京都「御鎌餅」がなぜ“珍菓”なのか誰か教えて【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

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【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.13 京都「御鎌餅」】

 今回のテーマ食材は、稲を刈る昔の農民の姿が描かれた包装紙に包まれており、さらに「御鎌餅」と描かれていた。

 名前は判明した、そして名前からして餅であることも確かだ。しかしどこの銘菓なのかは見当もつかない。ヒントは稲刈りの絵だろうが、多分米を作らない県のほうが少数派だろう。農民がラ・フランスなどを刈っている絵ならかなり限定されたと思うが、このヒントは難易度が高い。

◆「生八つ橋」しか知らなかった

 ちなみにその日、我が家にはもう一つ、銘菓があった、京都に行った人から土産としてもらった「生八つ橋」だ。

 都心のアンテナショップで買ったというのでなければ、一片の曇りもない京都土産である。

 そして調べてみたところ、奇しくもこの「御鎌餅」も京都の銘菓であった。

 このたび送られてきた菓子は「大黒屋鎌餅本舗」の「御鎌餅」。店は明治30年から続く老舗である。

 よって「鎌餅も知らねえのかよ」と思われているかもしれないが、知らねえ奴の知識というのは本当に生八つ橋止まりだったりするのだ。

 そして、土産を渡す相手が、知らない奴である場合も大いにある。よって土産物というのは「そこへいった」と一発でわかるような「わかりやすさ」重視で選ばれることが多いのだ。私など無知が顔に出ているせいか、生八つ橋以外の京都土産をもらった記憶がない。

 しかし万人が知っている土産が一つでもある県はまだマシである。例えば私の故郷、山口県の銘菓は? と聞かれて何か思い浮かぶだろうか。答えは「私も思い浮かばない」だ。

◆甘さ控えめで柔らかい…万人ウケするお菓子

 ともかく、知らなかったものは仕方ないので改めて「御鎌餅」について調べることにした。

 御鎌餅自体の歴史は、大黒屋鎌餅本舗よりさらに古い。かつて京の七口(関所)の一つ、鞍馬口の茶店で出され、旅人や農民に好評だった餅を、大黒屋鎌餅本舗の初代が再現したものがこの「御鎌餅」である。

 御鎌餅は、黒糖餡を牛皮の入った餅でつつんだものである。鎌餅という名称は、稲を刈り取る鎌の形を模した細長い形状が由来だ。包装紙に稲刈りをする農民の絵が描かれているのはそのせいだ。

 餅の皮は薄めで、餡子がたっぷり入っている。黒糖餡というと過剰に甘いイメージだが、この餡は甘さ控えめである。

 餅も牛皮入りだけあって、20代で入れ歯を薦められた私にもありがたい柔らかさだ。

 味だけなら、ニッキ独特の香りがある生八つ橋より万人ウケする銘菓かもしれない。

 さすが明治から続く老舗店の商品だけあり、シンプルながら飽きの来ない味の菓子だ。

 しかし一点気になることがある。

◆シンプルな御鎌餅が「珍菓」を名乗るナゾ

 御鎌餅の箱を開けると「御鎌餅」と書かれた札状の紙が入っており、そこに赤字で「珍菓」と書かれていた。

 この文言と御鎌餅がはちゃめちゃにミスマッチなのである。

 現代で「珍菓」と言われてたら、ジンギスカンキャラメルのような、何かしら変わっている、インパクト重視のもの、もしくはド直球の下ネタ形状をしているものを想像してしまう。

 しかし、この御鎌餅は、見た目はこれ以上なくシンプルだし、味も見た目どおりの手堅い美味さなのである。「珍」という文字はあまりにも似つかわしくない。

 だが、何せ明治からある菓子である。明治の人間から見たらこの御鎌餅のビジュアルは「正気か?」というものだったのかもしれない。御鎌餅が正気じゃなかったら、大体の食い物は正気でなくなってしまうが、何かしら珍しいと思えるものだったのかもしれない。