鳥貴族をはじめ、外食各社が続々と酒類や一部メニューの値上げを発表・実施しています。この背景に、酒の安売りを規制する改正酒税法の施行があるとするのは、無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者・佐藤昌司さん。若者の酒離れが囁かれる中にあって、今回の値上げは居酒屋業界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。佐藤さんが店舗経営コンサルタントの視点で分析しています。

鳥貴族、日高屋、串カツ田中が値上げ。お酒の安売り規制が影響?

外食業界でお酒の値上げが相次いでいます。

鳥貴族は10月1日から、全品均一価格280円(税別)から298円(同)に引き上げると発表しました。28年ぶりの値上げといいます。焼き鳥はもちろん、お酒も値上げとなります。

人件費の上昇や食材の仕入れ価格の高騰、改正酒税法の影響でコストの上昇が見込まれることを理由としてあげています。

日高屋も9月から値上げを実施しました。生ビールは310円(税込)から330円(同)になりました。ハイボールは270円から280円、日本酒は300円から310円、ホッピーセットは370円から380円になるなど、お酒は10〜20円が上乗せされました。お酒以外では、餃子やイカ揚げを値上げしています。

値上げの理由として、原材料価格や物流費の上昇、人手不足を背景とする人件費の高騰をあげています。改正酒税法の影響もありそうです。

串カツ田中もビールやホッピーセット、各サワー、各カクテルなどを390円(税別)から399円(同)に値上げしています。値上げ金額が9円とわずかで、400円の大台に乗せない範囲に収めたと考えられますが、そこに苦心の姿がうかがえます。わずかでも値上げせざるを得ない状況にあったといえるでしょう。

外食各社のお酒の値上げは、6月に改正酒税法が施行されたことが影響しています。これにより、仕入原価と販売管理費の合計を下回る金額でお酒を販売できなくなりました。メーカーからのリベート(販売奨励金)が減ったこともあり、お酒を販売する企業はコスト上昇圧力にさらされていました。

スーパーでは先行して値上げが行われました。スーパーはお酒を安売りして集客の目玉としていましたが、お酒は数ある商品の中の一部にすぎず他の商品で代替しやすいため、改正酒税法の施行直後にお酒を値上げしても、必ずしも客離れにはつながりません。そのため施行直後、多くのスーパーの店頭でビール類の価格が1割ほど上昇しました。

一方、お酒を扱う外食業界ではそうはいきません。スーパーと違い、お酒が中核商品であることが少なくないためです。お酒の値上げが客離れに直結しやすいといえるため、多くの飲食店が値上げを躊躇している状況です。

鳥貴族などの居酒屋業界はお酒が主力商品で、ラーメン店の日高屋は競合他社と比べてお酒の販売比率が高いとみられるため、お酒の値上げが客離れに直結する可能性があります。そうしたなかでの値上げとなりますが、コスト上昇で背に腹はかえられないと判断したのでしょう。業界を代表する企業が値上げすることで同業他社が追随する可能性があります。

こうした状況もあり、今後の居酒屋業界は厳しさが増しそうです。

日本フードサービス協会が公表している資料によると、「居酒屋・ビヤホール」の市場規模は、この20年間では縮小傾向、10年間では停滞傾向にあることがわかります。外食産業全体の市場規模はこの5年間では上昇傾向にあるので、相対的な居酒屋離れが見て取れます。改正酒税法の影響で今後もそういった傾向に拍車がかかる可能性があります。

居酒屋業界の競争は激しさを増しています。鳥貴族は値上げの影響が今後懸念されますが、今のところ大きく成長している状況です。店舗数は増加していて、8月末時点の店舗数は570店(直営343店、FC227店)にもなります。今後も新規出店を強化すると表明しています。他の居酒屋を駆逐しそうな勢いです。

串カツ田中も急速に店舗数を伸ばしています。店名にもある串カツが主力の居酒屋で、串カツ1本が100円からと手頃な値段が好評を博しています。08年に1号店を開店してから急速に店舗数を伸ばし、5月末時点の店舗数は150店(直営90店、FC60店)となっています。期末となる11月末には171店の展開を計画しています。

鳥貴族や串カツ田中のように好調な企業もありますが、白木屋などを展開するモンテローザのように不調な企業もあります。モンテローザグループの店舗数は激減しています。採用サイトで公表されていた店舗数を確認したところ、4月末までの4カ月間で約150店が減少しています。

モンテローザは後出しジャンケンの形で、人気のある競合他店に似た店を出すことで成長してきた面があります。鳥貴族の快進撃を受けてか、似たような業態店の「豊後高田どり酒場」を16年7月にオープンしました。他にも、「和民」に似た「魚民」、「塚田農場」に似た「山内農場」、「月の雫」に似た「月の宴」などを展開しています。

模倣は悪いことではありません。経営学者のピーター・ドラッカーは、創造的な模倣はイノベーションを起こすと述べています。「創造的」とあるように、上手く模倣を行えば業績を向上させることができます。

モンテローザは模倣で業績を向上させることができたといえるでしょう。名前は違えど人気店に似た店が増えることは、消費者にとっては悪い話ではないからです。ただ、市場が成熟し似たような居酒屋が乱立した結果、本家に勝ることができなかったモンテローザの店が飽きられた面があることは否めません。大量閉店に追い込まれたのはそういった面が少なからずありそうです。

こうして考えると、特徴がない居酒屋は今後淘汰されていくのではないでしょうか。焼き鳥が主力の「鳥貴族」や海鮮の「磯丸水産」、串カツの「串カツ田中」といった専門性が高い居酒屋は好調ですが、特徴がない総合居酒屋は衰退の一途をたどっています。

ワタミは不振の総合居酒屋「和民」などを、焼き鳥が主力の「三代目鳥メロ」やから揚げの「ミライザカ」に業態転換しています。16年度において83店を転換しましたが、売上高は前年比で26.8%増加したといいます。やはり、特徴があって専門性が高い居酒屋ではないと生き残ることが難しいことを示しているといえそうです。

立ち飲み形式の居酒屋も有望です。「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングスは立ち飲み居酒屋「晩杯屋」を運営する企業を買収すると発表しました。晩杯屋の成長性を買ってのことでしょう。串カツ田中も立ち飲み業態店を出店し始めています。

晩杯屋の1号店が誕生したのは09年です。買収発表時(7月27日時点)の店舗数は31店とそれほど多くはありませんが、早期に国内500店の展開を目指すといいます。

立ち食い形式の「俺のイタリアン」や「いきなり!ステーキ」が好調なこともあり、居酒屋版として成長が見込めると判断した面がありそうです。

晩杯屋はフードが100〜200円程度と低価格のため、一人でも気軽に飲むことができます。気軽さという点では「俺のイタリアン」などよりもはるかに上のため、差別化されているといえるでしょう。特徴がある居酒屋といえそうです。

居酒屋業界は市場が成熟しているため、価格競争に陥りがちです。そうしたなか、改正酒税法の影響で値上げの判断を迫られている状況です。鳥貴族は値上げの断行を表明しましたが、それは特徴があって高い競争力を持っているからこそといえます。特徴がなく競争力がないところは値上げが客離れに直結してしまうでしょう。業界各社は難しい判断を迫られているといえそうです。

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出典元:まぐまぐニュース!