『あたらしい無職』(丹野未雪/タバブックス)

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「こんな会社、思い切って辞めちゃおうかなあ」

 会社勤めをしていれば、誰もが一度はそう考えたことがあるはずだ。でも、次の仕事のあてがない無職は想像以上につらいもの。収入がなくとも、健康保険や住民税などの支払いは容赦なく押し寄せる。いつ終わるとも知れない貯金を切り崩しながらの生活は、いつしか心までもすり減らしていく。

 そんな無職の日々を淡々と綴り、一冊の本としてまとめたのが『あたらしい無職』(丹野未雪/タバブックス)。リトルマガジン『仕事文脈』に2014年から不定期で掲載されていたものだ。本書はタバブックスが刊行する〈シリーズ3/4〉の2作目にあたる。3/4くらいの身軽さ、ゆとり、余白のある生き方を探す人向けのこのシリーズに、「会社に縛られない生き方」のリアルをありのままに綴った本書は妙にしっくりくる。

 非正規雇用を転々としてきた著者は、本書の序盤で勤めていた会社を雇い止めとなり無職となるが、就活し、正社員として再就職する。が、1年後に再び辞めて無職になる。

 著者が正社員としてこなしていた仕事は、激務ながらも充実していたように見えた。中でも“全国各地の中小企業の社長を訪ねる”という出張取材にはドラマがあり、作中で綴られる取材の様子からは、著者が楽しみながら仕事をしていることが伝わってきた。しかし、そのうち仕事に忙殺されるようになった著者は出張取材にも行けなくなり、結果、入社から1年で辞めるという決断をする。

 40代で会社を辞めた著者の決断については、賛否両論あるだろう。次が決まってないのによく辞めたね、自分だったらこわくてできないと心配してくれる友達に対して、著者は少し苛立った口調でこう言う。

「わたしだってこわいよ。でもあれ以上長くいたら鬱になったかもと思うし、なったら仕事探せないし」

■鬱にならずに済んだけど友人に借金

 鬱にならずに済んだが、現実はそう甘くない。2度目の無職の際はなかなか仕事が見つからず、生活がひっ迫した著者は、ついに友人に借金を申し込むことになる。

「明るい声のJ子さんにお金を借りたいと申し出る。J子さんは一瞬間をおいて、『いいよ』といった。メールでいいから一応借用書を送ってといったJ子さんの声から、戸惑いを隠そうとするような震えが伝わってきた」

 親しい友人に借金を申し込まれたら、きっと誰もが同じような反応になるだろう。

 このような胸が痛むシーンも時折あるが、本書で描かれる無職生活には、不思議と悲壮感はない。それはきっと、いつも著者が人に囲まれているからだろう。彼女はけして誘いを断らない。お金がなくても予算の上限を決めて飲み会に出かけ、お世話になった人のトークショーや個展に出かける。無職のくせにと言うなかれ、物語の終盤、彼女は知人の紹介でいくつもの仕事を手にするのだから。

 会社を辞めるのか、しがみつき続けるのか。判断するのは自分自身で、きっと正解はないのだろう。ただ、どんな状況でも人生で出会ってくれた人々を大切にし続けることで、見えてくるものがあるのかもしれない。本書のラストでJ子さんに借金を返済し、「返済記念の飲み会をしましょう」とメールをする著者を見届けた後、そう思った。都会で踏ん張りながら仕事をしているすべての人に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。

文=佐藤結衣