"ゲーム三昧"の子を東大に入れたプロママ
■子供「6人」全員東大合格の凄腕「プロママ2人」
子供を賢く育てるには、小学生のうちになにをすればいい? 勉強のやる気を生み出す親の行動や家庭の習慣は? 発売中の雑誌「プレジデントFamily 2017秋号」(9月5日発売)では、特集「東大生179人の小学生時代」でそうした悩みを深掘りしている。
このなかで、三男一女全員を東大に入れた“佐藤ママ”こと佐藤亮子さんと、もうひとりの「プロママ」である大岸良恵さんの対談を掲載している。
大岸さんは、長男が東大理科3類から医学部に進み、次男も今春、開成中高から東大理科1類に入学。どちらも現役合格というスーパーエリート兄弟だが、幼少時から子供にエリート教育を施してきたわけではない。むしろ後述するように一般の親より“一味変わった”な子育てをした結果であることが特筆に値するのだ。
対談相手の佐藤さんが専業主婦であるのに対して、大岸さんはキャリアママ。自身も東大の卒業生であり、外資系企業で経営・人事コンサルタントを務めたあと、現在は人事コンサルタント、ストレングスコーチ、大学講師などいくつかの仕事をしている。
親が管理・コントロールしない子育てを徹底
忙しく働く中で、どのように優秀な子供たちを育てたのだろう。話をうかがうと、まず浮かんできたのは経営・人事コンサルタントとしての視点だ。
「子育てはいうなれば人材育成です。子供たちが30歳、40歳になったとき、社会で活躍できて、なおかつ世の中のためになる人材に育てるにはどうすればいいのかを考えました。ビジネスの世界では答えのない課題に取り組む場面が多々あります。勉強と違ってどこにも模範解答がない中、自分のロジックで『この方向が正しいであろう』と判断しなければいけないわけです。そういう判断ができるようになるには、子供のうちから自分でどんどん学び、深掘りし、新しいものを考え出す姿勢や習慣が必要になる。そこで私は親が管理・コントロールをしない子育てを徹底したのです」
■受験は仕事におけるプロジェクト・マネジメントと同じ
勉強に関しては自学自習が基本。息子たちの中学受験の際も、塾に通わせたのは小6の1年間だけだった。あくまでも自発的に取り組ませ、「勉強しなさい」と言ったことは一度もなかったと振り返る。
「受験というのは、ビジネスにおけるプロジェクト・マネジメントと同じです。プロジェクトを部下に託すときには、目的、期日、達成すべき結果などを明確にしますよね。受験の場合も、なぜ受験をするか。いつまでに、なにをすべきか、といったすり合わせを通塾する前に念入りにしました。親子でしっかり話し合い、共通認識が持てたなら、あとは子供の主体性にまかせる。実際、子供たちはいつまでに、どの科目を、どこまで進める、といった学習計画表を自分でつくり、それに沿って受験勉強をしていましたね」
親がするべきなのは、進捗状況の確認と困ったときに相談にのれる体制をつくること。勉強に関する相談も、もし自分で考えることなく「ここ、教えて」と言ってきたら即却下。「自分はこう考えるが、どうしても理解できない」というようなときにだけ教えるようにしていたそうだ。
間違いを二度してはいけない。敗因分析をしっかりする
「結果があまりよくなくても、とやかく言うことは一切ありませんでした。テストの点数がよくなかった場合はその事実を確認して、『君のやり方が間違ってたんだね。次は別のやり方でトライしてみようか』と言葉をかけるぐらい。『だから言ったじゃない』『駄目じゃないの』というような、否定的な言葉を投げつけたら、萎縮してよい影響は与えない。親子の心が離れて、こちらがなにを言っても聞く耳をもたなくなるということもありますから」
このように、「自律」と「自立」を促せるよう、子供主体の受験体制をとってきた大岸さんだが、2つだけ子供に約束をさせたことがあるという。
ひとつは、同じ間違いを二度してはいけない、もうひとつはわからない問題があっても3日間は考え抜く。
「一度の間違いは誰にでもあること。特に気に留めません。ただし、二度目は注意をしました。敗因分析が甘かったのか、分析後の修正がきちんとできていなかったのか。ビジネスと同じでそこをきちんと見極めないと、別のところでも同じことが必ず起きます」
同じミスを繰り返さないよう、自分が学生時代に実践していた間違いノートづくりを子供たちに勧めたこともあった。ノートの左側に間違った問題を切り貼りし、右側で解き直してフィードバックを書き入れる。ビジネスで言うところのPDCA(Plan・Do・Check・Act)を、子供自身に行わせていたわけである。
■人生はゲームのバトルと同じ「必要なのは盾と剣と……」
一方、「3日間考え抜く」という約束は、物事の本質や根本原理を理解する力を養うために課したものだ。
「すぐに答えを見て多くの問題を解いたほうが受験には有利かもしれませんが、私が見ているのはもっと先。例えば、『この商品は売れるか』という判断をするには、物事の本質や原理を見極める目が必要になるんです。それに、3日考えて解ければすべては自分の力であり、大きな達成感と自信が得られますよね」
こうした話からもわかるように、大岸さんの子育てはすべて長期ビジョンのもとに成り立っている。目先のテスト、目先の受験にとらわれるのでなく、その先に続く子供の人生を見据えて育て方を考え、またそれを子供たちにも伝えてきた。
盾と剣を使う戦士自身の体と心も鍛えよ
それは、母親から息子たちへ送る人生の“哲学”だ。
「小学生のときに話したことのひとつは、大学生になったら親の手を離れ、自分で戦い抜く力をつけないといけないということでした。子供たちが大好きなゲームをたとえに使って、人生はバトル場だと教えました。そこで戦う戦士は、盾と剣を持っていますよね。盾はいうなれば卒業大学や資格など、剣は大学以降に身に着けた知識、スキル、能力などの専門知です。盾と剣がより優れているほどバトルに有利なのは事実ですが、それらの道具を使って戦うのは戦士自身です。つまり、戦士の体と心を子供のうちから鍛えておかないと戦いに勝てないし、強い体と心があればより強力な盾と剣を手に入れられると伝えてきました。最低限しか塾に通わせなかったのは、体と心を鍛えずに盾ばかりを大きくしてもしかたがないと思ったからなのです」
■ゲームや漫画は規制はなし ゲームは常時接続されている
一方、日常の生活についても、大岸家は子供自身に選択権を与えている。自分が決めたスケジュールさえ守れば、空き時間になにをしても自由だ。ゲームや漫画も一切、規制はなし。テレビゲームは常時接続されていて、漫画は500冊以上が本棚に並んでいるというから驚く。
中学受験を目前に控えたときもそのルールは変わらず、むしろ気分転換のために親のほうから「ゲームをやろう」と声をかけることさえあったそうだ。寝る時間が決めてあるから、どのみち、そう長い時間ゲームはできないが、一生懸命頑張っている子供へのちょっとしたご褒美になる。しかも自分で勝ち取ったご褒美だ。
「親子の間に適度な距離感のある先輩後輩のような関係をつくるというのが、わが家の教育ビジョンのひとつです。そのために、普段から『命令しない』『管理・コントロールしない』『怒鳴らない』『自分がされて嫌なことはしない』と決めていたんです。「〜しなさい」と強制はしません。なぜそれをしなければならないのかを親子で話し合い、その後は一切介入しません。だから、小学生のときから、朝は一度も起こしたことがなく、どんなに部屋が散らかっていても、パジャマを脱ぎっぱなしでも、そのままにしておきます。気にはなりますが、一度決めたことを遵守しなければ、逆に子供の不信感を招いてしまいますから」
現状、子供たちは朝ひとりで起きるし、布団はきちんとたたんでいる。
子供が話しかけてきたら、仕事の手を止めて耳を傾ける
まさしく先輩のような存在の大岸さんだが、「葛藤経験」も数多いという。特につらかった思い出として振り返るのは、次男が小学生の頃に本にまったく興味を示さなかったときのことだ。「読みなさい」と言いたい気持ちをひたすらこらえて、次男が自ら本を手にするまで待ったという。読めと言えば、命令しないという親としてのポリシーが崩れる。それを一貫することが子供への教えにもなると大岸さんは考えている。管理・コントロールをしないのは、一見、ラクなようにも感じるが、実は相当の忍耐力を要すというわけだ。
もちろん自律と自立が主眼といっても、放任主義とはまったく違う。どんなに仕事が忙しいときでも子供を優先するのが大岸さんのマイルール。子供が話しかけてきたら、仕事の手を止めて耳を傾ける。文化祭準備委員だった次男と一緒に、テントの機材に巻くための布を夜なべして切ったこともあるそうだ。大学生になった今でも家族の会話が途切れないのは、確固たる信頼関係が築かれているからだろう。
そんな大岸さんが目指してきたのは、「いつもニコニコ太陽のような母さん」。イソップ寓話「北風と太陽」ではないけれど、子供自らがやる気を起こすための根源は、その温かさにあるのかもしれない。
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大岸さんと佐藤さんのプロママ2人の6ページにわたる白熱の対談記事は、発売中の『プレジデントFamily秋号』で読むことができる。また、同誌の特集は「東大生173人にアンケートで実証! 学力を伸ばすたった一つの親の習慣」。「勉強しなさい」といわなくても勉強したと語る東大生の親は多い。なぜ、そのような子供が育つのか。東大生の親たちが実践していたが習慣を紹介している。誰でもできる簡単な内容で、脳科学者の川島隆太教授も太鼓判を押す科学的方法。その実践法など詳細もぜひ同誌をご覧いただきたい。
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(フリーライター 上島 寿子)