勘違いされたテールワギングの意味

犬が尻尾を振る行動のことを「テールワギング(Tail Wagging)」と呼びます。

一昔前なら犬がテールワギングをしていれば、それは犬が喜んでいることだと広く解釈されていました。しかし、現在では様々な犬の書籍やインターネット上の情報により、テールワギングは必ずしもハッピーを示すだけではないことが広まってきました。実際に犬は、他者を襲っている時も激しくテールワギングをします。なので「テールワギング=ハッピーな気持ち」では説明のできない行動が沢山あるのです。

犬をよく観察していれば、どの犬でも様々な状況でテールワギングをしているのが解ると思います。例えば、犬が他者を追い払おうとして吠える時、犬が誰かを攻撃している時、不安なときにもテールワギングは見られます。

犬の尾の動き方による意味

犬がただ尾を振るといっても、その振り方は様々です。震えるように小刻みに振るのか、ゆっくりと小さく振るのか、大きくゆっくりと振るのか、大きく早く振るのかなど、振り方も様々です。また、その時の尾の高さ、緊張具合なども異なります。こうした様々な振り方が存在するのも、様々な感情でテールワギングが行われているからです。これだけのバリエーションがあるのですから、テールワギングが一つの意味しか持たないと考える方が無理があると言えるでしょう。

尾の高さも感情のバロメーターになります。高くもなく低くもない状態はリラックス、地面に対して水平である時は、警戒や慎重さの表れ、尾が高くなるにつれて、脅かされている状態を表しています。尾が垂直に立ち上がった状態は支配的なサインです。反対に下がっていれば、従順さの現れや、心配している、嫌な感じがするなどの表れです。強烈に恐怖を感じている状態では、尾が下がりお腹の中へと入り込みます。この場合では体の震えなどが伴うこともあります。
また、テールワギングの速度は興奮の度合いを表します。早ければ興奮度が高い状態です。

右に振る?それとも左に?

最近の研究では、犬の尾が右に振られるのか、反対に左に振るかでは意味が違っているということが解っています。犬が自分の体の右側に降っている時はポジティヴな感情、左に振る時はネガティブな感情が伴っていると言われています。

イタリア・トリエステ大学の研究者らは、犬をカメラが設置されたケージに入れ、飼い主や、馴染みのない人、猫、支配的な犬をケージの前に近づけ、それぞれの反応を観察し分析しました。

犬は、飼い主には激しく右側にふり、馴染みのない人へは、ゆっくりと右側へ、猫では最初に右に降った後に止まりました。支配的な犬を見せた時には、左に揺れ動いたとされています。

こうした左右で違いが出ることを非対称性と言います。脳は右と左に分かれており、体の動きは左右逆転して現れます。ヒトを含む多くの動物で、左脳は何かの目的で対象に近づく行動(Approach behaviour)や落ち着きに特化しており、右脳は撤退(Avoidance)や、エネルギー消費を伴う活動に特化します。さらに、左脳が活動している時は心拍数が下がり、右脳が活動すると心拍数は上がります。

ヒトの場合では、顔の右側(左脳)の筋肉には幸福を反映する傾向があり、顔の左側(右脳)の筋肉には不幸を反映する傾向があります。
このように、左右で振れる尾を見れば、親近感を持っているのか、警戒しているのかの判別がつくかもしれません。しかし、これはあくまで傾向であるので、全ての状況、個体で同じ反応が出るとは限りません。

まとめ

犬がテールワギングをするのにも、実に様々な意味が込められています。これには文脈のようなものがあります。動き方、高さ、左右のどちらかなどの組み合わせによって感情が表現されています。また犬の感情を読む時には、尾以外のボディーランゲージも組み合わせて読む必要があります。こうして犬は体全体を使ってメッセージを発しています。このような一連の行動を「犬の言葉」と表現することがあります。

犬の言葉は、本能的なものと学習されるものが混在するので、仔犬時代に親兄弟から学んだものも含まれます。親犬から早く引き離されたり、社会化が不足したりすると、こうした犬の言葉をしっかりと学習できない場合があります。私は、この中でも尾の動きに関しては本能的なものではないかと思います。愛犬の尾がどちらに動くか、様々な状況で観察するのも楽しいですね。

また、残念なことに、犬種によっては断尾されることもあります。断尾はこうした犬の言葉を理解不能なものにしてしまいます。犬の尾は重要なメッセージを発しているので、犬同士のコミュニケーションが上手くいかないこともあります。故に断尾はするべきではないでしょう。

《参考》
Marcello Siniscalchi,Rita Lusito,Giorgio Vallortigara,Angelo Quadrant(2013),Seeing Left-or Right-Asymmetric Tail Wagging Produces Different Emotional Responses in Dogs,Current Biology,Elsevier Inc.


(ドッグトレーナー提供:ドッグビヘイビアリスト 田中雅織)