小野は絶妙なパスで決勝点に絡んだ。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ25節]札幌2-1磐田/9月9日/札幌ド

 1-1で迎えた83分。札幌の背番号44の名前がアナウンスされると札幌ドームのスタンドは大きく沸いた。札幌の今季初連勝に向け、小野伸二の投入によって攻撃がより活性化されることへの期待ももちろんあっただろう。

 だが、その歓声は地元チームに対してのみ送られたというよりも、ともに日本屈指のビッグネームである磐田の背番号10中村俊輔と小野が同じピッチに立つという出来事に対する、喜びの感情も大いに含まれていたように感じる。
 
 小野と中村。学年では中村がひとつ上になるが、2006年のドイツ・ワールドカップなどで共闘。小野はUEFAカップ(現・EL)制覇、中村はCLでマンチェスター・ユナイテッドから直接FKで得点を奪うなど、ともにアジアを代表するクラッキ(名手)として日本国内にとどまらず欧州でもその名を轟かせてきた。Jリーグでの対戦は小野が清水、中村が横浜に在籍した2011年4月以来となる。
 
 ホームの札幌が2-1で勝利した試合後のミックスゾーンでは「俺はちょっとしかピッチに立っていないから」(小野)、「そういえば、(小野が)出てきたねえ」(中村)と、およそ6年ぶりに直接対決したことについてはどちらもひと言目こそ素っ気なかったものの、「(対戦できたのは)幸せなこと」と小野が言葉を加えれば、「(小野は)右サイドでプレーしてたでしょ? 真ん中のポジションだったら面白かったのに」と中村も言う。アディショナルタイムを加えても時間はわずか10分少々ではあったが、久々の対戦に感じるものはあった様子だ。
 
 ベンチメンバーも含め、この試合の両チーム合わせた選手の平均年齢は28.86歳と高め。札幌のDF河合竜二、FWジェイらもそれに加担しているが、走行距離やスプリント回数、プレー強度などフィジカル的な要素がフォーカスされがちなこの現代サッカーのなかで、ボールコントロール力と戦術眼を武器に世界と戦ってきた37歳の小野と39歳の中村がこの数字を高めていることに意味がある。
 
 走行距離やスプリント回数などが正確に判明するのは、結局のところ試合が終わってから。お金を払ってスタジアムに足を運ぶ観客がリアルタイムで酔いしれることができるのは、やはりデータなどの数値で表されるものではなく、言葉では表現しきれない柔らかなボールタッチや、周囲の想像を上回るクリエイティブなパスセンスなのではないだろうか。
 
 この日、札幌ドームに集まった1万9063人は1点を争う攻防と、そしてそのうちの多くは地元チームの勝利に喜んだはず。でもきっと、日本サッカー界が生んだ希代の名手が同じピッチ上に共存した10分ほどの時間にも、大きな価値を見出していたことだろう。
 
 日を重ねるごとに円熟味を増す彼ら日本サッカー界屈指の“天才”たち。その共演には、これからも多くのサッカーファンたちが胸を躍らせることだろう。本人たちが思っている以上に、我々はその時間に大きな価値を見出している。来年も再来年も、少しでも多くその場に立ち会いたいと、多くのファンが願っている。
 
取材・文:斉藤宏則(フリーランス)