米ニューヨーク・ブルックにあるジャンミシェル・バスキアを描いたストリートアート(2017年7月10日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】現代アーティスト、ジャンミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)の死後29年がたつが、彼の遺産は美術館に対するポップカルチャーの勝利に負うところが大きい。

 米ニューヨーク(New York)でハイチ人の父とプエルトリコ人の母との間に生まれたこの黒人アーティストは、この街で人生の大半を過ごし、着想の大半を得た。

 今年5月18日、そんな彼の絵画作品の1枚がニューヨークの競売大手サザビーズ(Sotheby's)で1億1050万ドル(約121億8800万円)の値で落札され、バスキアは作品が高額で取引される画家パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)のような巨匠たちに仲間入りした。

 だが、米国文化の首都であるこの街には、いまだバスキアの公的な記念碑も名前を冠した記念館もなく、有名な「SAMO」のサイン入りグラフィティアートも保存されてはいない。記念碑といえるような場所は、ノーホー(NoHo)の裏通りのアトリエがあった場所に取り付けられている銘板と、グリーンウッド(Green-Wood)墓地にある簡素な墓石くらいだ。

 市内の美術館に限って言えば、バスキアの2000点を超える作品のうち、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が所蔵するのは絵画とシルクスクリーンわずか10点。ホイットニー美術館(The Whitney Museum of American Art)は6点、メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)とブルックリン美術館(Brooklyn Museum of Art)はそれぞれ2点、そしてグッゲンハイム美術館(Guggenheim Museum)は1点だ。

 バスキアの作品の大半は、絵の具を用いたペインティングと線画を融合させたもので、抽象画であり具象画でもあるその作品群には、貧困や人種差別、階級格差など社会問題に対する痛烈な政治的メッセージが込められている。

 薬物の過剰摂取により27歳の若さで亡くなるまでにバスキアは商業的に成功した。にもかかわらず、美術館は彼の作品の芸術的価値についての判断を留保し続けた。

■主流の美術館では非白人の作品は展示されてこなかった

 バスキアの友人でアーティストでもあるマイケル・ホルマン(Michael Holman)氏は、「白人だけが重要な芸術家とする考えには、人種差別と白人の特権が強く表れている」と主張する。

 カリフォルニア美術大学(California College of the Arts)の准教授ジョーダナ・ムーア・サジェッセ(Jordana Moore Saggese)氏は、同世代のアーティストと異なり、ニューヨークの美術館でバスキアの大規模な個展が開かれることはなかったと指摘。「歴史的に見ても、主流の美術館では非白人アーティストの作品が展示されてこなかった」と言う。

 サジェッセ氏はAFPの取材に対して、1970年代後半から80年代にかけて多くの批評家はミニマリズムを評価する一方で、80年代のアートは資本主義に迎合していると不満を募らせ、批評家の間では「アーティストは商業的にも批評的にも成功し得るかという問題をめぐって深刻な対立」が起きていたと語った。

 だがバスキアの魅力は、権威ある美術界をはるかに凌駕(りょうが)している。

 サジェッセ氏は、「ソーシャルメディアを通じて画像やアイデアがあっという間に拡散されるようになり、バスキアのようなアーティストは、芸術批評や美術史によって知名度が上がるという従来の仕組みにもはや頼らなくなった」と断言する。

 日本の衣料メーカー「ユニクロ(UNIQLO)」はMoMAと共同で、バスキア作品をモチーフにしたTシャツやスニーカー、腕時計、トートバッグを生産してきた。化粧品大手アーバン・ディケイ(Urban Decay)も、ライセンス契約したバスキア作品の画像を化粧品やアクセサリーに使用している。

■セレブから子どもまで今もバスキアが大好き

 ジェイ・Z(Jay Z)、カニエ・ウエスト(Kanye West)、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)らのラップにはバスキアが登場する。カナダのR&B歌手、ザ・ウィークエンド(The Weeknd)のトレードマークはバスキア風のドレッドヘアだった。

 若きカリスマとして20歳当時のバスキアが本人役で出演した映画『Downtown 81(Downtown 81)』など、彼に関する映画やドキュメンタリーもある。

 サジェッセ氏は、「バスキアの存在感は、その死後、美術館ではなく、ポップカルチャーやメディアの中で高められてきたといえるかもしれない」と言う。

 バスキアに関する児童書も刊行されている。ジャバカ・ステプトー(Javaka Steptoe)氏が執筆した「輝いた子ども(原著:The Radiant Child)」はバスキアを次世代に紹介するための本だ。

 ステプトー氏は「子どもたちはバスキアが大好き。彼が描く絵と子どもの絵は似ているから」と語る。「バスキアは子どもたちにとって、ありのままの自分でいることを認めてくれる存在なのです」

 前出のホルマン氏は、バスキアは美術界だけでなく、ストリートアートやファッションにも変革を起こしたと語る。

「彼はこの街(ニューヨーク)の大勢の若者たち、特に非白人の若者たちに、自分だって立派なアーティストなのかもしれないと信じる自由を与えました」

「アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)が僕の世代のヒーローだったように、バスキアは現代の若者たちのヒーローなんです」
【翻訳編集】AFPBB News