まだ一度もW杯に出場したことのない小さな島国が、ついに夢の舞台にたどり着くのだろうか。


初のW杯出場を目指すアイスランド。ファンの声援も熱い

 昨夏、フランスで開かれたユーロ2016に初出場し、イングランドを破るなどしてベスト8進出。その勇猛果敢な戦いぶりで、一躍大きな注目を集めたアイスランドが、W杯出場に近づいている。

 ヨーロッパ予選グループIを戦うアイスランドは9月5日、首都レイキャビクにウクライナを迎え、2-0で勝利した。

 前節終了時点で勝ち点13の3位につけていたアイスランドは、勝ち点14で2位のウクライナを下したことにより、グループ2位(勝ち点16)にランクアップ。同じ日、首位のクロアチア(勝ち点16)が4位のトルコ(勝ち点11)に敗れたことで、ポイントのうえではついにトップをとらえた(得失点差でクロアチアが上位)。

 プレーオフへ進出できる2位はもちろん、自動で本大会出場が決まる1位にも手の届く位置につけるアイスランド。夢だったW杯出場が少しずつだが、確実に現実味を帯び始めてきた(ヨーロッパ予選は9グループで行なわれ、各組1位は本大会出場。各組2位のうち、成績上位の8カ国がプレーオフに進出し、勝ち上がった4カ国が本大会に出場する)。

 ウクライナ戦当日、太陽が西に大きく傾いたころから細かな雨が降り続いていたレイキャビクは、9月上旬とはいえ寒かった。日本人の感覚で言えば、肌寒いを通り越し、すでに冬の装いでなければ耐えられない寒さだ。

 とはいえ、地元スタッフの女性によれば、「私たちにはこれならまだまだ快適よ」。その言葉どおり、アイスランドの選手たちは寒さに動きを硬くすることもなく、いつものように勤勉で、勇敢だった。

 アイスランドは、前半こそウクライナにボールを保持される時間が長く、思うように自分たちのリズムで試合を進められなかった。ボールを奪って攻撃に転じてもパスのズレが生じ、好機を逸する場面が目立った。

 しかし、後半に入ると、一気にギアアップ。前線からの圧力をグイグイと強め、高い位置で前向きにボールを奪うシーンを作り出した。

 すると、後半開始からわずか2分、左サイドからのクロスにMFヨハン・グズムンドソンが飛び込み、相手GKと競り合ってこぼれたボールをMFギルフィ・シグルズソンが押し込んだ。電光石火の先制ゴールだった。

 その後、やや息を吹き返したウクライナに再びボールを支配される時間もあったが、60分を過ぎると、完全に試合を制圧。出足よくボールを奪った勢いをそのまま攻撃の推進力に変える、アイスランドらしい武骨で力強い戦いを貫いた。

 66分には、ウクライナの攻撃の中心であるMFイェウヘン・コノプリャンカから、MFアロン・グンナルソンが奪ったボールを、テンポよくつないで右サイドへ展開。右からのクロスをFWヨン・ベズヴァルソンがワンタッチで丁寧に落とすと、これをまたしてもシグルズソンがダイレクトでゴール右隅に蹴り込み、ウクライナを突き放した。

 落胆するウクライナを尻目に、意気が上がるアイスランド。残り時間も効果的なカウンターをちらつかせながら、ウクライナの反撃を封じて試合を終えた。

 それにしても、アイスランドのホームでの強さには目を見張るものがある。今回の予選では、ホームゲームは4戦全勝。グループ首位を争うクロアチアをも葬っている(1-0)。裏を返せば、アウェーでは意外な脆(もろ)さを露呈してしまうのだが、とにもかくにも、アイスランドの躍進が地元ファンの大声援によって支えられていることは間違いない。

 実際に現地を訪れてみると、アイスランド代表のホームスタジアム、ロイガルダルスヴェルルは何とも言い難いパワーを秘めていることに気づく。

 メイン、バックの両スタンドとも非常に小さなもので、規模としては柏レイソルのホームスタジアムをイメージしてもらえばいいだろうか。そのうえ、両ゴール裏には立ち見用の階段がついたスタンドしかなく(試合では使われていない)、収容人数(座席数)は9800人ほどにすぎない。にもかかわらず、スタンド全体が一体となって歌い、手を叩くと、素朴ながらも力強い、得も言われぬ雰囲気が醸し出されるのである。ある意味で、サッカーに付きものの粗野で野蛮な雰囲気とは、明らかに一線を画している。

 なかでも圧巻なのは、ユーロでも話題となった”バイキング・クラップ”と呼ばれる手拍子だ。

 勝利の喜びを分かち合う試合後はもちろん、試合中にも前後半各1回、観客全員が立ち上がって手拍子を送るのだが、じっくりと間を空けて一発一発手拍子が鳴らされるたび、ピッチ内に”気”が充満していき、それが選手のパワーに変わる。スタジアム全体が、そんな静謐(せいひつ)な空気に包まれるのである。アイスランドはホームでの無類の強さを武器に、初のW杯出場へ着実に歩を進めている。

 ただし、アイスランドは首位クロアチアと勝ち点で並んでいる一方で、3位トルコ、4位クロアチアともわずかに勝ち点2差しかない。残り2試合の結果次第では、プレーオフ進出さえも逃す3位以下に転落する可能性も決して小さくはないのだ。

 ウクライナ代表の指揮官にして、かつての世界的名ストライカーであるアンドリー・シェフチェンコ監督は、「(この日の結果で)アイスランドの突破が決まったのか? トルコの突破が決まったのか?」と報道陣に向かって苛立ちを見せ、「まだ何も決まってはいない。あと2試合ある。このグループは最後の試合まで、あらゆることが起こりうる」と話していたが、その言葉は強がりでも何でもない。

 アイスランドは次節(10月6日)、眼下の敵であるトルコとアウェーで対戦する。次々節である最終節(10月9日)は、グループ最下位のコソボとのホームゲームであることを考えれば、このトルコ戦がW杯出場への最大のヤマ場となるだろう。

 アイスランド代表のヘイミル・ハルグリムソン監督は「今日は中央の守備がよかった」と無失点で終えたチームを称え、こう語る。

「ここからは精神面が非常に重要。W杯に出場できたら、アイスランド・サッカーにおいて最大の出来事になる。力強さを保って次もがんばりたい」

 知的な語り口で時折ジョークも交え、公式会見の場でありながら、地元の記者たちと雑談のように気さくなやり取りを繰り返す指揮官に、(何か質問があればどうぞ、と水を向けてくれたので)周囲の期待をどう受け止めているのかを尋ねてみる。

 アイスランドのW杯出場を期待しているサッカーファンは、地元だけでなく、世界中にいるのではありませんか、と。

「新たな期待があることは理解している。当然、プレッシャーもある。でも、私はリアリストだ。クロアチア、トルコ、ウクライナと、他の国が強いこともわかっている。選手個人を見れば、彼らのほうがアイスランドよりもずっとレベルが高い。実際、我々はフィンランドにも負けている。だからこそ、ファイティングスピリットや組織、ハードワークといったことが大切になる。個人ではなく、チームで戦わなくてはいけないんだ」

 おとぎ話にまで例えられたビッグサプライズから、およそ1年3カ月。見る者の胸を打つ試合を数々繰り広げた戦士たちは、ロシアの地に降り立つことができるだろうか。

 アイスランドの次なる挑戦は、まもなくクライマックスを迎える。

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