ラーメンは中国で生まれた食文化ではあるが、日本で様々な発展を遂げ国民食の一つになっている。日本だけでなく、世界的にも支持を集めつつあり、海外の大都市にはお店があるほどになってきた。

そんな現状の中、日本の本格的なラーメンを海外で広めるべく奮闘する日本人がいる。日本で人気&有名店のラーメン・つけ麺通販サイト「宅麺」を運営するグルメイノベーション社だ。

世界進出を見据えての起業

宅麺はもともと「お店のラーメンを自宅で食べる」という考えがコンセプトで、お店に行かなくてもどこでも本格的なラーメンが食べられるという願いを込めてスタート。2010年の事業をスタートした段階で、海外進出を目指していた。

通販事業を行う中で、東南アジアなどの海外からラーメンの相談を受けることも多くなり、2012年に海外のラーメン視察などを行い、まだまだ日本の本格的なラーメンが海外に少ない事情などを踏まえ、海外での展開に踏み切ったそうだ。

当時の状況を宅麺の井上社長は「2012年の時点でも海外にラーメン店は進出していましたが、日本でいうと80年代の豚骨ラーメンブームのような状態で、徐々に日本の本格的なラーメン店が海外に進出し始めているような状況でした。日本でも豚骨ラーメンブームの後に塩や魚介豚骨、つけ麺などの様々なラーメンがヒットし、ラーメンの種類が多様化していきました。当社のビジネスモデルであれば、一つの味だけでなく複数の味を店舗で提供できるので、ご縁があって2014年11月からシンガポールで海外展開を行うことにしたんです」とスタートした時の話を語ってくれた。

日本と同じレシピをシンガポールで再現

宅麺は日本国内では冷凍したラーメンを通販で販売しているが、シンガポールの店舗では8種類のラーメンをシンガポールのセントラルキッチンで作り、それらをお店に運んでラーメンを提供している。

8種類のラーメンは協力スタッフがそれぞれの有名店の本店に行き、厨房に入って作業工程を出来る限り数値化してレシピに落とし込み、出来上がったレシピを元にシンガポールのセントラルキッチンで作っている。最終的には日本のお店の店主がシンガポールに出向き、現地の素材などを使っても味に大きな違いがないかを確認し、お墨付きをもらって提供を行っている。

驚くことに8種類のラーメンは8種類の麺を使っており、麺もセントラルキッチンで作っている。原材料の中でもシンガポールで入手できない魚介系の素材やタレ(醤油ダレ、味噌ダレといった味の決め手になるタレ)は日本で購入したものを自社で輸出入の手続きをしてシンガポールに輸入し、出汁を取る為の豚骨や鶏ガラ等は現地の食材を使っているという。

実際にセントラルキッチンに行ってみたが、一度にたくさんのスープを仕込んでおり、本格的な素材を集め、ラーメンを作っていた。

 

日本のラーメンをシンガポールでもそのままに…最高のコンテンツをそろえての開店だったがいきなり壁にぶつかってしまう。

ラーメンは最高のはずが壁にぶつかる

サイバーエージェントで2年半、トラフィックゲートで9年ほどマーケティングの仕事をし、日本の宅麺でも3年以上にわたり通販事業を運営してきた井上さんも飲食の現場は畑違いで、苦労の連続だったという。

飲食は立地で集客が決まるといわれているが、まずは出店場所が失敗だったと井上さんは語る。

「経験を積んだ今となればわかることですけど、出店するならどの時間帯にも多くの人が集まるショッピングモールの中が良かったですね。今の立地だと平日の昼はいいんですけど、ビジネス街なので土日に人があまり来ないのですよ」とのことだった。

失敗は立地だけでなく、ディスプレイ、仕入れの値段、多岐にわたり、ほとんど思い通りになったことはなかったそうだ。

 

特に難しかったのは現地人のマネジメント。日本人が現場のトップに立つと、なかなか現地人への落とし込みが難しいそうだ。一方でお店に日本人スタッフがいないと、なかなか本物っぽさがでないといった問題や、日本人の人材を現地で採用しにくいといった問題もあったそうだ

また、シンガポールではMC(有給病欠)という制度があり、急にシフトに穴が開くことが多く特に苦労したという。そういった問題を現地のマネージャーと相談して制度を改正し、徐々に徐々にうまくお店が回るようになったという。

現時点での理想は「現地人のマネージャーの下で日本人のスタッフが働いている状態」と語ってくれた。

味はどう?食べてみた

実際にお店食べてみた。今回食べたのは豚骨ラーメン発祥の地久留米のラーメン「本田商店」と勝浦タンタンメンの「ビンギリ」

豚骨ラーメンは久留米ラーメン独特の臭さや、濃厚な旨味が感じられ日本で食べてもハイレベルな味。豚骨ラーメンに使われる細麺もラーメンに合う作りになっている。ごく一部であるが臭いが合わない外国人がいるとのこと。

ビンギリは辛さも強いがしっかりと旨味がありバランスがいい。日本の本店でも中国四川省の朝天唐辛子など3種類の唐辛子を使っており、シンガポールでいいものかないかを探し「たくさんの唐辛子を舐めて香りと辛さのバランスが良いものがないか探した」そうだ。シンガポールというとチリクラブなどの辛い料理も有名だが、シンガポールで同等の唐辛子を見つけることが出来ず、日本から輸入しているという。

日本のラーメンは豚骨だけじゃない!

宅麺は現在日本では通販事業のみを行い、実店舗はシンガポールのみで展開しているが、今後世界への進出だけでなく様々な構想があるという。

「まずは東南アジアからはじめましたが、アメリカやヨーロッパにもラーメンギャラリーという形で様々なブランドのラーメンが食べられる店舗を増やしたいと考えています。シンガポールではセントラルキッチンで味を作るところから店舗展開まで全てを自社で行っていますが、今後進出していく国では、飲食店の経営経験が豊富なパートナーを見つけて店舗を増やしていきたいです。海外にお店を出したい日本のラーメン手伝いなどもできればと考えています」と構想を語ってくれた。

「アメリカでは豚骨ラーメンが広く受け入れられているが、現在ではYelpのランキングで醤油ラーメンのお店が1位を取るなど様々なラーメンが受け入れられ始めています。今後ラーメンは世界的にどんどん伸びていく分野だと思います。海外の店舗で食べた外国人が日本までラーメンを食べにきて、インバウンドの消費に繋がったら面白いですね。久留米の本田商店に外国人の行列ができたりしたら胸アツですよね」と語ってくれた。

世界中の町で日本の本格的なラーメンを食べられる日がきたら…世界中の外国人がラーメンを食べに日本に来たら…そんな未来を願わずにはいられない。宅麺はその原動力の一つになってくれるかもしれない。