「Thinkstock」より

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 この夏、近年急増している訪日外国人観光客の姿が各地でさらに目立った。

 日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2016年に日本を訪れた外国人観光客は前年比21.8%増の2403万9000人(推計値)。これは、統計調査開始以来最多の数字だという。

 日本を訪れた外国人を空港で直撃する『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京系)という番組が人気だが、実際、外国人観光客は「何しに日本へ?」来るのか。すぐに思い浮かぶのは東京や大阪、京都などへの観光、そして家電製品などの“爆買い”だ。しかし、専門家は「最近のトレンドは“コト消費”です」と語る。

●「地方」と「体験」が外国人観光客のトレンド

「訪日外国人観光客のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を見ると、以前はブランド品や家電製品などの高級品に関する投稿が多かったのですが、最近は化粧品、医薬品、食品などの消耗品が目立ちます。彼らの買い物の対象が、化粧水やパックなど安価な日常品に移ってきた印象があります」

 そう語るのは、ロケーション解析技術を軸に観光などの領域で事業を展開するナイトレイの石川豊社長だ。石川氏はSNS解析をもとに外国人観光客の行動をデータ分析するサービス「inbound insight(インバウンドインサイト)」を運営している。

 確かに、都心部のドラッグストアでは買い物かごに入りきらないほどの化粧品を持ってレジに並ぶアジア系の外国人観光客をよく見かける。また、石川氏は買い物だけではなく観光のトレンドにも変化が見られるという。

「今、インバウンドとして注目されているのは有名な観光地ではなく、まだメジャーではない“地方”です。そうした新たな日本の魅力に興味を示している外国人観光客は、すでに東京や京都は訪問済み。そこで、今度は地方に目を向けるようになるのです。なかには、岐阜の白川郷に行ったり北海道を隅々までめぐったり、四国にまで足を運ぶ人もいます」(石川氏)

 観光庁の「訪日外国人消費動向調査」(平成28年10〜12月期)によれば、外国人観光客の来訪回数は、「初めて日本に来る人」が42.3%なのに対し、「2回以上来ている人」は57.7%。「10回以上」は10.5%だ。

 こうした日本びいきの外国人は、手垢のついた観光地では満足しない。そこで、次に重要となるのが「場所」とともに「体験」なのだという。

「彼らの投稿を解析した結果、浅草や京都などの寺社が多い場所では、着物を着て観光する外国人女性が多くいました。これはつまり、体験を求めているということ。以前の外国人観光客は『モノ消費=買い物』が消費動向の中心にありましたが、最近は『コト消費=体験』に移行している印象があります」(同)

 実際、前出の調査を見ても、「日本滞在中にしたことの満足度」で「満足した」と回答した外国人観光客のうち、「四季の体感」「日本の日常生活体験」がそれぞれ91.5%ともっとも多く、ほぼ同率で続くのが「自然体験ツアー、農漁村体験」(91.3%)、「温泉入浴」(90.8%)だった(複数回答)。

 1990年代終盤、日産自動車がミニバン「セレナ」のCMで「モノより思い出」というコンセプトを打ち出したのを覚えている人もいるだろう。それと同様に、外国人観光客も「日本でしか味わえない体験」を求めているようだ。

●サムライ、花魁、茶道…体験サービスが乱立状態

 そして、こうした外国人観光客のトレンドに目をつけ、あの手この手で外国人を取り込もうと躍起になっているのが日本の観光業界である。

 たとえば、「SAMURAI STUDIO」という甲冑専門のフォトスタジオでは、職人の手で忠実に再現された本格的な甲冑を着用してプロのカメラマンに撮影してもらえる。日本=サムライというイメージを持つ外国人はいまだに多く、SNS映えするキャッチーな写真が撮れるため、外国人観光客に好評だという。

 また、石川氏が言うように「着物」も人気だ。浅草や京都には花魁に変身して写真を撮影できる着物レンタルや、芸者や舞妓を体験できるサービスなどが複数存在するほか、茶道具の一式をレンタルして専任のスタッフに指導してもらえる茶道体験、日本庭園を再現したトイレのある施設……と、この手のサービスを挙げれば枚挙に暇がない。

「私たちの『インバウンドインサイト』では、外国人観光客に関するさまざまなデータを提供していますが、SNSデータの解析には特に力を入れています。インスタグラムやツイッターで一般公開されている発信内容をリアルタイムで収集解析し、独自のロケーション解析結果として企業や自治体などに提供しています。

 インバウンド対策を成功させるためには、外国人が何を求めているかについて具体的なデータが必要。その際に、彼らが発信するSNSの投稿内容にも注目することで、定量的な調査では表れてこない本当のニーズや気づきが得られることが強みです」(同)

 石川氏によれば、外国人観光客の定量的な動向は各社のアンケートデータや旅行予約データ、スマートフォンやアプリのログなどからの統計データとして利用することは可能で、さらにそれらの情報とSNS解析結果を組み合わせることで、より精度の高い情報が得られるという。こうした情報から導き出されたのが、「コト消費=体験」というトレンドだったわけだ。

●フランス人や中国人にはアニメの聖地巡礼が人気

 もちろん、マンガやアニメ、それらを交えた「Kawaii(かわいい)文化」もまだまだ外国人観光客に人気が高い。なかでも盛んなのが、マンガやアニメの舞台になったとされる場所や縁のある土地を実際に訪れる「聖地巡礼」だ。

「たとえば、ある中国人の女性は、椎名軽穂の人気少女マンガでアニメ化もされた『君に届け』の舞台のモデルとなった北海道北部の羽幌町を訪れて聖地巡礼をしていました。

 この聖地巡礼は、アジア人のほか、日本のオタクカルチャーのファンが多いフランス人に特に人気がありますね。SNSを見ていると、登場人物のコスプレをしながら各地をめぐる外国人観光客もいるようです」(同)

 2016年には、外国人観光客による聖地巡礼を推進する「アニメツーリズム協会」なるものも設立されている。このように、マンガやアニメの舞台とされる土地を実際に訪れたりコスプレをしたりするのもコト消費といえるだろう。

 政府は2006年、これまで2000万人としてきた20年の訪日外国人観光客の目標数を一気に4000万人に倍増させた。東京オリンピックが行われる頃、日本を訪れる外国人観光客のニーズはどのように変化しているのだろうか。
(文=藤野ゆり/清談社)