ゴタゴタ続きの民進党だが、「アベノミクス」を超えるような経済政策を出せるなら話は違ってくる(撮影:尾形文繁)

日本の経済政策運営を予想するためには、民進党など野党の動向よりも、自民党内での政治闘争あるいは世論の風向きが重要なのは言うまでもない。8月の内閣改造を経て、低下していた安倍晋三政権に対する支持率が持ち直している。現時点で、自民党の中で「安倍降ろし」の声はほとんど聞かれない。

民進党が次期衆院選で自民を脅かすための「2つの条件」


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今後、安倍政権の経済政策運営に対する「グリップ」(掌握力)が強まれば、財政拡大政策に一定程度は期待できるかもしれない。ただ、現実には、安倍官邸が北朝鮮問題を中心とした外交面に注力せざるをえず、経済政策に対する注力が低下しているようにも見える。2018年に向けて、安倍政権が拡張的な財政政策発動をすることに過度な期待を持つのは難しい。今後の補正予算を含めて、2018年は「歳出規模を若干拡大させる程度」と筆者は想定している。

一方、9月1日に行われた民進党の代表選挙では前原誠司氏が勝利し、新たな党の代表となった。7月31日のコラム「『内閣改造後』に日本株が上昇する条件とは?」において、「野党、自民党の一部議員、メディアいずれからも、(金融緩和、拡張財政を徹底できるかという)認識を踏まえた経済政策の提言などはほとんどみられない」「現状では安倍政権しか経済政策を任せることができる選択肢が見当たらないことが、日本の政治にとって最大のリスク」と筆者は述べた。

この認識は変わらない。だが、今回の執行部発足で紆余曲折があったにせよ、自民党政権に代わりうる存在である最大野党が、なお前原氏率いる民進党であることは確かだ。2018年にも予想される衆議院総選挙で自民党を脅かすには、(1)国民的な人気を持つ新たなリーダーの登場、(2)安倍政権を超える経済・外交政策の打ち出し、が挙げられる。これら2つの観点から、前原氏率いることになった民進党をどう位置づけられるか、確認していこう。

(1)の「新たなリーダー」については、民進党代表選は前原、枝野幸男両氏の争いだったが、代表選の動向は金融市場の材料にならなかった。2009年からの民主党政権は失敗の連続だったが、その国民の記憶はなお相当強く、「政権の看板」として重責を担っていた両氏がリーダーとなるのでは、党勢は戻らないとほとんどの国民が認識していると思われる。

もちろん、2012年に経済政策改革を掲げ、復活した安倍政権の成功をみればわかるように、(2)の経済・外交政策などの成果によっては、政治の景色は変わりうる。そこで、前原氏の過去の発言から経済政策に対する認識を確認する。

2014年の消費増税の悪影響を軽視する前原代表

ハフポスト日本版などによれば、経済政策については、前原氏は8月21日に次のように述べている。「(アベノミクスについて)問題だったのは労働分配率が低下して、賃金は上がらないのに企業の内部留保だけが増えたこと。賃金が上がらないのに、円安で輸入物価が上がり、実質賃金がマイナスになり消費が落ち込んだ。GDPの6割は消費だ。アベノミクスは企業を儲けさせ、個人を細らせ、結果的に消費を落ち込ませて景気が低迷した自業自得の政策だった」。

個人消費は2013年に大きく伸び、その後2014年から落ち込み2015年まで停滞、増税ショックが和らいだ2016年に再び伸び始めた。この経緯をみれば、消費増税が個人消費の落ち込みに及ぼした悪影響は明らかである。一方、金融緩和政策の支えで、個人消費失速があっても安定的に雇用は伸び続けており、緩やかながらも家計全体の所得は増え続けている。以上の事実、メカニズムについて新しい民進党執行部は十分理解していないとみられ、何を指して「自業自得」といえるのか、筆者には理解不明である。

また消費増税に関して8月7日に次のように述べている。「消費税については『一個人の議員』としては、よほどの経済の腰折れがなければ、2019年10月に消費税増税をするという考えだ。特に、民主党政権時代、(消費増税が盛り込まれた)『税と社会保障の一体改革』を、党政調会長として進めた者として、それを進めていきたい」。

2009年の民主党政権当時から経済政策に一貫性がなかった(消費増税なしの公約が覆され消費増税が決定された)ことを踏まえれば、民進党の経済政策は依然流動的なのかもしれない。ただ、この認識を踏まえれば、前原氏は2014年の消費増税の悪影響を軽視しているとみられる。仮に前原民進党がこの方針を保てば、来年にも想定される衆議院総選挙において、安倍政権が「消費増税凍結」を掲げて選挙に挑む可能性がやや高まったといえる。この意味で「安倍政権にとって追い風」になると筆者は考える。

また、民進党などによる「アベノミクス批判」には根拠が薄い議論が散見されるが、ひとつには事実に関する誤った認識がある。このため、「アベノミクス」の何を批判しているかがはっきりしないものが多い。アベノミクスの3本の矢は、金融政策、財政政策、成長戦略だが、それらにどのような効果があったのかという認識が前提にないので、かみ合わない議論になっている。

「アベノミクス批判」の大半が説得力のない理由

まず、2013年から2017年4〜6月までの4年半の間の日本経済のパフォーマンスだが、消費増税による消費失速で1年半ほど停滞したが実質GDP成長率は平均では1.2%のプラス成長だった。そして、失業率が24年ぶりの水準となる2%台まで低下するなど改善が続いている。また足元で停滞しているインフレ率も、消費増税前には1.5%前後まで上昇する場面があった。

先日公表された内閣府による「国民生活に関する世論調査(2017年6月)」では、現在の生活に「満足」とした人は前年より3.8ポイント増え73.9%と調査開始した1957年以降で過去最高まで高まった。「生活の中で時間のゆとりがある」とした人は68.6%とこちらも過去最高だった。主観的な「満足感」を、10年以上前と単純に比較することは難しいが、それでも民主党政権だった2012年までと比べて、「満足している」と答えた人が増えている。

大きな理由は、経済成長が続いたことによる、労働市場の大幅な改善である。すなわち、働けなかった就業希望者の多くが職の機会を得て、最近は正社員など給与水準が高い職が増え、要するに職場環境が全般的に改善していることが容易に想像できる。人的資源の希少性が高まり、経営者の労働者の扱いがよくなった、ということである。アベノミクス批判の多くは、国民の生活に直結する成果を踏まえない主張が多いので説得力がないのだろう。

それでは、アベノミクスのどの政策が経済パフォーマンスの改善に影響したのか。まず成長戦略についてだが、評価は難しい。ただ、前出の7月31日付コラムでも述べたが、投資家の立場で金融市場をみれば、成長戦略の発動や成否によって、過去4年で日本株市場の趨勢が影響を受けたことはない。

そもそも、個々の産業や企業に影響する規制見直しなどは、日本のような先進国経済のパフォーマンスへの影響は軽微である。総需要不足+デフレの克服が問題となっている日本ではなおさらである。あえて挙げれば、インバウンド消費拡大のひとつのきっかけとなったASEAN諸国などへのビザ要件緩和が、GDP全体をある程度高めたという程度だろう。

第2の矢である財政政策はどうか。財政政策がGDPをどの程度拡大または縮小させたのかをみる一つの指標がある(IMFが試算する構造的な財政赤字の前年からの変化幅)。この指標によれば、財政政策がGDPに及ぼした影響は、2013年は0.1%緊縮とほぼ中立だったが、2014年は2.0%緊縮、2015年1.2%緊縮、と財政政策は一貫して緊縮財政が続いてきた。公共投資など一部の歳出が増えても、他の歳出抑制で歳出全体は増えず、そして2014年の消費増税のインパクトが極めて大きかった。

ちなみに、2016年は0.1%緊縮と緊縮財政から2013年と同程度の中立に戻ったということになる。2016年半ばに安倍政権が大規模な補正予算を策定したが、追加的な歳出拡大は実際にはごく一部にとどまっていた可能性がある。2016年分については、昨年の補正予算執行が反映され今後数値が改定される可能性はあるが、過去4年半で財政政策は、経済成長率を抑制する方向で作用してきたことは明らかである。

アベノミクス批判には傍証が必要

これらの事実を踏まえれば、過去4年半の日本経済のパフォーマンス改善をもたらしたのは、第1の矢である金融緩和政策がほとんどだった、ということになる。金融緩和政策によるGDP押し上げ効果については、日本銀行による試算があり、2013年以降の金融緩和政策が2013年から2015年の3年間で最大で4.2%ポイントGDPを押し上げたとされている。過去4年半の1.2%のプラス成長の多くが、金融緩和政策によってもたらされた、ということが可能である。

以上が客観的なデータなどを踏まえた、筆者によるアベノミクスの評価である。この認識が100%正しいとは筆者も考えないが、アベノミクスを批判するのであれば、なんらかの傍証を示す必要があるだろう。そのうえで建設的な議論が行われれば、アベノミクスを超える経済政策を民進党が示すことができるかもしれない。ただ実際には、新しい民進党執行部の現状の認識が変わらないとすれば、それはまったく期待できないだろう。