普通の会社の事務職をしながら、株で年15%の利益を上げる星野彩季さん。「習うより慣れよ」ではなく、「慣れるよりも習え」と彼女は言うが、どういうことか(写真:筆者撮影)

「よき師との出会い」が運命を変えた――学年ビリの女の子が難関大学に合格した「ビリギャル」のような話が、投資の世界にもある。今回取材したのはそんな女性、星野彩季さんだ。会社で普通の事務職に就きながら株式投資している彼女は、大半の女性と同じように「預金より高い利回りになればいい」と投資を始めたが、たった3年で年15%の利益を実現。師から何を学び、どのように結果につなげたのだろうか。

友人の「スマホ取引」を見たことがきっかけに

彼女が株式投資に興味を持ったのは、たまたま友人がスマートフォンで取引しているのを見たからだ。「損をするからやってはダメ」と思い込んでいた株式投資が一気に身近になり、友人と同じ証券会社で口座を開設した。

しかし、「指し値」や「成り行き」「押し目」など、「まるで外国語みたい」な独特の証券用語を前に悪戦苦闘。取引を始めてからも、少しずつ積み上げた利益を1回の大きな損で失う、いわゆるコツコツドカンと言われる失敗を繰り返した。慎重で、勤勉な彼女のことだ。何冊も本を読み、ツイッターなどを通じて「株友」もつくり、積極的に情報交換した。それでも満足できる結果はなかなか出せなかった。

「勝てないことよりも、なぜ損をしたのかわからなかったのが悔しかった。やるからには正しい方法を知りたい。それがわかれば結果はついてくるはず」と思い、投資セミナーに参加した。そこで出会ったのが、彼女が「先生」と呼ぶ坂本慎太郎氏だった。

坂本氏は証券会社のディーラーとして活躍した後に、大手生命保険会社などでファンドマネジャーやストラテジストを歴任。「Bコミ」というハンドルネームで親しまれている投資家だ。株式のみならず債券市場などでの幅広い経験をもとに、ラジオ番組やセミナー、投資スクールで「勝つ個人投資家になるための方法」を発信している。

彼女は出会ったばかりの坂本氏に、周りから「真剣すぎて顔が怖かった」と言われるほど矢継ぎ早に質問をぶつけた。その中には、坂本氏が株式取引をするうえでいちばん重要だと考えている「板読み」の質問も含まれていたという。

株価は、売りと買いの強さの綱引き、需給で決まるが、その売りと買いの情報を知ることができるのが“板”だ。縦に「呼び値」ごとに並ぶ株価を挟んで、左側に売りの枚数、右側に買いの枚数がリアルタイムで表示される。基本的に、買いの枚数が多く、売りの枚数が少ない銘柄の株価は上昇しやすく、その逆に、売りが多く、買いが少ない銘柄の株価は下落しやすいと言われる。

各証券会社が提供しているツールで誰もが見られるものの、見方がわからないためにただ眺めている投資家が多いのが現実だ。

坂本氏は「日本の証券市場は、東京証券取引所に大半の商いが集中しているため、ほぼすべての需給を板で見ることができる。しかも、株価がつく前の気配を見られるので、チャートよりも早く株価の動向がわかる。株価を先読みできる板を活用しなくてはもったいない」と話す。

板読みで取引タイミングを見極めるコツがわかってきた

では、具体的にどのように活用すればいいのだろうか。

まず、取引をするタイミングを見極めるコツは、「板の買いが厚くなってきたとき」だという。

「投資にはリスクがつきものだ。マイナスになることも受け入れながら取引する必要がある。しかし、そのマイナスを少額に抑えられれば、利益が残る。株を買った後に想定した動きをしないことはよくあるが、すぐに手仕舞える銘柄を取引すればいいこと。買いが厚い銘柄は、「買いたいと思っている人が多くいる銘柄だから、『投げやすい銘柄』でもある。板を見ていて、買いの板が厚くなってきたら買ってみる。よく、素早い損切りが大事だというが、損切りできる板の銘柄を取引することのほうがもっと重要。株式取引はリスクヘッジが基本だから」と話す。

もちろん、板はリアルタイムに変化するため、再現性はない。しかし、「日々、意識して板を見てケーススタディを積み上げれば、板の向こうにいる投資家の動きを俯瞰できるようになる。その結果、株価の先読みができるようになる」と言う。

星野さんも、板読みを覚えたことで驚くほど失敗が減ったそうだ。特に、「大きな損をしなくなった。板を見ることで、これまで損をしそうだと感覚的に感じていた値動きを論理的に考えられるようになった。たとえば、継続的に入っていた注文がピタッと止まってしまうときがある。たぶん、多くの投資家がパソコンの前で買うのを躊躇し始めているのだと思う。動きに勢いがなくなり、その後、株価が下落していくことも多いから、勢いがなくなってきたところですぐに逃げるようにしている。もともと速かった逃げ足が、さらに倍速で速くなった」と笑う。

坂本氏も、「彼女のこの逃げ足の速さが、成功するための大切な要素のひとつ。しかも、数回に分けて利益確定をしていて、最後の1枚が相場の頂点だったりすることもある。撤退する決断が早ければ早いほど、損を最小限にとどめることができるし、買った値段で売り抜ける『同値撤退』も可能だ。負けなければ、またチャレンジすることができる。株式取引のプロであるディーラーも逃げ足が速く、損をコントロールできる人が儲かる」と付け加えた。

兎にも角にも、「板読み」は投資の入り口だけでなく、出口のタイミングも教えてくれる、投資の成功の確率を上げる武器になるということはわかった。

「株主優待銘柄」や「相性のいい銘柄」を探す


ところで、彼女は何千もある銘柄の中から、どのように投資対象を選んでいるのだろうか。

ひとつは株主優待だ。「優待の権利がもらえる月ごとに分けて銘柄リストを作り、その優待狙いの買いが出始めるタイミングを狙って、中長期的に買う」そうだ。優待人気の高い銘柄は、権利確定までの数カ月にわたって上昇トレンドを継続することもあるため、利益を最大限に享受できる。値動きの癖を生かした投資法だ。

加えて、「相性のいい銘柄をいくつか持っておくこと」も大事だという。「大型株は、参加者が多いため板読みはしづらいが、動きの激しい新興株に比べると下値が限定的だと思う。売られすぎると買いが入ってくるので、トレードのタイミングが判断しやすい。商いが活発に行われている小型株だと値動きも速く、損切りラインを突き抜けて下落したときは、思考が停止してしまう。そうなりにくい銘柄を選ぶことも大事」だと教えてくれた。

儲けたいという思いで始める人が多い「投資」だが、彼女は、株式投資を覚えたことで見える世界が広がり、さまざまなものが冷静に見られるようになったという。

「もともと、普通預金よりよければいいと思っていたし、今もそれが基本。自分に合った投資法を知り、できることが増えたことがうれしい。『習うよりも慣れよ』というが、むしろ『慣れるよりも習え』で、やっぱりいい先生の存在はとても大切。投資は楽しいもの。これからもずっと投資していきたい」と笑顔で話してくれた。