手を足に添えて息を吐きながらゆっくり上がる。反動で上がらずに、お腹を縮めるのを意識して、お腹の力だけで、ゆっくり。あまり起き上がる必要はない。

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段差でつまずき、階段で息切れ。夜更けにドカ食いし、体重計で後悔する。そんなあなたの体を変えるためには……。ポイントは「歯磨き」のように、トレーニングを「習慣化」することだ。多くの経営者が通う会員制ジムを経営する竹下雄真氏が、その“初めの一歩”を解説する。

■肉体トレーニングはメンタル強化のため

現在、当ジムにはトップアスリートから芸能人、外資系企業のビジネスマン、大学教授などさまざまな職業、年齢の方がいらっしゃいます。体を鍛える目的は人それぞれですが、アスリートの場合は単純明快。パフォーマンスの向上が一番の理由です。当ジムで日々トレーニングを積むプロ野球・侍ジャパンのメンバーやサッカー日本代表の選手などは、その最たるものでしょう。多くの観衆が見守る中で、常に最大級のパフォーマンスを発揮する必要がありますから。

そのトップアスリートとビジネスマンは、頭と体をフル活用し、仕事の中で最大級の効果を発揮するという意味で、日々必要とされているものは近いと思います。実際、当ジムの会員の約半数を占めるのが経営者の方々です。

これまで、ビジネスマンが体を鍛えるきっかけは、ダイエットや健康維持、体力増進などフィジカルの強化や調整が中心。健康診断や人間ドックで気になる結果が出た、という人も多いです。

ただ、最近はメンタルを整えたり強化したりするために、トレーニングを取り入れようとする人が増えた気がします。

例えば、必要以上に飲み食いしてオーバーフローすると、肥満やメタボリックシンドロームへと一直線でしょう。「食べる」ことをコントロールするにはメンタル(心の持ちよう)が重要ですから、そこに問題がある人は改善が必要です。つまりメンタルが弱ければ、フィジカルにも問題が発生して段々弱っていく。逆に、フィジカルが弱ったからメンタルも落ちていくというケースもあります。うつ病の人が、実はフィジカルにも問題を抱えているというケースは珍しくありません。

近年、グーグルやアップルを筆頭に、シリコンバレーのIT企業が、続々とヨガなどのエクササイズを研修プログラムに取り入れています。フィジカルとメンタルの両面の鍛錬が、企業レベルでも実践されるようになったのです。

以前、アメリカのボーイング社に視察に行った際、会社ぐるみで取り組んでいるトレーニングの環境に驚かされたことがあります。シアトルの工場には、6カ所ほどフィットネスクラブが設置されていて、そこで社員たちが体を鍛えているのです。企業ぐるみという点では、日本はまだ少し遅れているかもしれませんね。

仮に、体を動かす目的がダイエットだけなら、極端な話“カロリーの入力と出力”をコントロールすれば手っ取り早い。そのうえで、筋トレをすれば筋肉もつく。ただし、腹筋が割れたアスリートが必ずいいパフォーマンスを発揮するかというと、それはまた別の話。見た目は素晴らしくても、やりすぎて体の中がボロボロになったりしては、意味がありません。

大事なのは、フィジカルとメンタルのコンディションを、どう安定させるかということです。例えば糖質制限をしすぎて、イライラしてしまったら、逆にパフォーマンスが落ちてしまう人だっています。どれだけバランスを取りながら、トレーニングをするかが重要なファクターとなるのです。

第一線で活躍されている方を見ていると、酒や夜遊びをまったくしないわけではありません。その後どうリカバリー(回復)して翌日の心身をクリアにするか、とか、どうやって睡眠の質を高めるかを意識しながら、メリハリのある生活をするわけです。遊ぶときは思いっきり遊ぶ、休むときはしっかり休むなど、何もかも意図的にやっているように見えます。睡眠も大体6時間以上は取っています。

これは一流のアスリートも同じ。結果を出す選手は、トレーニング、遊び、休みの時間を計画的に配分し、次のパフォーマンスにつなげる努力を怠りません。反対にイマイチなアスリートは「みんなやっているから、俺もやっておこう」といった体で計画性がありません。そこの突き詰め方は、アスリートもビジネスマンも同じでしょう。

■撮影当日に腹筋が割れるグラドル

もう一ついえば、トレーニングをやるからには、持続することが大事。体つきが変わったビフォー・アフターで満足していては意味がありません。歯磨きを3週間怠れば虫歯になるように、筋肉も使わなければ衰えていきます。歯磨きと同じくらい当たり前のことを続ける感覚で、習慣化していかなければならないのです。

続けるには、ある程度の目標を立てることが有効だと思います。例えば、俳優や女優がドラマや映画の役づくりのために、トレーニングを積んで体をつくることがありますよね。期日が決まっている中で、そこに向けてどうやって体をつくっていくかは、ある種の“契約”のようなものです。うちに来ていたあるグラビアアイドルは、撮影当日になると腹筋が割れる。それくらい目的意識は重要です。

ビジネスマンの方も、例えば久しぶりに開かれる同窓会に参加するためにとか、子どもの運動会で無様な姿を見せたくないとか、大きなプレゼンテーションを控えているのでシュッとした見た目でいたいとか、身近でわかりやすい目標を立てることをおすすめします。

■年式が古くなれば、メンテナンスは必要

この業界に長くいると、フィジカルとメンタルの密接なつながりを、不思議なほど感じるようになります。例えばマラソンのように強い持久力が要求される運動が得意な人は、性格的にも持久力がある人が多い気がします。ウエートトレーニングでベンチプレス100キロを持ち上げる人はパワフルだし、やはり性格的にもどっしりしていて逞しい。ヨガをやって体が柔軟になっている人は、考え方にも柔軟さが見える。しっかりエビデンスを取っているわけではないので、正しいとは言い切れませんが、これまで多くの方を見てきて、そんなふうに感じます。

だから、もし「俺すぐ切れちゃって……」という怒りやすい人は、持久性が高まる運動をするとか、考え方、頭が固くなったかなと感じれば、ヨガなどで体を柔らかくしてみるとか、自分に足りないと感じるメンタル要素に合うトレーニングをやると、ある程度補えるのではないかと思っています。

これも経験則ですが、体のリカバリーが早い人は、メンタルのリカバリーも早いような気がします。プロの投手が5万人の前でボコボコに打たれ、観客席から「馬鹿野郎」と野次られる。それでも、彼らは次の試合でまた投げなければならない。ずっと落ち込んだままでは仕事にならないわけです。同様に、大事なプレゼンで失敗したり、大きな商談でヘマをした後のメンタルのリカバリーを促進させるのに、フィジカルの鍛錬は有効な方法だと思います。

年齢やブランクが気になったり、運動への苦手意識が先に立つときは、体を車に例えて考えてみてください。年式が古くなると傷んできますから、絶対にメンテナンスは必要です。そのほうが故障が減りますから。走らずにずっと置いておいても駄目ですし、ある程度走らせておかないとエンジンにもガタがくる。だからいい感じに走って、いい感じにメンテナンスして、大事に乗ることが大切です。

それに則していえば、トレーニングを続けるコツは、運動の「強度」と「時間」を自分のライフスタイルに合わせることです。この2つが自分の許容度をオーバーしていると続きません。

例えば、1日1分だけでもいいから、スクワットみたいなことをやるというのでもいいと思います。これなら自宅でも、職場でもやろうと思えばどこでもできる。足の筋肉は、人間の体の筋肉の中で一番大きい部分。いうなれば、一番影響力がある部分だということ。ここを集中して鍛えるのです。

そこで、ここでは足、腹、背中という体への影響力の高い筋肉を鍛えるシンプルなメニューを4種類ご紹介しました(各ページ写真参照)。

まずはどれか一つを1分行うのが目安ですが、強度と時間は自分で決めればいい。1分のスクワットで20回できる人もいれば、ノンストップで100回できる人もいます。1分20回でキツければ、間で少し休んでもいい。とにかく自分の体に意識を向けることが大事です。ビジネスマンの方たちも、それくらいはしないと戦えない時代になったのではないでしょうか。

2012年に亡くなられた女優の森光子さんが、毎日スクワットをやっておられた話は有名です。主演舞台の『放浪記』では、晩年まで「でんぐり返し」をして、フィジカルとメンタルの強さを多くの人に見せてくれました。年齢に限らず、続けていくという習慣がやはり大事なのだと思います。

最初は簡単なことから始めて、余裕が出てきたらもっと運動してみましょう。ウオーキングやランニング、ジム通いもいいし、仲間と一緒に草野球や草サッカー、フットサルでもいい。自分の体力に合わせて、強度や時間を調整していけばいいと思います。ぜひ、頑張ってください。

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竹下雄真
デポルターレクラブ代表、パーソナルトレーナー。1979年、神奈川県出身。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。米国研修、ジム勤務を経て2011年東京・西麻布にデポルターレクラブ開設。著書に『外資系エリートがすでに始めているヨガの習慣』。

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(デポルターレクラブ代表、パーソナルトレーナー 竹下 雄真 構成=篠原克周 撮影=小原孝博 撮影協力=松元大将)