この写真を見れば、マネがエデルソンにスパイクを見舞ったように見えるが、映像を振り返れば、セネガル代表FWは確かにボールを追っていることが確認できる。 (C) REUTERS/AFLO

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 現地時間9月9日に行なわれたマンチェスター・シティ対リバプールの5-0という大差を伝える『メール・オン・サンデー』紙には、「グレート・エスケープ(大脱走)」の見出しが躍った。
 
 リバプールが屈辱の大敗から逃れられなかった一戦だったが、マンチェスター・CのGKエデルソンが大事に至らなかったという意味合いで、英紙は「大脱走」と綴ったのだろう。サディオ・マネとの接触プレーで顔面をスパイクで削られたブラジル人守護神だったが、幸運にも骨折などの大怪我には至らなかった。
 
 英国メディアは、エデルソンと衝突したマネの退場を巡って意見が真っ二つに割れている。
 
 衝突の瞬間を捉えた写真を見ると、さながら顔面へのカンフーキックだが、映像で確認すれば、マネの目は相手GKではなく、ボールだけを見ていたことがハッキリと分かる。

 ともに解説者を務めているネビル兄弟も、兄のガリーが「おかげで試合が台無し。馬鹿げている」と、レッドカードは行き過ぎとの立場をとれば、弟のフィルは「レッドだね」という具合だ。
 
 英国内各紙の論調をまとめれば、高級紙日曜版の『サンデー・タイムズ』にも、「空飛ぶスパイク」といった表現があったように、相手選手の顔の高さまで足を上げた危険行為で、一発退場は止むを得ないというものになるだろう。
 
 ワールドカップ決勝など幾多の名勝負を裁いてきたハワード・ウェブ元審判は、「レッドには値しないという声の多さが信じ難い」とコメントしている。
 
 対して巷の声はというと、筆者の散歩コースにあるフットサルコートで順番を待つ草サッカーの「猛者」たちの間では、「サッカーはコンタクトスポーツだからイエローで十分」という意見が思いの外に多かった。
 
 元イングランド代表のアラン・シアラーも、解説を務める『BBC』の番組「マッチ・オブ・ザ・デー」で、「FWなら競りにいってもらいたい場面だ」と発言。同番組司会のガリー・リネカーと同僚だったイアン・ライトに、「自分も行くだろう?」と、半ば強制的に同意を求めてもいた。
 
 回答を求められた元FWの両者も、リネカーは「話にならない判定」、ライトは「先にボールに触れさえすれば、がら空きのゴールが目の前にある」と応え、退場処分となったマネに同情している。
 とはいえ、元リバプールのCBジェイミー・キャラガーのように、「ボールだけしか見ていなかったとしても、危険な行為に変わりはない」という識者の意見ももっともだ。切り傷だけで済んだとはいえ、エデルソンが顔から血を流して担架で運ばれる映像を伴えば、さらに説得力を増す。
 
 マネに対するレッドの是非は、どれだけ論じても決着はつきそうにない。現役時代と変わらずクールなティエリ・アンリが、「不運な五分五分の競り合い」と表現していた通り、ペナルティーエリアから飛び出してきたGKの前で、ボールを足先に掛けてゴールを狙おうとしたFWのプレーは、白黒がつけ難いグレーな世界だ。
 
 事実、翌日のスウォンジー対ニューカッスル(0-1)では、ニューカッスルのウインガーのマット・リッチーが相手CBの顔付近まで足を上げて接触(実際には肩)したが、まるでリプレーを観ているようなこの場面では、イエローで済まされている。
 
 但し、マネの退場は大敗のきっかけではあっても、リバプールの直接的な敗因ではなかったことだけは明白だ。
 
 4バックが国内紙で平均4点程度の低評価を受けた守備陣は、10人になる10分以上前の24分にケビン・デ・ブルイネに先制点をアシストされた頃から、相手に易々と切り裂かれていた。18歳の俊英SBトレント・アレキサンダー=アーノルドは、手前のセンターハーフにも、隣のCBにもサポートされていなかった……。
 
 今シーズンのリバプールが、28年ぶりのリーグタイトルを獲るつもりであれば、意識の薄さなどによる守備の弱さが招く極度の不安定さから、一刻も早く“脱出”する必要があるだろう。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。