国を出て世界で働く韓国の若者たちは日本にも多くやってくる

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 大韓民国の人口はおよそ5000万人で、日本の半数にも満たない。しかし、韓国人は世界中、どこに行っても必ず行き会う人たちでもある。とくに、歓楽街で韓国人と出会う確率は非常に高い。日本でもそうだ。なぜ、彼・彼女たちは国を出て世界で働こうとするのか。その理由をライターの森鷹久氏が追った。

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 東京・原宿のアパレル店が立ち並ぶ通りで出会ったのは、韓国随一のリゾート地、済州島出身の青年・ビョンホ(26)。髪は金髪で、サイドを刈り込み、いかにも今風といった格好は、筆者からすると「チャラチャラした今風の若い日本人男性」と見分けがつかないが、彼は、いま韓国で急増している、祖国に絶望した若者の一人だ。

「地元のチェジュ(済州島)には仕事がない。漁業や観光関連の仕事はあっても、フルタイムで働いて月に10万円を手にすることも厳しい。若者は釜山やソウルに出稼ぎに行くが、チェジュ出身者は田舎者だと馬鹿にされる」

 ビョンホは幼少の頃から、済州島出身者が韓国本土では嘲笑の対象になると、祖父母や親族から教えられてきた。中学卒業後、釜山の私立高校に進学したが、教わった通りに、済州島出身である身分を小馬鹿にされ、教師からも差別を受けたと話す。これは、大学進学の為に移り住んだソウルでも変わらず、就職活動の際にも”君は済州島出身か”とあざ笑われた。

「故郷のことを言われる度に”そうなんです、田舎者です”とおどけてみせたが、我慢の限界でした。結局就職活動はうまくいかず、ソウルに残ってアルバイトをする日々が続いた。今、韓国の若者の間では”正社員かチキン店か”などと言われています。サムスンや現代へ就職し、成功者になるか、そこら中にあるチキン店で低賃金を手にしながら細々と暮らすか、どちらかしか道がないと。極端な話ですが、韓国の若者たちがこうやって自らの置かれた境遇を自嘲気味に語るのです」

 韓国では数年前から、フライドチキンの店が激増中だ。チェーン店だけでなく、それほど多額の資金をかけずとも開業できるからと、定年退職したベビーブーマーの高齢者が新規開店させたのが重なり、今ではコンビニエンスストアよりも多い3万を軽く超える店舗数を数える。廃業と開業がめまぐるしく繰り返されるため雇用が安定しないが、常にどこかで店員を募集しているため、日本の東大卒に相当するソウル大卒でも就職率50%といわれる超就職氷河期にある多くの韓国の若者たちが、チキン店店員として働いている。

 チキン店でアルバイトをしつつ、深夜はガソリンスタンドでアルバイトを掛け持ちし、一昨年に来日。現在は語学学校で学びつつ、神奈川県内にある在日韓国人が経営する飲食店で働きながら生活するが、やはり生活の苦しさは変わらない。若いビョンホにとって、遊興費の獲得は何事にも代えがたい目標だ。

「今は仕入れをして、ネットで売ることをやっています。人気の商品は、すぐに価格が上がりますから」

 神奈川県内の韓国人コミュニティを通じて知り合った同胞から”転売”で稼ぐ手段を教わり、この転売だけで月に十数万円を得ているというビョンホ。不法行為ではないが”ずっと続けられる仕事はない”と自身で語っているところを見ると、決して喜んでやっているわけではない。筆者が出会った時、彼は原宿の某スポーツショップの前に早朝から並んでいた。

「森さん、ここで買った靴は、アッパ(日本で世話をしてもらっているパパ)のとこに持っていけば、二倍で買い取ってもらえますよ」

 六本木の人気クラブで遊んでいたソウル市出身の女性・ジョンファ(24)は「私は日本に留学に来ています。日本語を学んでビジネスをするのです」と、当初は自身が”留学生”であることを強調したが、後に売春目的で来日したことを明かした。

 ジョンファと共にいた女性XとYも、同じく韓国出身で、同じ派遣型風俗店で働く同僚だ。大学卒業後、就職したものの賃金の低さや労務環境の過酷さに耐え切れずすぐに辞職。大学で日本語を学んでいた彼女たちは、ネット上で見つけた「日本で高収入のエスコート業務」という求人を見て応募し、すぐに来日した。

「エスコートがどういう仕事かはわかっていました。韓国の女性は、国内での身分が低いので海外に出たいという人が多いし、韓人女性が海外で体を売って刑務所に行くこともあると知っています。でも、日本はしっかり面倒見てくれるし、オッパも優しい」(ジョンファ)

 酔っ払ったジョンファたちが「オッパ(お兄さん)」と呼ぶ彼女たちの世話係は、元在日韓国人で数年前に帰化した経歴を持つ高山氏(仮名)だ。風俗産業に従事した後、風俗店で働きたいという韓国人女性の斡旋や管理を行っている。高山氏へのインタビューは困難に思われたが、何度かの電話での会話を経て、筆者と会ってくれることになった。高山氏には、日本人に知ってほしい、ある「思い」があったのだ。

「彼女たちを悪く書かないでほしい──」

 高山氏は開口一番に訴えると同時に、韓国人と在日韓国人の微妙な関係、そして不安定な日韓関係の中で暮らす韓国・朝鮮系の人々の状況について、次のように語ってくれた。

「まず、彼女たちは好きで売春しているわけではない。韓国には仕事が本当にない。そして私たちが彼女たちの面倒を見ているが、彼女たちの稼ぎの半分以上は、私や日本人の風俗関係者、悪い人たちが取り上げる。でもこれは仕方がないことで、それでも彼女たちは生活していくだけのお金を稼げます。いいことか悪いことはわからないが、こうするしかない。在日である私が韓国人をいじめているとか、韓人が日本で悪いことをしているとか、そういうことではない」

 韓国の若年層における雇用率が低いことは前述の通りだが、女性雇用率も低い。15〜64歳の女性雇用率は56.2%で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均(59.3%)より3.1ポイントも低い。これは加盟35カ国のうち、トルコ、ギリシャ、メキシコ、イタリア、チリ、スペインに次いで7番目に低い数値だ。新入社員の採用で女性を敬遠する企業文化が根強いことが影響していると言われる。

 いくら韓国内が就職難だからといっても、やはり高山氏の発言は詭弁にも感じ、彼ら、彼女たちがやっていることといえば、日本国内で売春行為をしているにすぎない。違法行為に手を染めている人たちもいる。それでも高山氏はいう。

「日本はいい国だ。言いたいこともたくさんあるが、なんだかんだで受け入れてくれている。差別されているとは思わないし、思いたくもない。母国が助けてくれない事実も、頼れない事実も理解している。どう言えばいいのかな…。日本人にわかってくれ、という方が無理があるのかもしれません」

 筆者は以前、韓国から続々来日する「韓国人売春婦」について、右派系論壇誌に寄稿した。読者からの反応は様々で、ネット上では特に、韓国や中国、そして北朝鮮に対して排外的な人々の思想を補完するような形で引用・拡散がなされた。

 筆者の意図としては、日本に来て、または世界中で売春をせざるを得ない韓国人女性たちについて、韓国政府も世論も、なぜ見て見ぬ振りをするのか、問いかけたかった。

 就職活動の失敗や、低賃金にあえぐ国内の労働者を見て絶望し、日本国内での出稼ぎ売春に励む韓国人女性たち。死ぬまで、日本やアメリカ、中国などを転々としながら身を売り続け、ついには祖国の土を二度と踏まぬまま、流浪の地で死ぬことになるのではないか、そんな不安を抱く女性もいた。

 あれから何年も経った。大統領が交代したが、経済は相変わらずの低飛行で、2017年は大卒者にとって最悪の就職氷河期にあるという。朝鮮半島の緊張は高まるばかりで、明るい話題が見当たらない。若者たちみずから、母国の有り様を「ヘル朝鮮」と自嘲して表現するほど、生きづらくなった。しかも、韓国社会が若者たちにとって明るい未来を用意してくれそうな気配が見えない。人間らしい生活を送るための稼ぎを得るには、国を出ないとならないと追い詰められているのだ。

 母国から遠く離れ、ときには法律すれすれの活動をして稼ぎ続け、苦しい中でもなんとか「韓国人」であるアイデンティティーを持ち、生き続ける人々。様々な矛盾はあるが、そこに厳しい目を向け、追求するだけでは何も解決はしない。彼らには、熱心に働く人がすくなくない。労働力人口の減少に悩む日本にとっても、プラスになる受け入れ方があるのではないだろうかと、保守的だと自認する筆者でさえ感じてしまうが、これもやはり「売国」とレッテルを貼られる考え方なのか。