「道」はもっと活用できる キャンピングカーで地方創生

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放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第25回。「道」は高い経済効果を見込める最後の砦。「ミチノミクス」を提唱する筆者がルノーのKANGOOを購入して始めるアイデアとは……?

まったく新しいスタイルの事故削減キャンペーンとして、2007年8月10日(道の日)にスタートした「東京スマートドライバー」。連載第20回にも書いたけれど、これは、一人ひとりのドライバーの優しい気持ちを連鎖させ、事故を減らすことを目的として、僕が発起人となり、首都高速道路と在京の民放ラジオ5局が共同で始めたプロジェクトだ。

発足から早10年、車周りの社会はAIの活用による自動運転やさまざまな社会システムと結びついた次世代モビリティの誕生など、大きな変化の渦中にある。そこでこのたび、「ジャパンスマートドライバー」として再スタートを切り、新コンセプト「交通価値=ミチノミクス」を立てることとなった。

「道(ミチ)」はかなりの経済効果を生む可能性を秘めた場所である。本プロジェクトも「交通安全」から「交通価値」へとシフトし、ドライバーと道が生み出す未来の価値を考察していきたいと思っている。

例えば、移動時間をただ短くするなら高速道路は非常に便利だが、車での移動の楽しさは下道にあると僕は思う。思いもよらぬ出来事、地元の人との触れ合い、温泉や果樹園など穴場の発見は、下道ならではだ。僕自身、大学時代に北海道をレンタカーで旅したことがあるが、富良野で食べた朝採りメロンのおいしさは忘れ難い。

東京で買えば1万円はするであろうメロンが農家の倉庫にたくさん並べられていて、農家のおばちゃんがそれを半玉500円で売っていたのだ。「さっき収穫したばかりなんだよ」というメロンの味はとても瑞々しく、自然な甘さがした。聞けば化学肥料や除草剤を使用せずに育てているという。僕はいまでもその嶋田農園から毎年メロンを取り寄せている。下道がつないでくれた、おいしくて、長い縁だ。

日本はいまや「道の駅」が全国約1200カ所に整備され、車で出かけて消費活動することが以前よりはメジャーになってきた。だが、それでも車社会の欧米の比ではない。

一方、観光誘致をする側を見れば、いまでも自分の地域を発信するのに躍起で、点と点を結ぶ線、つまり地域と地域を結ぶ道のことはあまり考えない。これは相当もったいないことだと思う。線が複雑化すればするほど、大きな面になる。点ではなく面で発信できれば、観光の魅力は倍増するわけで、そんなシステムを構築できたら面白いのではないだろうか。

キャンピングカーで天草をとことん体験

エアビーアンドビーの影響もあって、日本でも民泊が流行っているが、その理由は「安く旅をしたい」以上に、「訪れたい地域にいい宿がない」という現れともいえよう。そこで考えたのが、キャンピングカーを使った地域創生である。旅をする人にとって安上がりで快適なのはもちろん、自分の家に知らない人を泊まらせる民泊には抵抗のある方も、家の軒先を貸すくらいならいいかと思うかもしれない。

実は日本のキャンピングカー市場は年々盛り上がりを見せている。「キャンピングカーショー2017」は前年よりも1万人以上多い約7万5000人が来場と大盛況で、国内の総所有台数も10年前と比べて2倍近くまで増加。所有しないまでもレンタルする人が増えており、今年は日本の「レンタルキャンピングカー元年」になるかもしれないという活況さだ。

キャンピンクカーといえば、ベッドはもちろん、シャワー、トイレ、キッチン、電源を完備した大型車で、オートキャンプ場に行き、BBQをやって泊まるというのが主たるイメージだろう。

僕が考えているのは、もっと気軽なもの。亡くなった妻の「故郷の海に散骨してほしい」という遺言を叶えるため、夫が自分で内装したワンボックスカーで一人旅を始めるという、高倉健さんの遺作『あなたへ』という映画があるが、このワンボックスカーが体現した”動くリビング”が、今回の企画のイメージだ。

運転しづらいキャンピングカーではなく、運転しやすい普通の乗用車を改装して旅をする。これは、新しい体験を求める旅行者と、観光資源はあるのにインフラが整っていない地方をつなげる大きな可能性を秘めている、と確信した。

そこで僕は、最初の舞台を故郷・天草に定め、ルノーの箱バンKANGOOを1台購入し、キャンピングカーに改装した(専門で行っている会社があるのです)。

車体は天草の海をイメージしたブルーで、パッと見はノーマルなKANGOOだが、天井部分のポップアップルーフを開ければ、より開放的な空間に早変わり。メッシュウィンドウで装備されたルーフテント部分は通気性がよく、蚊帳のなかのごとくよく眠れる(ベッドのマットレスはエアウィーヴを思案中!)。後部座席はもうひとつのベッドになったり、テーブルと椅子になったりする。収納部分には調理器具や食器などキャンプ用品が一揃いしまってある。大人ふたりと子どもひとりくらいなら、快適に旅が楽しめるだろう。

この天草専用バケーションカーを、年明けから天草空港で貸し出す予定でいる。天草らしい景色や体験をセレクトしたオリジナルルートもいくつか提案する。車のトランクから見る”バケーションビューポイント”は、インスタ映えもするし、家族だけの絶景の宿泊施設になるかもしれない。ただ、いきなり知らない場所や普通の駐車場に車を停めて寝るのはさすがに怖いので、車版民泊として個人や行政の未活用地を利用させていただこうと思い、いま関係各所に交渉中だ。

例えば、ある港町に「海月(くらげ)」という鮨屋があるのだが、車は店舗前空き地スペースに停め、日中は漁船でマリア像を見に行き(連載第19回参照)、食事やトイレは海月で、お風呂は近くの温泉で、というコースメニューもひとつ考えている。

「ななつ星in九州」の陸上版を

この旅の醍醐味は、車そのものが”パスポート”になるところ。いま、天草ブルーのKANGOOで行くと地元の人が快く迎えてくれる、というアライアンスをつくっていて、例えば農家では採れたての野菜、港では獲れたての魚を食べられるとか、陶芸教室の体験ができるとか、軒先を気軽に貸してもらえるようなことになればと思っている。

2013年、JR九州が運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」の登場で、九州の自然観光やレストラン、温泉は軒並み活性化した。その陸上版をやってみたい。人が車でいろんなところを旅することにより、経済が復活していくということを見届けたいのである。

ちなみにKANGOOのキャンピングカーは購入とインテリアの改装含め約600万円。これくらいなら失敗しても痛くないし、可能性のある投資だと思う。地方自治体の皆さんも、まずは一台からいかがですか?

有意義なお金の使い方を妄想する連載「小山薫堂の妄想浪費」
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