ドラギ総裁はユーロ高を懸念し、9月7日でもハト派的な姿勢だったが……(写真:AP/アフロ)

9月7日、ECB(欧州中央銀行)は理事会で主要政策金利を予想通り据え置くことを決定した。政策ガイダンスの変更もなかった。

今回の理事会で筆者が最も注目していたポイントは以下の3点で、(1)ECBスタッフによる経済・物価見通しの修正、(2)QE(量的緩和)縮小についてのドラギ総裁のコメント、(3)ユーロ高けん制への言及、であった。

ドラギ総裁のハト派的発言でもユーロが買われる

(1)は、ユーロ高による物価に対する下押し圧力を考慮し、コアHICP(消費者物価)前年比上昇率の見通しを2018年は1.4%から1.3%へ、2019年については1.7%から1.5%へとそれぞれ引き下げた。一方で、足元の景気拡大を考慮し2017年の実質GDP(国内総生産)前年比成長率の見通しを1.9%から2.2%へと大幅に引き上げた。


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(2)に関し、マリオ・ドラギ総裁は「QE に関する多くの事がおそらく10 月に決定されるだろう」「10 月に詳細の準備ができていなければ、決定を延期する可能性もある」と述べるにとどめ、具体策の発表はなかった。

(3)については、ドラギ総裁は「為替レートは政策目標ではないものの、成長やインフレにとって非常に重要だ」と述べ、ユーロ高に対する警戒感を示した。なお、政策金利については、「QE 終了から"well past (かなり後)"まで現在の水準に据え置かれる」との見解が示された。

債券市場ではこれを「ハト派的(金融引き締めに慎重)」と受け止めたようで、ドイツ国債の利回りは大幅に低下。10年債利回りは、一時0.3%を割れる場面もみられた。

一方、これと反対に為替市場ではユーロが上昇。ユーロドルは年初来高値を更新し、1.20ドル台後半まで上昇した。ここのところ、金融政策に関わる報道に対して、為替市場がやや過剰反応する傾向がみられる。

たとえば、8月25〜27日に米ワイオミング州ジャクソンホールで行われたカンザスシティ連銀主催のシンポジウムが挙げられよう。FRB(米国連邦準備理事会)のジャネット・イエレン議長、ECBのドラギ総裁の講演に注目が集まったが、いずれも金融政策についての言及はなかった。

本来であればノーイベントであるはずだが、市場では一部、イエレン議長が利上げに言及するのではいかとの見方もあったため、年内利上げへの期待が後退する中、ドルが下落。一方、ドラギECB総裁は講演後の質疑応答で、ユーロ圏のインフレ率はまだ目標に達しておらず金融緩和は正当化されるとの、どちらかといえば「ハト派的」な見解を示した。しかし、ユーロ高に対する警戒感は示さなかったことから、むしろユーロは上昇した。

このように、イエレン議長が金融政策に言及しなかっただけでドルが売られたり、ドラギ総裁はハト派的な発言だったにも関わらずユーロが買われるといった為替市場の反応には、やや深読みしすぎで違和感を覚える。

同シンポジウムのみならず、ここのところの当局者の発言や議事録への市場の反応を見る限り、市場参加者は、(1)米国経済はさほど強くなくインフレは低迷したままで、米国の年内利上げは困難、(2)ユーロ圏経済は堅調で、ECBは量的緩和縮小に動いたうえで、早期に利上げを開始する、との見方に大きく傾いているようだ。

投機筋は依然ユーロを大きく買い越し

実際、シカゴIMMで投機筋のユーロポジションは依然大きく買い越し(8.6万枚)。先物市場の米国債ポジションも買い越し額は高水準のままだ。金利差でみれば、米10年債利回りは、低いとはいえ2%、独10年債利回りは0.3%で、本来であればドルの方にマネーが集まりやすい環境だ。果たして、ユーロはこのまま対ドルで上昇し続けるのだろうか。

過去にも、こうした金利差では説明できないユーロ高があった。2013〜14年にかけてのユーロドル上昇局面だ。2013年5月22日、バーナンキFRB(当時)議長が、「状況改善の継続を確認し、持続可能と確信できれば、今後数回の会合で資産買い入れを縮小することは可能だ」と述べ、米金利が急騰。一方、独市場金利の上昇は小幅にとどまったため、米独金利差は拡大したが、為替はユーロ高・ドル安となった。

ここで参考になるのは、ソロスチャートである。世界的に著名な投資家、ジョージ・ソロス氏が考案、参考にしているとされる。中央銀行の資金供給量を比較したもので、一般的には「マネタリーベース比率」が用いられることが多いが、ここでは分かりやすく「バランスシート比率」を用いることにする。


FRBのバランスシートは、2013年当時、量的緩和によって拡大していたが、ECBのバランスシートは欧州債務危機が一服したところで返済され、縮小した。したがって、中央銀行の資金供給量で比較した場合には、FRBのほうが資金供給量は多く、ソロスチャートは右肩上がりとなっており、これと同時にユーロ高・ドル安が進行しているのが見て取れる。足下ではECBが「緩和からの出口」という金融政策の大きな転換点に差し掛かっていることが強く意識され、ユーロが一本調子で上昇している。

今は反動買い、ユーロドルはそろそろ頭打ちに

昨年の英国民投票が「Brexit(英国のEUからの離脱)」というサプライズの結果をもたらしたこともあり、今年は特に仏大統領選挙、独連邦議会選挙などの政治イベントが警戒され、ユーロは年初から軟調に推移。IMMポジションを見ても、投機筋は4月まではユーロを売り越していた。こうした一方向に偏った見通しが修正される時の相場のうねりは大きくなるため、しばらくユーロドルは上昇基調となりそうだ。

しかし、経済ファンダメンタルズ(経済成長率、物価、失業率など)は米国の方がユーロ圏より強く、その点で、ECBの金融政策、緩和からの出口戦略のペースがFRBに先行することはないだろう。9月19、20日に行われるFOMC(米連邦公開市場委員会)では、FRBは資産の縮小を決定する公算が大きい。したがって、金利差でみても、バランスシート較差の観点からも、一方的なユーロドルの上昇が続く可能性は低いとみている。