若い女性でにぎわう東京・渋谷のカフェ「アリービーチ」。南国のような店内で、客の多くがインスタグラムに投稿する写真を撮影する(撮影:尾形文繁)

8月下旬の平日。東京・渋谷駅から徒歩5分の場所で、おしゃれなハワイアンカフェが目に留まった。「アリービーチ」というこの店の中をのぞくと、ヤシの木が並び、床は白い砂で覆われており、まるで南国のビーチにいるかのような雰囲気だ。

正午を過ぎると店内は10代後半から20代前半の女性で満席に。彼女たちは色彩豊かな店内や料理を次々と写真に収めていく。店舗を運営する岩谷雄一氏は、「5月以降はランチもディナーも予約で満席の状況だ。インスタグラムを通じて当店を知り、来店するお客様が圧倒的に多い」と笑顔で話す。

「インスタ」で目立つための消費行動


アリービーチの位置情報を見ると、たくさんの写真が投稿されている(インスタグラムより)

10〜20代女性などに絶大な人気を誇る、写真共有SNS「インスタグラム」。国内ユーザー数は1600万人を超えた。写真が主役ゆえ、ユーザーはカラフルな食べ物や風景を撮影し、美しい写真で「インスタ映え」を狙う。写真投稿のために話題の飲食店やスポットに出向く、といった消費行動が生まれている。

アリービーチは2017年1月に開業したばかり。店内の様子がインスタグラムで拡散され、人気スポットになった。開業前から写真映りを意識し、商品や内装の色彩にもこだわったという。10月には同じ渋谷で2号店をオープンする予定だ。

実は、このようなインスタグラムを活用しようという動きは個人経営のカフェだけにとどまらない。今、多くの企業がインスタグラムを販促に生かそうと試行錯誤している。

今年の夏休みも活況を呈したハワイ旅行。旅行大手のエイチ・アイ・エスには、通常より価格が2割高いにもかかわらず、「参加者数が想定を超えている」(会社側)という旅行商品がある。


写真投稿を目的としたツアーの人気が高い(写真:エイチ・アイ・エス)

今年3月に発売した、インスタグラムへの写真投稿を目的としたツアーだ。当初はハワイを含む5方面のみの催行だったが、好調な売れ行きを踏まえ、8月時点で10方面まで拡大した。

一方、外食大手のすかいらーくが目をつけたのは、パンケーキだ。インスタグラム上で検索すると200万件近い写真が出てくるほど、撮影対象として人気を博す。

色合い、素材、ボリュームがポイント


すかいらーくの新業態が看板商品に据えたパンケーキ。うずたかく盛られたホイップクリームがポイント(写真:すかいらーく)

6月、同社が横浜・本牧に開業したハワイアンレストラン「ラ・オハナ」では、これを看板商品に据えた。パンケーキの上に彩り鮮やかなフルーツを並べたほか、うずたかくホイップクリームを盛り付けた。「SNSでの拡散は、どんな口コミよりも早い。商品の企画では色合い、素材、ボリュームを意識している」(マーケティング本部の上野茂樹氏)という。


真っ黒なカップヌードルがインスタユーザーに受けた(写真:日清食品)

黒色の背景にカラフルなイラストをちりばめたパッケージが目を引くのが、日清食品が7月末に発売した「カップヌードル イカ墨ブラックシーフード ビッグ」だ。付属のイカ墨ペーストをかければ、中身まで真っ黒になる。

「今までの商品と違う見栄えのものを出そう」という藤野誠マーケティング部長の号令の下、企画段階からインスタ映えを狙い、もくろみどおりに発売直後から商品写真の投稿が相次いだ。

予想外にインスタグラムで拡散された商品もある。コンビニ大手のローソンが7月に発売した、「ぷるるん水ゼリー」だ。当初の販売目標は発売後6週間で30万個だったが、ゼリーの揺れる動画が拡散し注目を集め、結果的に45万個を売り上げた。


写真ではなく、ゼリーをぷるぷると揺らす動画がインスタグラム上で大きく拡散(写真:ローソン)

インスタ映えの効果に期待し、「今年のハロウィーンのスイーツには、紫や黒といった色彩を積極的に盛り込む」(デイリー商品部の高尾憲史担当部長)方針だ。

他方、インスタグラムでの拡散を狙うだけではなく、写真内の商品をその場で購入できるサービスを導入した企業もある。「マウジー」や「スライ」などの若い女性向けカジュアルブランドを展開するアパレル大手、バロックジャパンリミテッドだ。

インスタ写真に写っている服が買える

同社はインスタグラムの写真で紹介した服を購入できるサービス「AMEE+(アミープラス)」を、今年4月末に導入した。インスタグラムのアカウントに記載されたURLをクリックすると、アミープラスに移動。インスタグラムと同じ写真が並んでおり、写っている商品を販売しているECサイトへのリンクが現れる。

いちいち商品の問い合わせやウェブでの検索をしなくて済む。「インスタグラムから自社ECへと最短で送客する仕組みだ」と、開発を担当したバロックの山粼浩史専務は解説する。

ただ、見栄えや販売手法を重視するだけでは消費者に飽きられてしまう。SNSマーケティングを支援するアライドアーキテクツの藤田和重氏は、「インスタグラムは非常にパーソナルなSNSだ。ユーザーの趣味・嗜好ごとに特化した商品開発で共感を呼ぶ必要がある」と指摘する。万人受けばかり狙っていては、消費者の支持を集めるのは難しい。