オバマ、ブッシュ氏にあって、トランプ氏にない大統領として重要な資質

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【ワシントン・AP通信】 白人至上主義者らによる集会で殺害された女性の母親であるスーザン・ブロ(Susan Bro)氏に対し、トランプ米大統領は慰めの言葉一つかけることもできない。

 彼女によると、亡くなったヘザー・ハイヤー(Heather Heyer)の葬儀が行われた16日にホワイトハウスから何回か電話連絡を受けたという。しかしその後、トランプ大統領が「双方」に非があると発言するのを聞くことになる。

 彼女は、18日に行われたテレビインタビューで「私の手を握り、申し訳ありませんでしたというお詫びの言葉で、この件を終わりにすることはできません」と話している。

 大統領は一般的に、国家の危機もしくは悲劇という瞬間において、少なくとも短い間ではあるが政治の皮を脱ぎ捨てることがある。団結と慰めに向けて大統領が持つ大きな訴求力を利用し、人間性、アメリカ人としての共通の結びつきを市民に呼び起こそうとするのだ。

 9・11の同時テロ発生後、ジョージ・W・ブッシュ大統領がニューヨークの瓦礫の山の上に登り、メガホンで演説したのは有名な話である。また、バラク・オバマ大統領は、サウスカロライナ州チャールストンでの人種差別的な犯行動機による銃撃事件で殺害された黒人牧師の追悼の場で賛美歌「アメイジング・グレイス」を歌った。

 ところが最近の大統領とは異なり、トランプ氏はこうした任務を果たすのに悪戦苦闘している。

 彼は折に触れて、政治について語る(ボーイスカウト団員や沿岸警備隊卒業生といった人たちに、選挙の勝利後、メディアが大統領を追い落とそうと必死になったことを思い出させたりした)。そしてコアの支持者に向けて訴え続け、残りの人たちへのアピールには同じほどの努力を注がなかった。昨年、彼の辛辣な発言に嫌気がさして投票をしなかった有権者の勢力は、ホワイトハウス在任7ヶ月経っても弱まることがなかった。大統領支持率が30%台で低迷している理由の一部はそこにある。

 シャーロッツビル事件に対するトランプ大統領の発言は、「人種差別主義者を喜ばせ、少数民族の涙を誘い、多くのアメリカ人の心を悲しませた」と、2012年の大統領選共和党候補ミット・ロムニー氏は18日、Facebookに投稿した。

 そして多くのCEOたちがトランプ大統領の発言後に背を向けたことで、彼はホワイトハウスのビジネス協議会を解散した。芸術とヒューマニティに関する大統領諮問委員会(Committee on the Arts and Humanities)メンバーは全員が辞任した。多くの慈善団体は、トランプ氏が所有しフロリダ州にある「マール・ア・ラーゴ」リゾートでのイベントを中止したクリーブランド・クリニックに続いた。さらに、トランプ大統領への協力意思のあった複数の共和党議員たちも大統領を痛烈に非難している。例えば、テネシー州選出のボブ・コーカー(Bob Corker)上院議員は17日、大統領の「国家の特性(character of the nation)」に対する理解が伝わっていないと発言した。

 ホワイトハウスは20日、12月に行われる「ケネディ・センター名誉賞」を祝福するイベントにトランプ大統領夫妻が欠席し、「受賞者が政治問題に気を削がれることなくお祝いできるようにする」と発表した。一部の受賞者は、式典の一環として慣例となっているホワイトハウスでのレセプションに欠席する意向を表明していたのだ。

 シャーロッツビルの危機以降、共和党とホワイトハウスの多くの人が揺れ動く中、大統領自身は、ニュージャージー州ベッドミンスターにあるゴルフクラブから18日開催の国家安全保障会議出席のためにキャンプデービッドに向かい、その後、ゴルフクラブに戻っていた。その2日目、トランプ大統領は一般の前に一切姿を現さず、19日には公式の予定を入れなかった。

 そしてまたもや、トランプ大統領は自身の考え方を示すのにTwitterフィード任せにした。17日に南部連合のモニュメントに対する支持を表明したのち、翌日のメッセージには国の強い安全保障に向けた必要性のメッセージのほか、支持者たちは大統領を見捨てていないと改めて発言した保守派のトークショーホストのリツイート等が掲載された。

 多くのアメリカ人の怒りを買い、被害者の母親ブロのコメントにつながった15日の記者会見に関して、トランプ大統領は後悔の念を明らかにしていない。スティーブ・バノン元主席戦略官は 、トランプ大統領の発言を政治的に巧みな表現として支持した数少ない人物の1人だった。トランプ大統領の「アメリカファースト」の衝動を共有し、和を乱す人物だったバノン氏は18日に解任された。

 いずれかの時点でのトランプ大統領によるシャーロッツビル訪問があるか否かについて、ホワイトハウスは何もコメントしていない。

 政権メンバーの中には、大統領の通常の役割に踏み込もうとした人もいた。レックス・ティラーソン国務長官は18日、人種差別主義は「悪」であり、「憎悪はアメリカの価値とは相いれない」と語った。

 大統領就任間もない頃、トランプ氏自身がいかに対立を引き起こす人物であるかを示す事例がある。そして、最も厳粛な瞬間でさえ、彼にとってはうまく相手に手を差し伸べるのが困難であるかを示す例もある。

 大統領と娘のイヴァンカ・トランプは2月1日、イエメンでの戦闘で命を失ったアメリカ海軍特殊部隊所属ウィリアム・ライアン・オーウェンズ(William “Ryan” Owens)氏の遺体の帰還を見守るためデラウェア州のドーバー空軍基地をひそかに訪問した。しかし、悲しみに沈む遺族の心情は複雑だった。

 「この件について騒ぎを大きくしたくないと関係者には伝えましたが、良心に従って大統領とは話をしませんでした」と、亡くなった海兵隊の父親ビル・オーウェンズ(Bill Owens)氏は後にマイアミヘラルド紙に語った。

 しかし今月下旬、ライアン・オーウェンズ氏の未亡人であるキャリン(Carryn)氏は、トランプ大統領の議会演説の場に立ち会った際、大統領から謝意を示されたうえで「ライアンが遺したものは永遠に刻まれる」という言葉を聞いて涙を流した。

 トランプ 大統領は、時として柔和な一面を示すことがあった。彼がシリアにミサイル攻撃を命じた理由の1つは、「罪のない、小さな乳児」たちの画像だった。シリアのアサド大統領による所業とアメリカが結論づけた、化学兵器による被害を目にした後のことだった。

 戦没者追悼記念の日にアーリントン国立墓地にいたトランプ大統領は、海兵隊の小さなレプリカの制服に身をまとった6歳の子どもが語る父親についての話に優しく耳を傾けていた。この少年がまだ生まれたばかりの頃、訓練中の事故で父親を失ったのだった。

 そして、トランプ大統領は、同名の子息が国内で不法に殺害されたジャミエル・ショー(Jamiel Shaw)氏にも優しく寄り添っていた。

 次期大統領に選ばれた彼はオハイオ州立大学に向かった。それは、1人の男が車を群衆の中に突入させ、その後ナイフで殺傷した事件のあった10日後のことだった。この事件では13人ほどが負傷し、キャンパス内にいた警官が犯人を射殺した。

 トランプ 氏は当時、警官および複数の被害者と個人的な立場で会っている。そのうちの1人、トランプ候補に投票しなかったマーク・コーンズ(Marc Coons)氏は、当時の状況について、心配顔のトランプ氏はソマリア難民だった犯人にしか関心がないのではと気になっていたという。

 「彼は何もひどいことは言いませんでした。その点は評価できるのですが」と、コーンズ(30)は語った。彼は肩の近くに切り傷を負ったが、今では回復している。しかし今でも忘れられない瞬間は、トランプ候補と一緒に写真を撮っているときに訪れた。大統領就任前のトランプ氏は彼に、「車でやられたのかナイフでやられたのか」と聞いた。その際、「車(car)」を動詞にし、「車でやられた(carred)」と表現した。

 コーンズは、「少し無神経だなと思いました。ただ聞き流しました」。

本稿執筆に際してはAP通信社のモニカ・マーサー(Monika Mathur)氏より協力をいただいた。
By JULIE BYKOWICZ
Translated by Conyac