世界的大都市のニューヨークが抱える社会問題の一つが、開業から113年を迎える地下鉄だ。

 老朽化による遅延や故障が常態化しており、ある調査では、利用者の約74%が地下鉄のトラブルで仕事に遅刻したと回答するなど、ニューヨーカーのイライラは募る一方。地下鉄を管轄する州都市交通局(MTA)は7月、改修工事などに約88億ドル(約9680億円)を支出する計画を公表したものの、財源をどう確保するかなど問題は山積している。(ニューヨーク 上塚真由)

 ニューヨークの中心部マンハッタンのハーレム地区で6月27日午前、地下鉄が脱線する事故が発生。車両の摩擦から生じた火花が線路上のごみに引火し、煙が立ちこめ、朝のラッシュ時の構内は騒然となった。

 約40人が負傷したこの事故を受け、ニューヨーク州のクオモ知事は同29日、公共交通網の「非常事態」を宣言。他の路線でもトラブルが頻発しているとして、改修工事のため10億ドル(約1100億円)を追加支出する方針を示した。

 こうした脱線事故だけでなく、ニューヨークの地下鉄の遅延や故障は「日常」だ。ニューヨーク市の会計監察官が7月に公表した調査結果によると、過去3カ月間で、地下鉄の遅れが原因で仕事に遅刻した人は74%にも上った。また、この結果、「減給された」と回答したのは13%、「解雇された」と答えた人も2%に上った。

 24時間運行を売りにするニューヨークの地下鉄だが、週末や祭日などは改修工事や点検が行われるため、電車がたびたび運行休止となることも、利用者のストレスを増している。

 地下鉄問題は、クオモ知事の支持率にも影響を及ぼす事態に。地下鉄はマンハッタン内を主に運行しているが、MTA自体は州の管轄のため、「知事は地下鉄の問題にきちんと対応できていない」と批判が集中。クオモ知事は、「利用者から一日中、ひどい言葉がツイッターに書き込まれている」と語っている。

 こうした中、クオモ知事の肝いりで始まったのが、地下鉄改革のためのアイデアを公募するプロジェクト「ジーニアス・トランジット・チャレンジ」だ。

 (1)故障が頻発する信号システムの近代化(2)老朽化した車両の近代化(3)Wi−Fiサービスなど通信インフラの向上の3つに絞り、世界中からアイデアを募集。すでに選考は始まっており、9月に最終候補を発表、今年の秋には各分野の最優秀作品を選び、100万ドルの賞金がおくられる。

 電車版の“オーディション”ともいえるこのプロジェクト。6月に行われた会合では東京、パリ、トロント、チューリヒなど世界各国の鉄道会社の関係者も姿をみせ、日本からはJR東日本、東京メトロが参加したという。

 一方、クオモ知事の指示を受けて、MTAは7月、地下鉄の改修工事などに必要となる費用を公表。約88億ドルにものぼる財源について、クオモ知事は、利用者の多いニューヨーク市も相応の負担をすべきだと主張。費用の分担をめぐり、“犬猿の仲”とされるデブラシオ市長との間で応酬が続いている。

 ニューヨークの地下鉄改革の隠されたキーワードは、2020年の次期大統領選だ。クオモ知事は民主党候補として出馬が取り沙汰されており、米メディアでは、選挙戦までに地下鉄問題で成果を挙げたいのではないかとの憶測も流れる。

 今年1月には、マンハッタンの東側を南北に走る大通り「2番街」の下を通る地下鉄が部分的に開業したが、これも、最初に計画が発表されたのは1929年。計画の延期、中断が繰り返され、部分的開業までに90年近い年月を費やした。

 世界的都市に似合わず、地下鉄の改善だけは一向に進まないニューヨーク。クオモ知事の指導力は「大統領の器」なのか。ニューヨーカーのストレスの原因となっている地下鉄で、それは試されているようだ。

ニューヨークの地下鉄 1904年に最初の路線が開業した。現在は25系統36路線を有し、市内のほぼ全域を網羅。路線延長は245マイル(約394キロ)に達する。年間利用者数は約17億5700万人(2016年)。