ワタミが始めた新業態のレストラン、「にくスタ」の看板メニュー「ランプステーキ」。焼き石で客が好みの焼き加減に仕上げる(写真:ワタミ

居酒屋大手のワタミが始めた新業態のレストラン『カタマリ肉ステーキ&サラダバー にくスタ』が人気だ。ワタミはいま、国内外食事業の立て直しに向け、専門性の高いレストランの開発に力を入れている。その勝算はあるのか。7月にオープンした2号店を取材した。

ハンバーグはひき加減と脂身の割合にもこだわる

東京メトロ東西線・南砂町駅から歩いて10分弱。住宅地から程近いショッピングセンターの横に開業したばかりの南砂店がある。8月末の平日、昼時に訪れると、店内は家族連れや主婦のグループ客で賑わっていた。「3世代で来店する客も多い」と岩本裕史店長は話す。

メニューの柱は「にくスタ」という店名が示すように、ステーキとハンバーグだ。看板メニューはランプステーキ。豪州産の冷蔵肉を塊で仕入れ、店内でカットして提供する。炭火でベリーレアに焼き、残りは焼き石で客が好みの焼き加減に仕上げる。牛肉100%のハンバーグ「情熱ハンバーグ」も人気だ。目指したのは赤身肉を食べているような味や食感。ひき加減や脂身の割合を一から検討し、粗びきの肉を採用した。


種類の多さにこだわった「にくスタ」のサラダ&デリカバー。自社栽培の有機野菜も使っている(記者撮影)

サラダとデリカ(総菜)もウリの一つだ。店を入るとすぐにお洒落な「サラダ&デリカバー」が並ぶ。去年10月に開業した南蒲田店では29種類、南砂店では20種類のサラダや総菜、フルーツをそろえる。20種類以上を提供するステーキ・ハンバーグ専門店「ブロンコビリー」に対抗したという。


「にくスタ」が7月に投入した新商品「トマホークステーキ」。1000グラムほどの骨付きリブロースを3〜4人でシェアする。好調な売れ行きだという(記者撮影)

「にくスタ」開発のきっかけはこうだ。当時は居酒屋の立ち上げを担当していた馬越誠志郎氏(現・レストラン事業部)が新業態を発案した。「ワタミファームの有機野菜を有効活用したいとサラダバーを思いついた。赤身肉、熟成肉が流行っていたこともあり、肉も目玉にすることにした」という。2015年末、清水邦晃社長に提案したところ、「これからは居酒屋だけの時代ではない。レストランの方にいこう」とゴーサインが出た。

収益柱の介護事業を売却した今、ワタミにとって目下の課題は赤字が続く国内外食事業の立て直しだ。主力業態の居酒屋「ワタミ」「わたみん家」を2016年半ば以降、鶏料理居酒屋「ミライザカ」「三代目 鳥メロ」に急速に業態転換し、テコ入れを図ってきた。

鶏料理居酒屋は好調だがリスクも

業態転換が効き、足元は回復基調にある。国内外食事業の既存店売上高は2016年9月〜2017年8月まで12カ月連続で前年同月超えと好調だ。2017年度第1四半期(4〜6月)決算では国内外食事業の赤字幅が縮小し、通期では営業黒字になる見通しだ。

「ミライザカ」「三代目 鳥メロ」は、国内外食店の35%ほどを占めるまでになった。足元では好調だが、鶏料理居酒屋には「鳥貴族」や「塚田農場」などに加え、ほかの大手居酒屋チェーンも新規参入し、競争は激しい。さらに、トレンドが変化した場合、業績が一気に崩れるリスクも抱える。そうしたリスクへの対応に加え、ランチ需要の取り込みや労務対策を意識して立ち上げたのが「にくスタ」だ。

「にくスタ」の客は、30〜40代の子ども連れが圧倒的なシェアを占める。馬越氏は「居酒屋にはあまり来ないファミリー層を丸ごと取り込めたのは大きい」と語る。居酒屋は12月で年間の利益の3分の1を稼ぐ構造だが、「にくスタ」が最も稼ぐのは3月(春休み)、8月(夏休み)。ワタミとして書き入れ時が分散するというメリットもある。

居酒屋とは店舗オペレーション、営業時間が異なることも労務対策につながった。労働時間管理の厳格化など、労務環境の改善はワタミが近年迫られてきた課題でもある。

「にくスタ」はほぼ単品商売のため、1人〜2人で厨房業務を担うことができる。ランチもディナーもメニューやオペレーションがほとんど変わらないため、従業員の教育が比較的容易で、習熟度向上も早い。


7月にオープンした「にくスタ」の南砂店。狙い通りファミリー層の集客に成功している(記者撮影)

営業時間についても、夕方〜深夜にかけて営業する居酒屋とは異なり、「にくスタ」は22時台にラストオーダーを設定したため、従業員は片付けや掃除をしても終電までに帰宅することができる。ピーク時間帯もランチは12時、ディナーは17時半から19時半と予測しやすいという。「ランチ&ディナーの業態のほうがアルバイトの採用もしやすいし、社員の管理もラク」(馬越氏)。

明らかな優位性を打ち出せず

「にくスタ」は南蒲田店で転換前の業態と比べて130%の売上高、オープン間もない南砂店は160%で推移している。「ファミリー向けのレストランを作るという意味では成功」(馬越氏)というのがワタミの評価だ。しかし、現時点では、「にくスタ」が同業他社と比べて明らかな優位性を打ち出せているとは言い難い。

ステーキ・ハンバーグやサラダバーを展開するチェーンは少なくないが、ワタミが最も意識すべきは「ブロンコビリー」だ。ここ数年2ケタ出店をしており、6月末に113店の店舗数を2020年には200店にする計画を掲げる。「にくスタ」の場合、情熱ハンバーグ200gにサラダ&デリカバーのセットはランチで1190円(税抜き)だが、ブロンコビリーも同様の価格帯だ。客単価で比べても、にくスタはランチが1200円、ディナーが2000円ほどで、ブロンコビリーとあまり変わらない。

さらに、ブロンコビリーは専業で、かつ食材加工の内製化を進めているため、収益性も高い。売上高経常利益率は16%弱(2016年12月期)と外食業でトップクラスだ。ワタミの馬越氏は「当社工場は多品種少量生産。コスト的に重い」と話す。「にくスタ」は10月に東京・府中に3号店のオープンが決まっているが、さらなる多店舗展開に向けて越えるべきハードルは低くなさそうだ。

ワタミとしては、レストラン業態の開発を継続し、深夜に営業しない業態の割合を増やしていきたい考えだ。9月末にはイタリアンの新業態を実験出店する計画もある。「にくスタ」を手始めに、レストラン業態を早期に軌道に乗せられるかどうかがワタミの行く末を左右しそうだ。