人間以外のアクセスに対して向き合う必要があります(写真:FUTO / PIXTA)

“ボット”によるトラフィックがあふれている

ウェブサイトにアクセスしてくるのは、必ずしも人間だけではない。いや、むしろ人間以外によってもたらされるアクセスのほうが多いかもしれない――。これは、何らかの形でウェブサイトがかかわるビジネスを行っている人たちにとって、もはや“常識”であるといってもいいだろう。それだけ現在のインターネット上には“ボット”、つまり人間以外によるトラフィックがあふれている。

ボットとは、もともと“ロボット”を語源としており、人間に代わり、自動化された作業を実行するコンピュータプログラムの総称である。

日本航空(JAL)はこの夏、海外地区の航空券予約サイトでボットによるアクセスを大幅に減らす仕組みを導入した。同サイト(日本地区の航空券予約サイトは除く)の全アクセスを調査したところ、その8割以上はボットによるものだったからだ。主には外部の航空券予約サービスが価格比較を目的に、空席や運賃の情報を照会する「購入には直結しない」アクセスが大量に発生。外部サービスなどへのムダな課金が発生していた。訪日外国人旅行客の急激な増加が背景にある。

ボットはたとえば、単純作業が繰り返し発生するような場合、人間が実際に手を動かすよりも正確で高速かつ大量に実行できるため、以前から多く活用されてきた。たとえば、インターネット上を巡回し、新しいウェブページを探し、検索対象にするボットなどが、その代表的な例だ。最近では人工知能などと組み合わせることによって、人との会話を自動化するチャットボットと呼ばれるものも多く出てきている。今後、われわれの生活において、ボットがかかわってくるシーンは、ますます多くなってくるはずだ。

一方でボットには悪意を伴うものも少なからず存在している。たとえばコンピュータウイルスに含まれ、感染した端末を遠隔操作し、大量のスパムメールを配信したり、個人情報を漏洩させたりするものなどは、非常によく知られている。

ほかにも不特定多数のブログに対して、片っ端から広告的なメッセージを自動的に書き込んだり、インターネット上を巡回し、スパムメールを送信するためのメールアドレスを収集するようなボットも多く存在している。また近年では、いわゆる“まとめサイト”に盗用するためのコンテンツを探し、収集するために動いているボットも少なくない。

これらは、ともすれば企業のビジネスに対して何らかのインパクトをもたらす可能性があることから、これまでも注意喚起が行われてきた。だが近年、これまでにはなかった新しいビジネス上の脅威が、ボットによってもたらされており、JALのように企業が自らを守るために積極的なアクションを取ることが求められつつある。

ボットによって一企業の利益が圧迫されるだけではなく、業界のビジネス構造自体が揺らぎ、市場全体に大きなインパクトを及ぼすケースもある。「アドフラウド(Ad Fraud = 広告詐欺)」と呼ばれる問題は、その最たる例だといってもいいだろう。

アドフラウドとは?

最も典型的なアドフラウドの例は、広告の表示回数やクリック数の水増しだ。たとえば広告の表示回数に伴って料金が発生するものや、広告が実際にクリックされた回数に応じて料金が発生するものに対し、ボットが過剰にアクセス(またはクリック)をすることで、広告主企業が、その分の広告費用を支払わざるをえないケースが、現在数多く指摘されている。本来であれば、企業がブランドの認知や売り上げ向上を目的として支払う広告費が「人間」ではなくボット、つまりブランド認知もしなければ、購買行動も起こさない「ロボット」に対して支払われているということになる。

しかも、これは決して軽視できるような規模ではない。2014年、メルセデス・ベンツ社が北米の広告配信プラットフォームを訴えた一件では、外部の調査機関による調査の結果、サンプリングされた広告トラフィックのうち、57%がアドフラウドだったという結果になっている。また当時、すべてのインターネット広告市場の売り上げのうち、6〜7%ほどが、人間以外のプログラムによって表示され、その分が課金されていたこともわかっている。

現在は、もっとアドフラウドによるトラフィックは増えており、海外市場では、すべての広告配信の20%がアドフラウドだともいわれている。日本市場は、海外と比較して、それほど規模は大きくないが、それでも5%前後がアドフラウドとして認定されるのではないかと推測されている。

もちろん、これは決して少ない数字ではない。電通の調査によれば、日本のインターネット広告の市場規模は約1兆3100億円。うち媒体費と呼ばれるものが1兆0378億円となっている。仮に日本のインターネット広告市場の5%がアドフラウドの影響を受けていると仮定した場合、その金額は500億円以上にも上る計算だ。

日本よりも市場の大きい海外では、そのインパクトが、もっと深刻なものとなっている。今年、全米広告主協会が同協会の会員企業を対象に実施した調査によれば、米国インターネット広告市場におけるアドフラウドによる損失額は、2016年で約72億ドル(約7900億円)に上ると推測されている。米国の広告業界は、これを「業界全体の課題」であると認識しており、全米広告主協会やアドテクノロジー企業が一枚岩となって対策を講じている。業界が一丸となって健全化に向けて努力しなければ、一企業が損失を被るだけではなく、インターネット広告ビジネスそのものが崩壊すると懸念されているからだ。

アドフラウド対策が効果を見せ始めている

そして、その対策は、徐々に効果を見せ始めており、2017年のアドフラウドによる損失額は、前年の約72億ドルに対して、65億ドル(約7130億円)にまで下がるのではないかといわれている。また全米広告主協会は「もし米国内のすべての企業がアドフラウド対策を施していたら、その損失規模は33億ドル(約3620億円)にまで下がる」という仮説を併せて発表している。

ウェブサイトにアクセスしてくるのは、必ずしも人間だけではない。インターネット上のビジネスにおいて、企業は今、人間以外のアクセスに対して、どう向き合うかも問われ始めている。適切な対策を施すということは、自社の利益を守るためだけではなく、自分たちがビジネスを展開している業界や市場そのものを健全な状態に保つためにも必要なことなのだ。