功名心を抑えきれず、首席戦略官をクビになったスティーブン・バノン氏(写真:joshua Roberts/ロイター)

ホワイトハウスでは、自分なしに大統領は機能しない、とメディアに信じ込ませる人物が現れることが多い。「ブッシュ(子)大統領の頭脳」と呼ばれたローブ補佐官や、「ジョンソン大統領の守護天使」として雑誌の表紙を飾ったモイヤーズ報道官のような人たちだ。こうした絶対的側近は、劇的なストーリーを嬉々として披露したがる。いかに自らが政権を危機から救ったか、といった話だ。

だが彼らは往々にして一線を踏み越える。レーガン政権で自らを「首相」になぞらえたリーガン首席補佐官は、レーガン大統領とソビエト連邦の最高指導者ゴルバチョフ氏の写真撮影に割り込み、不興を買った。さらに、大統領の妻ナンシー氏と対立するという致命的ミスを犯し、辞任に追いやられた。

トランプもバノンもホワイトハウスには不適格

大統領にしてみれば、切れ者の側近によって窮地から救われた、という記事を見るのは気分のいいものではない。賢い大統領なら、目立ちたがり屋を排除するものだ。オバマ前大統領にはそうした威厳があったので、側近が目立とうという気を起こすことはなかった。

先頃、首席戦略官を解任されたバノン氏は、大統領側近としてはあまり賢い人物ではなかった。功名心を抑えきれなかったからだ。一方、トランプ大統領のエゴは極めて敏感だ。近親者とゴマすりに囲まれた仕事人生を送ってきたからである。2人とも、ホワイトハウスには不適格な人間なのだ。

トランプ氏は自らの直観に頼って大統領選挙を戦った。その直観とは、ブルーカラー労働者や経済的な不安を抱えている層には、それがメキシコ移民だろうが、金融界の大金持ちだろうが、とにかく不満のはけ口が必要だということだった。そうした考えに最もフィットしたのが、たまたまバノン氏だったにすぎない。

バノン氏は、反エスタブリッシュメント(既得権層)の思想を身にまとっていた。だが、彼のポピュリズムは偽物だ。政治的にはブルーカラー層の利害を代弁しながら、ゴールドマン・サックスでの勤務、そして人気コメディ番組「となりのサインフェルド」への投資によって数百万ドルもの大金を手に入れたのがバノン氏である。

同氏は、億万長者マーサー一族の後ろ盾を得て頭角を現した。ヘッジファンドによって財を成したマーサー一族は、過激な排外主義と白人至上主義を掲げる極右メディア「ブライトバート・ニュース」のスポンサーであり、その会長を務めていたのがバノン氏だ。

どこにでも首を突っ込んだことが致命傷に

バノン氏はホワイトハウスの排外主義路線を強化し、その結果、トランプ氏は長女イバンカ氏や経済諮問委員の反対を押し切って気候変動パリ協定から脱退。バノン氏は国家安全保障会議のメンバーとなり、外交にも立ち入った。そして、国家安全保障担当のマクマスター補佐官とケリー現首席補佐官によって更迭された。バノン氏を「ホワイトハウスのラスプーチン」と見るのは間違いだった。

バノン氏は所管を持たない知恵袋としての役割をトランプ氏から与えられていたが、これがあだとなった。責任範囲が明確でないのをいいことに、バノン氏はどこにでも首を突っ込むことができた。そして多くの敵を作った。バノン氏は敵対する人物についての情報をマスコミに流し、トランプ氏はバノン氏がホワイトハウスの情報を漏らしていると考え始めた。

バノン氏は、トランプ氏が大統領選挙に勝てたのは、自分が果たした功績が大きいとほのめかした。自らの虚栄心のせいで、最も危険な領域へと足を踏み入れてしまったのだ。両者の関係は決定的にこじれた。そしてホワイトハウスのはみ出し者は、ついに放逐されたのである。