親子の接し方も、時代とともに変わるのかもしれない。


 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行っています。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

 前回コラム「無料が当たり前! 今の子どもは『タダ・ネイティブ』」、前々回コラム「この20年で変化していた子供のお小遣いの使いみち」では、博報堂生活総合研究所が1997年から10年おきに、小学4年生から中学2年生の子どもたちを対象に実施している「子ども調査」の結果を紹介。20年間で特に変化の大きかった情報と消費の側面にフォーカスを当てて、その特徴を解説しました。

 今回コラムは、20年間で変化の大きかったもうひとつの側面である人間関係、とりわけ家族との関係に注目してお届けしようと思います。

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反抗期でも家族との距離が近い子どもたち

 上述した通り、「子ども調査」の対象者は小学4年生から中学2年生。その年齢を考えれば、まさに反抗期真っただ中。親や家族に反発したり不快に感じたりすることが多いのでは・・・と想像しますが、どうもそのあたりの意識にも変化が及んでいるようです。

例えば、

「家族に言っていない秘密がある」1997年 50.3% → 2017年 34.3%(過去最低)
「家出をしたいと思ったことがある」1997年 52.6% → 2017年 38.8%(過去最低)

 

と、家族には言わない秘密があったり、家出をしたいと思ったりするのが多数派という時代は過去のものとなり、今ではそれぞれ4割を切るまでになりました。また、家に自分の部屋がある子どもに対しての質問では、

「自分の部屋に親が入ってくるのは嫌だ」1997年 46.0% → 2017年 36.6%(過去最低)
 

と、こちらも過去最低に。子どもと家族との距離は、この20年間でだんだんと縮まりつつあるようです。

出典:「」 調査データ(以下同様)


大人の「ソフト化」が親子関係を良好に

 この変化の背景にはどんなことが考えられるでしょうか。おそらくですが、20年で子ども側が自発的に変化したというよりは、子どもを取り巻く状況の変化、端的に言えば親側の変化を受けて、子どもの意識が変わったと見るのが自然だろうと思います。そんな親の変化がよく現れている調査結果があります。

「お母さんにぶたれたことがある」1997年 79.5% → 2017年 48.6%(過去最低)
「お父さんにぶたれたことがある」1997年 69.8% → 2017年 38.4%(過去最低)
「自分の話を、お父さんやお母さんはよく聞いてくれる」1997年 74.7% → 2017年 82.0%(過去最高)

 

 調査結果からは、子どもに対して力に訴える高圧的な接し方をするのではなく、個人としてきちんと向き合おう、話を聞こうとする「親のソフト化」が伺えます。私自身、父親にも母親にも相当叩かれた記憶がありますが、今回家庭訪問調査で話を聞いた子どもたちにはまったく当てはまらないようでした。そこには社会的に「家庭内暴力」や「児童虐待」を問題視・糾弾する意識が高まっていることも関係しているのでしょう。学校などにおける「体罰」についても同様で、

「学校の先生に殴られたことがある」1997年 18.9% → 2017年 1.6%(過去最低)
 

と、先生に殴られたことのある子どもは、今では極めて少数となっているようです。

 また、晩婚化やそれに伴う晩産化、家族当たりの子ども人数が少なくなったことの影響もあり、親の中で以前にも増して「生まれてきた我が子を大切に育てよう」という気持ちが強くなっているということもあるのかもしれません。

 さらにもうひとつ、考えられる要因として興味深かったのは、2011年の東日本大震災の影響です。調査の一環で話を伺ったお母さん(中1男子)は、「震災以降はより子どものことを気にかけるようになった」と語ってくれました。未曾有の災害がきっかけとなり、子どもへの向き合い方が改まったり、大切な子どもの存在を再認識したという親たちも増えているのかもしれません。

大人になったら「目標は親」

 そんな親たちの様子は当然、子どもの目には好意的に映るのでしょう。最初の調査結果で挙げたように親子の距離感は縮まっており、さらに、

「大きくなったら親と同じような人になりたい」1997年 53.7% → 2017年 65.9%
 

との回答が20年間で過去最高になっています。親に対する模範意識や尊敬意識が高まっていることが見てとれます。これはスコアの差こそあれ、男の子・女の子共通して見られた結果です。

 親が子どもに対してソフトに向き合うことで、子どもも親に好意的に向き合う。それを受けてまた親も・・・という好循環が成立しているのが、今の親子関係の特徴と言えるのかもしれません。

 前回までのコラムでも紹介したように、自分のことを「幸せだ」と感じている子どもの割合は20年間で過去最高となっています(1997年 77.6% → 2017年 91.4%)。そこには、この恵まれた親子関係が強く影響していると考えて差支えないでしょう。こと親子関係に関して見れば、調査を行なった20年間を通じて、今が最高の状態ということができるかもしれません。

尊敬するのは父より母。20年でついに逆転!

 そんな良好な親子関係ではありますが、子どもが親に向ける尊敬のまなざしについては、よくよく見ると興味深い変化が伺えます。父親・母親それぞれについて「尊敬する人」「友達のような人」「どうでもいい人」の3択から当てはまるものを答えてもらうという調査項目があるのですが、そのうち「尊敬する人」について、

「父親=尊敬する人」1997年 59.7% → 2017年 61.5%(ほぼ横ばい)
「母親=尊敬する人」1997年 54.8% → 2017年 68.1%(過去最高)

 

と、母親への尊敬度合いが20年間を経て父親を逆転しているのです。この結果は男の子にも女の子にも共通して見られます。

 お父さんのスコアはほぼ横ばい(20年で1.8%増)なので、決してお父さんが尊敬されなくなったわけではありません。それを上回る勢いでお母さんのスコアが伸びた結果の逆転です。

 考えられる主な要因としてはやはり、女性の社会化(高学歴化・共働き化)の影響が大きいでしょう。1997年当時、専業主婦世帯と共働き世帯はそれぞれ921万世帯、949万世帯とほぼ同数でした。それが2016年には同664万世帯、1129万世帯と、圧倒的に共働き世帯の数が大きくなっています(厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」など)。

 子育てと仕事を両立する母親が増えたことで、「お父さんは家の外で頑張っているけれど、お母さんは家の外でも中でも頑張っている」。そんな意識が子どもの中に生じているのかもしれません。また、母親の活躍により家庭内での父親との力関係にも変化が生じると考えられます。例えば家庭内の意思決定を母親が行なったり、母親の意見が強く反映されたりすれば、子どもからの見え方も当然変わってくるでしょう。

 この20年間でお母さんに押され気味となったお父さんたち。何か打開の道はないのでしょうか・・・。と思った時に、ヒントになりそうな調査結果がありました。

「お母さんと一緒によく買い物に行く」1997年 48.7% → 2017年 71.5%(過去最高)
 

と急激にスコアが伸びて7割に達しているのに対し、

「お父さんと一緒によく買い物に行く」2017年 30.6%(2017年のみの調査)
 

と、こちらは3割程度に留まっています。

 仕事はこれまで通り頑張りつつ、買い物など子どもと一緒の時間も地道に増やしていく・・・。なかなか大変かもしれませんが、これがお父さん復活のカギになるのかもしれません。

筆者:三矢 正浩