高齢出産によるリスクや気を付けるべきことについて、産婦人科医が解説します。

写真拡大 (全2枚)

4人に1人が35歳以上で出産するという現実

2016年の日本の出生数は98万1000人と、初めて100万の大台を下回りました。しかし、近年の晩婚・晩産化と、不妊治療の発達により、高齢出産は増える傾向にあります。現在、出産数の約25%、4人に1人が35歳以上の出産になっています。

日本産科婦人科学会では、35歳以上の初産婦を高年初産婦と定義していますが、経産婦には決まった定義がありません。WHO(世界保健機構)では35歳以上の初産婦、40歳以上の経産婦を高齢出産と定義しています。

高齢出産になるとリスクが急激に高まるのか?

高齢出産では、妊娠に関しては早産、高血圧症候群(PIH)、妊娠糖尿病などの合併症が、出産に関しては難産や帝王切開のリスクが高くなることは一般に知られていますが、実際どのくらいのリスクがあり、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか?

年齢とともに子宮筋腫などの婦人科疾患、生活習慣病になる人が増えるので、産科合併症のリスクが上がってゆくのは仕方ないことですが、必ずしも35歳を過ぎると産科リスクが急激に高くなるわけではありません。

年齢別の妊娠率、早産率、周産期死亡(妊娠満 22週以後の死産と新生児死亡をあわせたもの)率などを示したグラフを見ると、35歳以降の上昇が急峻になっているようですが、意図的に目盛りが付けられていて、より誇張されて見えるようになっていることが多いからです。特に40歳以上では出産総数(分母)がそう多くないので、1つのケース(分子)が起こると、割合が急に高くなることも考慮する必要があるでしょう。

リスクに関しては、具体的にどのくらいの頻度で起こるものなのかということを知っておくといいでしょう。

妊娠糖尿病は妊娠高血圧症候群の約3倍の頻度

高齢出産でリスクが高くなる産科合併症には、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎盤異常(前置胎盤や常位胎盤早期剥離)などがあります。出産年齢別の割合(頻度)を示します。


妊娠高血圧症発症率は35歳からリスクが少し上がり、35-39歳で5.5%、40歳以上では7.6%と、35歳未満の2倍以上となっていますが、それでも1割、10%まではありません。

妊娠糖尿病とは妊娠中に初めて発見された糖代謝異常のことで、甘いブドウ糖ジュースを飲む75gOGTT(75gブドウ糖負荷試験)で診断します。このなかで明らかな糖尿病は除外されます。以前の旧基準では全妊婦の約3%が妊娠糖尿病でした。ところが、赤ちゃんの影響も考慮した新基準を使用することで、今は以前の4倍、約12%が妊娠糖尿病と診断されるようになりました。

産婦年齢別の妊娠糖尿病になる割合は報告によっても異なりますが、表に示した報告では35-39歳17%、40歳では20%以上となっています。これは妊娠高血圧症候群の約3倍の頻度にあたります。

胎盤の位置異常も年齢により増える傾向があります。その代表が前置胎盤です。全体の頻度は少ないですが、35歳以上では2%をこえます。前置胎盤の頻度が高くなる帝王切開を経験している経産婦が、35歳以上により多く含まれていることも関係もあるでしょう。

高齢出産では帝王切開になる頻度も高くなる

産科合併症が増えること、また特に初産の高齢産婦では子宮頚管熟化の遅れや、軟産道強靭(産道がかたい)、微弱陣痛などにより難産となり、医学適応から予定帝王切開、あるいは陣痛がきても分娩がなかなか進行せず、無理をせずに早めに帝王切開を選択することも多くなるでしょう。

現在、平均の帝王切開率は20〜25%くらいです。きちんとした統計はないですが、35歳以上は25%、40歳以上では30%はこえているものと推測されます。また、経腟分娩でも吸引分娩や鉗子分娩となる頻度が高くなり、弛緩出血など産後出血が問題となることもあります。

帝王切開では、術後合併症でも母体死亡につながる深部静脈血栓症や肺塞栓症などのリスクがありますが、最近では麻酔管理や、早期離床、飲水飲食の開始が早まるなど術後管理が大きく改善され、幸い帝王切開後の合併症は低下してきています。

2000年に報告された調査では、発症頻度は全分娩に対して深部静脈血栓症は0.03%、肺塞栓症は0.02%程度でした。

※調査:小林隆夫ら:産婦人科領域における深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症.1991年から 2000年までの調査成績.日本産婦人科・新生児血液学会誌 2005;14(2);1-24

いくら気を付けても多くの産科合併症は防げないけど……

年齢とともに、産科合併症のリスクがあがるのは自然なことです。いくら気を付けても、妊娠高血圧症候群や胎盤位置異常など多くの産科合併症を防ぐことはできません。

妊娠高血圧症候群のメカニズムはまだはっきりわかっていませんが、早発型と呼ばれる妊娠32週前に発症する重症タイプでは、着床のときの状況が関連しています。

これは初期流産のほとんどを占める染色体異常が受精の時にすでに決まっているように、安静や食事制限などで予防することはできません。また妊娠糖尿病も、年齢によりインスリンへの感受性が低下することも関連しています。

それでも、妊娠中は、バランスのよい食事をとり、生活を整えできるだけ規則正しく、無理なくストレスの少ない生活を送ることが大切です。これは年齢によらないことですが、合併症のリスクの高まる高齢出産では特に大切になります。

高齢出産だから早産リスクが高まるとは言い切れない

高齢出産では、早産リスクが高く、低出生体重児出産が増えると言われていますが、実は高齢だけで早産リスクが高まることを裏付ける研究結果はありません。子宮筋腫などの婦人科疾患、生活習慣病の有無のほか、生活環境がリスク因子となるのです。

この中で妊娠中に気を付けられるのは、生活環境を整えることだけになります。予防はできないにせよ、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病の軽症タイプでは、増悪させないために大切なことになります。

あとは、できれば相性が良い医師と信頼関係を築き、安心して医療を受けることができる環境をつくることも大切です。妊娠糖尿病では以前は厳しい食事制限が中心でしたが、それが行き過ぎると赤ちゃんに十分な栄養が届かないリスクがあることもわかっています。

今は適切な食事(カロリー)は摂って、必要であればインスリン注射で血糖値をコントロールする方が母子ともにメリットがあると考えられています。こうした説明を受けても、それが適切な医療介入であっても、医師との信頼関係がなければ、なかなか受け入れられないことがあるからです。

最後に心配しすぎないことも大切です。リスクが高くなるといっても、何もなく無事に出産することの方がずっと多いのです。

数多の情報に振り回されず、あなたができることをして、あとは自分の産む力と、子どもの育む力を信じて、医療の恩恵にあずかる覚悟をもてること。リスクがあると言われる高齢出産だからこそ、もっとも気を付けてほしいと望むことであります。
(文:竹内 正人)