種の約半数にとどまっています(図表1)。

女性の人材育成の方針がある会社は約半数

男性管理職に女性部下の育成を進めてもらうためには、まず、会社側が方針を明確に策定し、その内容を普及啓発させるための取り組みを進めることが必要です。

勤め先が従業員数300人を超える企業であれば、女性活躍推進法に基づき行動計画を作ることが求められています。企業によっては、厚生労働省の女性の活躍推進企業データベース(http://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/)で開示をしているところもありますので、まずは、そのようなサイトで調べてみることも一案です。

加えて、男性管理職側も、会社から方針の説明がないから何もしない、ということではなく、主体的に会社の方針の内容を知る努力が必要かもしれません。

■なぜ女性部下に「困難な仕事」を与えないのか?

【女性部下の育成に必要なこと2:男女別で仕事の難易度を区別しない】

公益財団法人21世紀職業財団の「若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究」(2015年)のなかで、困難な仕事の部下への与え方についての調査結果はこうです。

回答したのはいずれも男性管理職です。

●男性部下に、より困難な仕事を与えている(「どちらかといえば男性部下により困難な仕事を与えている」いう回答も含む)と回答した人:31.4%

●女性部下に、より困難な仕事を与えている(「どちらかといえば女性部下により困難な仕事を与えている」という回答も含む)と回答した人:19.6%

「管理職から期待されている」と感じる女性は少数派

さらに、同調査では「管理職から期待をされていると思いますか」と若手社員(男女)に尋ねた結果を比較しています。

「そう(期待されていると)思う」と回答した人は、
若手女性社員:17.6%
若手男性社員:28.0%

管理職から期待されていると感じている若手女性社員が少ない現状が指摘できます。

もし、実際に男性部下に比べて女性部下には難易度の高い仕事が与えられる機会が少ないのであれば、それは女性部下が成長の機会を逸失している可能性があります。仕事を与えられる女性部下の側もモチベーションが低下してしまうことが懸念されます。

筆者が過去に実施をした男性管理職研修のなかでも、新しいプロジェクトが発生したときに、リーダーとサブリーダーのアサイン状況の性別を尋ねると、多くの男性管理職がリーダーは男性、サブリーダーは女性と回答し、その逆はほとんどありませんでした。

前述したように、「女性の管理職がもっと増えること」にほとんどの男性社員が「抵抗感がない」と回答しています。そうであれば、女性部下に現時点でリーダー的役割までを任せることが困難であっても、男性管理職は難易度の高い仕事であっても、それを女性部下に割り振るような工夫や努力はもっとあってもいいように思われます。

ただし、現状、なかなかそうはできない「環境」があるようです。

■男性管理職「女性部下と仕事がやりづらい理由」

【女性部下の育成に必要なこと3:女性部下とはコミュニケーション促進】

日本総合研究所の「女性の活躍推進に関する男性管理職の意識調査結果」(2015年)によれば、男性管理職が女性部下との仕事がやりづらい理由として特に多かったのは次のような項目です。

「セクハラやパワハラに必要以上に配慮しなければならない」(57.5%)
「男性部下に比べて女性部下とはコミュニケーションが取りづらい」(29.3%)

約3割の男性管理職が女性部下とのコミュニケーションの難しさを感じている状況がうかがえます。

男性管理職は女性部下と昼食や飲み会にあまり行かない

公益財団法人21世紀職業財団の「若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究」(2015年)によれば、男性管理職によるコミュニケーションの方法として、男性部下、女性部下ともに、職場内での面談など公式な方法での差はほとんどないものの、昼食や飲み会という非公式な方法では、男性部下のほうが女性部下よりも多いことが明らかになっています。

このことからは、女性部下へのコミュニケーションの取りづらさの原因のひとつはコミュニケーションの機会が少ないことが挙げられます。

すでに一部の企業が男性管理職に対して行っている研修では、上司と女性部下のペアで参加し、コミュニケーションを増やすために上司が女性部下に昼食を一緒に行く機会を増やすことをコミットする、といったケースもあると聞きます。

昼食という手段がよいか否かは本稿では言及しませんが、コミュニケーションの機会を増やすことで解消するケースもあると感じます。

■男性管理職は女性部下の「考え方が理解できない」

一方、筆者が過去に実施した男性管理職のグループインタビューでは、多くの男性管理職が、自分の女性部下への育成や接し方に関する具体的な悩みを持っていることがわかっています。

性別が異なるがゆえに、「考え方などが理解できない」といったコミュニケーションそのものへの難しさがあるのだと感じます。ただし、グループインタビューを進めていくと、同じような悩みを持つ男性管理職同士で意見交換が始まり、共感や学びを得ることで、男性管理職自身が今後の進むべき方向性や解決策を自分なりに発見する場に出くわします。

企業側も男性管理職の意識啓発に向けて、さまざまな研修機会を提供していますが、女性部下とのコミュニケーションの質を改善していくためには、社内外を問わず、男性管理職同士で意見交換をする場を提供していくことも有効だと考えます。

女性部下の育成で自分の負担は楽になる

最後に。

女性の活躍推進に取り組む企業が増えたことで、「女性部下を新たに持つ男性管理職」や「女性部下が増えたことによる戸惑いを持つ男性管理職」も少なくないと感じます。そうしたプロセスの中で上司部下間の葛藤や軋轢も生まれるでしょう。

しかし長い目で見れば、女性部下の育成は、管理職(自分)の負担を楽にし、管理職がより付加価値の高い仕事に集中できる環境を作ることにもつながります。女性部下を育成できる管理職にいち早くなれることも、管理職自身の強みになるのではないでしょうか。

(日本総合研究所 創発戦略センター ESGアナリスト 小島 明子、日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 榎本 久代)