音楽はAIとどう関わっていく? ジェイ・コウガミ氏がライブチケット販売やLANDRを例に考察

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 コンピューター上で人間と同等の知能を実現させる、人工知能=AI。近年では自動運転技術に使われたり、将棋でプロ棋士と対戦して勝利するなど、年々進化を遂げ、様々な場で活用されている。音楽に関連したAIの活用法でいうと、作曲やスマートスピーカーのイメージが強いが、AIの可能性はもっと幅広い。7月からは一部のプロ野球球団でAIを使ってチケットの値段を変動させる取り組みがスタートするなど、AIとエンターテインメントの連携がより注目されはじめているのだ。(参考:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO18921630V10C17A7EA1000/)

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 そこで海外の動向にも詳しいデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に、AIと音楽業界の未来について聞いた。まずジェイ氏は、AIが特定の領域でしか使われていない現状を指摘し、日本時間9月13日に発表される新型iPhoneでも重要な機能になると教えてくれた。

「AIは新型iPhoneの大きなテーマの一つにもなりうると思います。例えば、Siriを今後どうしていくのか、というのも課題の一つです。何かを検索するときの一機能としてAIを使うのと、AIが音楽などをレコメンドするというのは同じようで全く異なる仕組みで、Appleが今後目指していくのは後者だと思います」

 続けて韓国ではAIと音楽の連携を強めようとする動きが活発だと教えてくれた。

「韓国ではアメリカのAI専門企業・ObENの支援を受けて、SMエンターテインメントが香港にスタートアップ・AI Stars Limitedを立ち上げました。同社ではAIを使って、アーティストやコンテンツをよりリスナーに訴求するテクノロジーを開発しているようです。具体的にはスマートスピーカーにK-POPアーティストの声が使用されてアーティスト自らがライブをレコメンドするなど、ファンとのインタラクションが増え、よりエンターテインメントに特化した取り組みが予想されます」

 さらにジェイ氏は、ライブチケット販売におけるAIの可能性についても言及した。

「多くのライブチケット販売会社はAIによる価格変動よりも、AIを使ったチケット購入までの導線にもっと投資していきたいと考えていると思います。音楽ライブの場合はいつ、どこで、どんなライブをやっているかという情報にたどり着くまでが至難の技。現状でもライブ情報を集約したサイトなどはありますが、今後はWEBやスマホではないところでもライブをレコメンドできるようになっていくのではないでしょうか。最近ではAmazon Alexaで直近の日程で近くで開催されるイベントをレコメンドする機能がスタートしました。AIはミュージックディスカバリーだけでなく、ライブのレコメンドにも使われていく可能性は十分ありそうです」

 チケット販売にはAIだけでなく、ボットの存在も見逃せないという。最近ではテイラー・スウィフトが、次のツアーに向けてボットによるチケットの大量購入を防ぐ「Taylor Swift Tix」を導入。テイラーのMVを見たり、アルバムやグッズの購入といったブースト・アクティビティに参加するとチケットが取りやすくなるというシステムだ。

「テイラーの例から分かるように、メジャーアーティストのチケット販売においては、ファンがチケットを購入しやすくすると同時に、転売目的の購入の対策をしていくことが主な課題でしょう。実はテイラーが始めた施策は、これまでの他のアーティストの取り組みを受けてのもの。例えばアメリカでライブチケットを販売する際には、銀行など金融業界が関わることも多く、特定の銀行の口座やクレジットカードを持っていればJAY-Zやビヨンセのライブチケットを48時間先行で購入することが可能になったりします。これはスポンサーシップマーケティングの観点から考えると、若者、ミレニアル世代に商品やサービスをリーチさせようと考えたとき、音楽が非常に効果的なツールだからです。また転売目的の購入防止には、複雑なツールが必要なのでアーティストだけで取り組むことは難しく、システムを持っている企業と組むのが一般的です。今回テイラーはチケット販売の最大手・チケットマスターと組んでいます」

 最後にジェイ氏は、カナダに行った際、実際に足を運んだというマスタリングサービスのスタートアップ・LANDRのサービスを例に、AIと人が連携することで生まれる未来像についても語った。

「LANDRには従来より、もっと手軽にマスタリングできるような環境を作りたい、という思いがあります。そのため彼らはよく『エンジニアの仕事を奪うのか』と言われるそうですが、むしろ最終的なチューニングなど個性を出す部分には経験を積んだエンジニアやプロデューサーの手腕が必要になってくる。そうすると、AIとエンジニアが共存する新しい環境ができますよね。スウェーデンのPacemakerというDJアプリにはAIが曲をミックスする機能がありますが、これも同様でAIがDJのクリエイティビティやそれぞれの持ち味を引き出していくことになる。これからはAIとスペシャリストがどう連携していくかを考えていくことが大切だと思います」

 今後、エンターテインメント領域により深く関わっていくことが予想されるAI。音楽業界においてもライブビジネス、レコメンド、そして制作の過程にAIが関わることで音楽の新たな可能性を生み出し、アーティストやスタッフがより活躍できる場が増えることを期待したい。(村上夏菜)