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サウジアラビア戦で長谷部誠に代わりアンカーを務めた山口蛍

「長谷部の”不在の在”が際立った」

 ミケル・エチャリはそう言って、試合を評している。”不在の在”、すなわち、あって当然だったものが、ないとどうなるか。ロシアW杯アジア最終予選、最終戦のサウジアラビア戦。エチャリはその本質を見抜いた。

「長谷部がいないことで、日本は攻守のバランスを決定的に欠いていた。長谷部は中盤でどのポジションを取るかによって、チーム全体を効率的に動かせる。サウジ戦、もし長谷部がいたらビルドアップのポジション取りからして違ったはずだ」

 そう語るエチャリはスペインの古豪、レアル・ソシエダを20年間にわたって支えてきた。その鋭いスカウティングで、ジョゼップ・グアルディオラに戦略担当として請われたこともある。現在はバスク代表監督として世界各国で講演を行なうなど、多くのサッカー関係者に影響を与えている。

“スペインの慧眼(けいがん)”は、0-1で日本が敗れたサウジ戦をどう総括したのか?

「サウジは4-2-3-1を基本にしながらも、かなり流動的に選手がポジションを替え、4-1-4-1、2-3-2-3、4-4-2になる瞬間もあった。オランダ人監督(ベルト・ファン・マルワイク)の戦術的なバリエーションの多さとこだわりが見えた。

 サウジの狙いはショートパスを主体に、『PASILLO INTERIOR』(DFとMFの間の横に伸びる通り道)でボールを受ける機会を増やす、というのが主眼だろう。危険なチームという印象だ。決定力のあるストライカーがいたら、より脅威になるはずだ。

 これに対して日本は、直前のオーストラリア戦と同じ4-3-3(4-1-4-1)で対抗。先発メンバーを4人替えたが、前線からの激しいプレスを基調にした戦い方は同じだった。

 しかし、足並みが揃わず、効果的なプレスがかからない。初手でつまずいた。

 その理由としては、まず中盤の山口蛍、井手口陽介、柴崎岳の3人の距離感が悪かったことが挙げられる。両ワイドの本田圭佑、原口元気との距離感も適切ではなかった。結果、例えば本田が敵の左サイドバックをはめにいくと、それに応じて柴崎がダイアゴナルのコースをカットしにいくのだが、すると山口の周辺のスペースが広がり、そこを使われてしまった。

 長谷部に代わってアンカーに入った山口は、インサイドハーフとの連係に苦しんでいた。不用意に自分のポジションを捨て、サイドまでボールを取りにいってしまう姿が見られ、中盤のバランスはないに等しい状態になった。攻撃のビルドアップの場面でも、山口は迅速に受け手のポジションを取れず、スムーズな攻撃に転じられなかった。コンビネーションプレーがノッキングした。長谷部の不在の影響は明らかだった」

 エチャリは率直に苦言を呈している。プレスが失敗したことで、日本はすべてが後手に回った。距離感のズレでダメージが蓄積した。

「サウジはプレスの強度は低く、リトリートし、落ち着いた守備を見せている。7番(サルマン・アルファラジ)、8番(ヤヒア・アルシェハリ)、18番(ナワフ・アルアビド)など左利きの選手が多く、攻撃では日本のプレスを外しながら、『PASILLO INTERIOR』でのプレーで日本のセンターバックにも圧力を掛けた。バックラインに対してのダイアゴナルランも有効。インテンシティ(強度)に欠ける(PASILLO INTERIORまでカバーできない)日本のセンターバック(吉田麻也、昌子源)を消耗させた。

 しかし後半の立ち上がり、ゴールに迫ったのは日本だった。

 柴崎が、質の高いプレースキックでチャンスを作り出した。酒井宏樹、岡崎慎司らが立て続けに好機を得る。また、左サイドを攻め上がった長友佑都からのクロスを原口が合わせた決定機もあった。

 日本は巻き返したかに見えたが、攻守におけるバランスの悪さは変わらなかった。これによって、次第に流れを失う。GKのロングキックを自陣に通されてしまい、孤立した長友が1対1を強いられ、決定的なシュートを打たれる場面もあった。これは川島永嗣のビッグセーブで防いだものの、セットプレーからのカウンターを未然に防げなかった点も、戦術的な混乱の証左だろう」

 そして日本は62分に失点を喫する。左右にパスを振られ、取りどころを見つけられない。中のポジションにズレが出て、『PASILLO INTERIOR』にボールを入れられる。そこからのパスでセンターバックの裏を取られ、強烈にニアサイドに叩き込まれた。

「日本はサウジに横へ何度か振られ、スペースを作られてしまった。そこで縦に入れられたボールに対処できず、シューターには完全にマークを振り切られていた。GKはノーチャンスだったのではないか。

 日本はその後、速い攻撃を試みたが、頭を抱えるほど精度が悪かった。のらりくらりとボールを回すサウジのポゼッションに手を焼く有様で、むしろ幾度かピンチを招いていた。ハリルホジッチはクーリングブレイク(給水タイム)での指示でチームを改善させていたが、選手交代の効果は出せていない」

 そしてエチャリはこの試合の日本をこう総括している。

「やはり長谷部の”不在の在”が顕著だった。モチベーションの違いはあったものの(日本はすでにW杯出場を決めてテスト的な意味合いが強く、サウジは勝てばW杯出場が決まる状況だった)、チームとしての戦いができていない。中盤でのコンビネーションによってチーム戦術は成立するものだが、いかんせん距離感が悪すぎた。必然的に守備も破綻。ワールドカップに向け、日本の課題だろう」
(つづく)

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