白鵬、稀勢の里、鶴竜が休場する”異常事態”となった大相撲秋場所。3横綱が初日から休場するのは昭和以降で初めてのことで、その分、優勝争いが大混戦になることが予想される。


9月5日の連合稽古で、高安(右)に7勝4敗と勝ち越した豪栄道(左)

 そんな本命不在の秋の両国で、虎視眈々と賜杯を狙っているのが、6度目のカド番を迎える大関・豪栄道だ。ファンが期待するのは、同じくカド番で迎えた昨年の秋場所で初優勝を飾ったシーンの再現だろう。

「自分でもわからない力が背中を押してくれた気がします。そういう勢いがないと、優勝、ましてや全勝はできないと実感しました」

 豪栄道がそう振り返る、涙で賜杯を抱いた秋から1年。昨年と同じく”瀬戸際”で土俵に挑むことになったが、「昨年と同じでゲンがいいというふうに、プラス思考でいきます」と、2度目の頂点に向けて前を向く。


 初優勝からここまでの道のりは過酷だった。勢いに乗って初の綱取りに挑んだ九州場所は、初日から5連勝するも、終盤に失速して9勝6敗に終わる。2場所連続優勝はならず、綱取りには失敗したが、低く鋭い立ち合いには「手ごたえがあった」と、さらに飛躍できる自信を感じていた。

 しかし、年明けの最初の稽古に”落とし穴”が待ち受けていた。1月2日の出羽海一門の連合稽古で、ぎっくり腰になってしまったのだ。歩くことも難しい状態で初場所を強行出場し、11日目に勝ち越しを決めたものの、翌12日目の遠藤戦で右足首のじん帯を負傷。13日目の稀勢の里戦から休場を余儀なくされた。

 綱取りに挑んでいた稀勢の里が相手だっただけに、「オレが阻止してやる」と闘志をみなぎらせていたが、当日の朝に目が覚めた時はまったく右足が動かず、無念の休場となってしまった。「前日まで出る気満々だったので、あの休場は本当に悔しかった」と、今でも唇を噛みしめる。

 その悔しさを晴らそうと、地元・大阪の春場所で再起を期したが、体の状態は万全というにはほど遠かった。結局、6日目から休場となり、初めて2場所連続で休場するという”どん底”を味わった。

 初優勝の歓喜から、わずか半年で叩き落とされた地獄。精神的には苦しかっただろうが、豪栄道は一切、愚痴をこぼさなかった。稽古場ではケガの回復具合を見ながら黙々と稽古を続け、「やれることだけはやらんと。腐ったら終わり」と自分に言い聞かせて汗を流した。

 先場所は7勝8敗と負け越したが、立ち合いの当たりの強さや相撲内容は悪くなかった。夏巡業でも精力的に稽古を重ねると、場所前には時津風部屋と二所ノ関一門の連合稽古で大関・高安らと胸を合わせ、「いい感じできています」と話すように、順調な調整ができている。

 昨年の秋も、夏巡業と場所前に内容のある稽古を重ねたことが優勝につながった。カド番であることを含め、1年前を彷彿(ほうふつ)とさせる状況に、豪栄道は「優勝しかありません」と、口調は静かながら熱い想いを口にする。

 実は豪栄道には、さらなる発奮材料がある。秋場所13日目の9月22日に、ジュニア向けの初の自伝『すもう道まっしぐら!』(集英社みらい文庫)が出版されるのだ。同書では、小学1年生から始めた相撲で、栄光と挫折を繰り返してきた”土俵人生”を赤裸々に明かしているが、本場所の相撲でも子供たちを勇気づけたいと意気込む。

「子供たちに、あきらめてはいけないということを伝えたいですね。つらい時を我慢して、何かを続けていればきっと、次につながると思う。自分も、小4のわんぱく相撲で1回戦負けした次の年に優勝するなど、子供の時から浮き沈みが激しい人生でしたから。一度くらいつまずいても、あきらめないでほしい。辛抱すれば、いいことがあると信じてほしいんです」

 豪栄道にとって、この1年はまさに”浮き沈みの激しさ”を象徴するものとなった。それでも、数々の苦難に耐え、稽古場から逃げずに精進を重ねてきたところに、大きなチャンスが回ってきた。

 唯一、横綱として秋場所に出場する日馬富士は、両ヒジと両ヒザにケガを抱える”満身創痍”の状態で、安定感に乏しい。場所前の仕上がりを見た親方衆からは「(豪栄道の)優勝もある」という声も上がっている。しかし、豪栄道が周囲の声に浮き足立つ様子はない。胸に誓うのは、「自分の相撲を取り切る」こと。ただ、それだけだ。

 遠ざかってしまった横綱への想いも、「大関である以上、上を目指さないと意味がありません。それには、やはり優勝しないと話にならない。すべてはそこから始まりますから」と自らに言い聞かせ、闘志を燃やしている。

 我慢すればきっと次につながる――。秋場所は初日で黒星を喫する苦しいスタートになったが、自伝に込めた想いを実現すべく、豪栄道の巻き返しが始まる。

■大相撲記事一覧>>