航空自衛隊による、弾道弾迎撃ミサイルシステムPAC-3の米軍横田基地への展開訓練(写真=AFP=時事)

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着々と進む北朝鮮のミサイル開発。とりわけ、グアムのアメリカ軍基地やアメリカ本土に届くと北朝鮮が主張する火星12号、火星14号に、米政府は神経を尖らせる。これら射程の長いミサイルが日本への攻撃に使われる可能性は高くないとされるが、一方で上空を飛行中の事故、あるいは山なりのロフテッド軌道による攻撃にも備えておく必要はある。自衛隊やアメリカ軍の現状の体制は、北朝鮮のミサイルを迎撃できるのか。

■落ちてくる弾頭の速度はマッハ10前後

8月29日に我が国の上空を飛び越えた、北朝鮮の中距離ミサイル「火星12号」。北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)だと主張する、より射程の長い「火星14号」とともに、アメリカが神経を尖らせる兵器だ。

とはいえ、前回の記事「北朝鮮ミサイルの“実力”を冷静に評価する」でも述べたように、北朝鮮がこれら「火星二桁」シリーズのミサイルで、日本を攻撃する戦略的理由はない。はるかに大量に保有するとみられる「火星7号」などの準中距離クラスのミサイルでも、日本の国土のほぼ全体が射程内に入るからだ。

例外は、高高度を経由する山なりのロフテッド軌道でわざわざわが国を狙った場合と、わが国上空を通過するコースを飛翔中に事故が起きた場合である。

北朝鮮がロフテッド軌道に載せたミサイルでわが国を攻撃するような事態は、通常では考えづらい。ただ何らかの理由で、北朝鮮がどうしてもわが国に核兵器を打ち込みたいと画策した場合はその限りではない。核弾頭の重量が重すぎて短〜準中距離ミサイルには載らないとき、推力に余裕のある火星12号/14号の燃料搭載量を減らし、重い弾頭を強引に載せてくることも考えられるからだ。その場合、飛翔の軌道は短〜準中距離ミサイルよりはるかに高空を通るものとなり、落下する弾頭の速度はマッハ10前後に達するだろう。

弾道ミサイルが高度1500km以上の頂点をもつ軌道を描いて飛翔する場合、海上自衛隊のイージス艦が搭載するSM-3(ブロックIA)での迎撃は困難となり、実質的には航空自衛隊が保有する地上配備型のPAC-3による、一発勝負での防御となってしまう。PAC-3は短距離弾道ミサイルの迎撃を得意とするもので、中距離弾道ミサイルや長距離弾道ミサイルなど、落下速度の早い弾頭への対応は難しい。メカニズム的に迎撃は不可能ではないが、そのチャンスは極めて限られる。

また、アメリカ本土やグアム、ハワイに向けて発射された弾道ミサイルがわが国の上空を通過した際、なんらかの理由で上昇中のミサイルが事故を起こす可能性もある。この場合、弾頭や本体、燃料等が、日本の領土・領海内に降り注ぐことも考えられる。火星12号や火星14号の推進剤だと推測されるUDMH(非対称ジメチルヒドラジン)は強い毒性で知られ、その蒸気や液体に接触すると、皮膚の熱傷や潰瘍、失明などの危険がある。弾頭に核物質が搭載されていた場合は、その飛散も懸念されるだろう。

■成層圏内での迎撃が望ましいが……

地上への被害を最小限にとどめるには、ミサイルが成層圏にいる間に迎撃し、危険物質の早期飛散を狙うのが順当な方法となる。現在のところ、その最も有効な手段は、航空自衛隊のPAC-3による迎撃だ。ただPAC-3は、上昇限度(約15km)はともかく、カバーできる範囲が発射機から約20km以内と狭いのが難点だ。現在韓国での配備が進められているアメリカ軍のTHAADをわが国が保有していれば、成層圏よりさらに高い高度での迎撃が可能だが、残念ながら今後の配備に期待している段階である。

8月10日には、朝鮮中央通信が「軍は8月中旬以降に米領グアムを囲むように火星14号を4発同時に撃ち込むことを検討」というコメントを発表した。発言を真に受ければ、北朝鮮から発射された中距離弾道ミサイルは日本列島を飛び越えて南方へと向かうわけだが、その際に弾道ミサイルは高い推力を誇るロケットエンジンによって早々と慣性飛行に遷移する。恐らく北朝鮮はイージス艦搭載のSM-3ミサイルによる迎撃を避けるため、約1000kmを超える高度を飛行するよう指令するはずだ。

こうなるとイージス艦による迎撃のチャンスは、グアム近海におけるごくわずかな時間しかない。アメリカ海軍のイージス艦に搭載されるSM-3ミサイルの迎撃能力をもってしても、弾道ミサイルの弾頭が分離された後、その高度が500kmから100kmまでに下がってくるわずか数十秒のタイミングでしか対応できないからだ。それより下層での迎撃には、同じくイージス艦に搭載されるSM-6インクリメントや、陸上配備のTHHADが必要で、さらに最終段階ではPAC-3頼みとなる。

■今後も進化を続ける北朝鮮のミサイル技術

先般、小野寺防衛大臣はグアムに向けた火星12号の発射に際し、誤って日本に落ちてきた場合を想定して、出雲(島根県)、海田市(広島県)、松山(愛媛県)、高知(高知県)の4つの陸上自衛隊駐屯地に、航空自衛隊のPAC-3部隊の展開を命じる破壊措置命令を出した。しかし前述のように、PAC-3が届くのはミサイルが事故などで日本に落下してきた場合だけで、グアムや米本土に向かって飛行中の弾道ミサイルを集団的自衛権を行使して撃墜するには、新型ミサイル(SM-3ブロックIIA)とそれを管制できるシステムを搭載する、海上自衛隊のイージス艦が必要となる。

北朝鮮が次のテーマとしているのは、固体燃料式のミサイルの開発だ。現行の「火星」シリーズはいずれも液体燃料式の弾道ミサイルで、構造上輸送時の振動に弱く、車載型のタイプであっても移動速度が制限される。固体燃料方式ではそうした制限が緩和されるため、短時間で長距離を移動することが可能になる。攻撃命令が下されてから発射までに要する時間も、液体燃料の数時間から、わずか数分に短縮できるため、他国の偵察衛星や偵察機などで発射を事前に察知されにくくなる。

2016年8月にテスト発射された北極星1号、続いて2017年2月に発射された北極星2号はこの固体燃料式であり、すでに射程は2000km以上を実現したと推測されている。ロケットモーターの生産技術が確立され、同時にミサイル誘導技術が向上すれば、今後は保有するすべてのミサイルを固体燃料式に置き換えようとするはずだ。これが実現すれば、アメリカ軍の偵察能力をもってしても事前に発射の兆候を捉えることは難しくなり、撃たれてからの受け身の戦術を強いられることなる。

■発射動向の隠蔽テクニックも向上

発射動向の隠蔽について、北朝鮮は並々ならぬ注意を払っている。2017年7月28日の弾道ミサイル(火星14号)発射の際には、深夜に突如として発射が行われたため、アメリカ軍ですら把握に時間を要したようだ。通常、こうしたミサイルが発射される時には、アメリカ軍はかなり前もって沖縄の嘉手納基地から弾道ミサイル観測機(RC-135Sコブラボール)を離陸させ、発射に備える。だがこのときは、ミサイル発射の小一時間前になって慌てて離陸したもようで、どうやら観測には間に合わなかったようだ。

弾道ミサイル開発とその運用、さらに恫喝のタイミングを振り返ると、北朝鮮の狡猾さが際立つ。独裁国家らしく、体制の維持という最大の目的のために、国家が一丸となって知恵を絞るその集中力はすさまじい。独自の進化を遂げる火星一桁シリーズの短〜準中距離ミサイルは、生産ピッチを上げて備蓄数を増加させるだろうし、米本土を狙う火星二桁シリーズは、射程の大幅延伸と多弾頭化をはかっていくだろう。展開能力と即応性、発射動向の隠蔽性に優れる固体燃料式ミサイルの開発も、同時に進んでいくはずだ。北朝鮮のミサイル開発力、そしてその攻撃力を、決して甘く見てはならない。

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芦川 淳(あしかわ・じゅん)
1967年生まれ。拓殖大学卒。雑誌編集者を経て、1995年より自衛隊を専門に追う防衛ジャーナリストとして活動。旧防衛庁のPR誌セキュリタリアンの専属ライターを務めたほか、多くの軍事誌や一般誌に記事を執筆。自衛隊をテーマにしたムック本制作にも携わる。部隊訓練など現場に密着した取材スタイルを好み、北は稚内から南は石垣島まで、これまでに訪れた自衛隊施設は200カ所を突破、海外の訓練にも足を伸ばす。著書に『自衛隊と戦争 変わる日本の防衛組織』(宝島社新書)『陸上自衛隊員になる本』(講談社)など。

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(防衛ジャーナリスト 芦川 淳 写真=AFP=時事)