予期せぬ登場のマセラティ・レヴァンテ、SUVの牙城に食い込む

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イタリアの高級車ブランド、マセラティの100余年の歴史の中で、レヴァンテSUVはもっとも重要なモデルだ。

なぜかって? その理由は、マセラティにとってまったく新しいセグメントへの進出だったが、そのおかげであの三本槍のバッヂのついたクルマの販売台数が全世界で、特に中国とアメリカで一挙に倍増したからだ。これだけで、驚きに値する。

実際、レヴァンテには驚かされることがいくつもある。マセラティがSUVを作ろうとは誰も予想していなかったのに、発売されるや、誰も予想できないくらい好調なのだ。そして、これまた予想しえなかったことに、このSUVのできは素晴らしいのだ。

今やSUV市場は熱い闘いの場だ。レンジローバーが支配するセグメントではあるが、ポルシェ・カイエンは独自のニッチマーケットを見つけ、SUVの定義を変えたと言えるだろう。続いて登場したのは、なんとベントレーのベンテイガ。さらに来年はランボルギーニ・ウルスが、そして2019年にはアストン・マーティンDBXが乗り込んでくる。

ますます闘いが激しくなるこの決闘場で生き残るには、レヴァンテもそれなりの強さを持っていなくてはならない。レンジローバーが完璧なアクションスター、ジャン=クロード・ヴァン・ダムだとすれば、レヴァンテはジェイソン・ステイサムだろうか。ユニークな個性を持ち、行く手を阻むどんな敵でもモノともしない闘争力を備えている。

では、レヴァンテのユニークな個性とは何か? もちろん、まずはそのスタイリングだ。美しいというより、レヴァンテの外観はアグレッシブで、スポーティでエッジが効いている。ヘッドライトやグリル、そしてバッヂはまさにマセラティの伝統をかかげるご印籠だ。また、座りが低くてSUVというよりハッチバックかと思わされる。



ギブリと同様のプラットフォームを採用しているので、ホイールベースは長く、後部席の足元もゆったりだ。前後の重量配分は完璧に50対50。そして、秘密兵器はAWDシステムだ。2つのオフロード・モードと5段階エアサスペンションを備え、地上高を上げればオフロードに、そして低めは高速ドライビングとコーナリングに合わせてある。

今回僕は、オフロードでの試乗はできなかったが、それでも姿勢を崩さずにぴったりと安定したコーナリングは、このセグメントで最良とされるライバルに勝るとも劣らないことは明言できる。僕がレヴァンテで特に気に入ったのは、電動ではなく、油圧式パワーステアリングだ。これが適度な重さと手応えを生じて、ステアリングフィールも自然だ。

フラッグシップ・モデルは、424hpを発生するフェラーリ製ツインターボ、3リッターのV6仕様のレヴァンテSだ。日本ではこの仕様が70%のシェアを保持。ZF製8速オートマチック・トランスミッションで全輪にトルクが配分される。

レヴァンテは、いかなる状況でも充分なパワーを与えられており、スタートから時速100kmへの加速はわずか5秒。スポーツモードに入れると、ギアシフトもスロットル反応、さらにステアリングも速やかになり、サスペンションが固めになる。万が一、運転しているのがマセラティであることを忘れたとしても、4500回転まで踏み込めばV6の唸りが思い出させてくれるだろう。

インテリアはアウディQ7ほどのハイテック感はないものの、さすがに本革、ウッドベニアとダッシュボードに配された楕円形の時計が、マセラティの存在感をたたえる。8.4インチのディスプレーを持つインフォテイメント・システムはスッキリしていて、操作しやすい。BMW iドライブのような機能性はないが、レヴァンテのほうが使いやすい。



ところで、インテリアのハイライトは、なんと言ってもハンドルの裏に潜む美しいパドルだ。完璧に鋳型されたなめらかなアルミニウムのパドルは、工芸品と呼べるものだ。このギアを触りたいがために、誰でも間違いなくマニュアルモードで運転することになるだろう。

濃いめの茶系モカ革とツヤ消しウッドのトリムは、落ち着いてシックだが、センターコンソールに配されたクライスラー製のスイッチ類とノブは、1200万円のSUVには相応しくないかもしれない。ギアノブはプラスティックっぽく、狙ったギアも多少入りにくいときもある。

そうは言っても、こんな小さな弱点はまったく問題ではなさそうだ。その証拠に、中国で1万2000台超、アメリカでは8000台がすでに販売されている。また、同社の第4市場である日本でも、2016年には485台のレヴァンテが販売された。この数字は、マセラティ・ブランドの総販売数のほぼ半分にあたる。つまり、このSUVは大成功であり、その理由も明白だ。

フェラーリ製エンジンと、類いまれに優れたAWDシステム、すばらしい操舵性、そしてマセラティ独特の吠えるようなエギゾースト音がそろったレヴァンテは、SUVというセグメントでもはっきりと目立つ存在で注目度は高い。もしちょっと残念なステッチ類やギアノブに目をつぶれるなら、このイタリアの勇猛なSUVでライバルを圧倒できる。それにあのパドルシフト! あの感触は、快感でなくてなんだと言おうか。

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