『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』(文芸第三出版部・編/講談社)

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 1987年、綾辻行人のデビュー作『十角館の殺人』をきっかけに巻き起こった本格ミステリの再興ムーブメント=「新本格」が、今年9月で30周年を迎える。

 それを記念して新本格を長年支えてきた講談社より、書き下ろしミステリ競作集『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』(文芸第三出版部・編/講談社)が発売された。

 参加作家は綾辻行人、歌野晶午、法月綸太觔、有栖川有栖、我孫子武丸、山口雅也、麻耶雄嵩の7名。新本格の洗礼を受けたファンにはこの顔ぶれだけで“買い”の一冊だが、同ムーブメントが起こったのは現在10代、20代の読者が生まれるよりも前のこと。新本格といわれても分からない方もいると思うので、同書のレビューに先立ってあらためてその流れをふり返っておこう。

 1980年代後半、魅力的な謎とその論理的な解決を重視した“本格ミステリ”は、時流から外れたものとしてジャンルの隅に追いやられ、絶滅の危機に瀕していた。そうした状況に対して立ち上がったのが、本格ミステリを愛してやまない若き書き手たちである。

 87年9月、当時大学院生だった綾辻行人が、島田荘司の推薦を受けて『十角館の殺人』でデビュー。新本格の先陣を切る。翌88年9月には歌野晶午が『長い家の殺人』で、10月には法月綸太觔が『密閉教室』で相次いで世に出た。89年には1月に有栖川有栖の『月光ゲーム』、3月に我孫子武丸の『8の殺人』が、10月に山口雅也の『生ける屍の死』が刊行されている。そこに今邑彩、芦辺拓らが続き、91年5月には当時21歳の麻耶雄嵩が『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』で鮮烈なデビューを果たす――。

 ミステリを語るうえでは欠かせない人気作家、重要作が相次いで現れたこの数年間は、いまふり返ってみてもなんとも刺激的だ。謎と論理の面白さを前面に打ち出した新本格は読者の心をつかみ、やがて巨大なムーブメントへと成長。ラノベやコミックにも影響を与えながら、エンターテインメントの流れを変えていった。

 さて、このほど刊行された『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』は、新本格を代表する7人が「名探偵」をテーマに腕を競った一冊だ。

 収録順に紹介すると、麻耶雄嵩の「水曜日と金曜日が嫌い――大鏡家殺人事件――」はおなじみメルカトル鮎が活躍する短編。山口雅也の「毒饅頭怖い 推理の一問題」は著者が近年意欲を見せている落語ミステリ。我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」は推理するAIが実用化された社会を描いている。有栖川有栖の「船長が死んだ夜」では臨床犯罪学者の火村が、法月綸太觔の「あべこべの遺書」では推理作家の綸太觔がそれぞれ難事件に挑む。歌野晶午「天才少年の見た夢は」は近未来を舞台にした異色の戦時下ミステリ。王道から実験作まで、ミステリ好きには見逃せない作品が並ぶ。そしてラストを飾るのが綾辻行人の「仮題・ぬえの密室」。新本格30周年を飾るにふさわしい、万感胸に迫る逸品だ。

 バラエティ豊かな作風が楽しめる本作は、まさに現代本格ミステリのショーケース。これからミステリを読んでみようというビギナーにも、しばらくミステリ読書から離れていた新本格世代にも最適の一冊といえる。

 若くして本格ミステリの歴史を切り拓いたレジェンドたちは、今なお現役として野心作を発表し続けている。その枯れることなき“本格魂”に、本書でぜひ触れてみてほしい。

文=朝宮運河