3月19日に開催された阪神大賞典(G供砲罵ゾ,靴織汽肇離瀬ぅ筌皀鵐鼻10月1日には、日本競馬界が悲願とする仏・凱旋門賞の制覇に挑む(写真:山根英一/アフロ)

中央競馬は夏のローカルシーズンを終えて、いよいよ秋競馬に突入する。G気惴けて超A級馬が次々と始動する時期だ。そして10月1日にはフランスのシャンティイ競馬場で凱旋門賞が行われ、今年はサトノダイヤモンドが日本競馬界悲願の凱旋門賞制覇に挑む。春のクラシックシーズンと並び、これから暮れの有馬記念まで競馬が盛り上がる時期を迎える。


この連載の一覧はこちら

10月1日にフランスで凱旋門賞の大一番に挑むサトノダイヤモンドが、中央競馬で所属するのは栗東(滋賀県)の池江泰寿厩舎。現在は凱旋門賞へ向けてフランスのシャンティイ調教場に移動し、現地で開業する小林智厩舎で調整されている。

あす10日には、同じくフランスで行われる前哨戦のフォワ賞に出走する予定で、順調に滑り出したいところだ。

この「厩舎」を運営し、所属する競走馬を管理するのが「調教師」である。競馬に携わる人の中でも「騎手」は競走馬に騎乗する人で、競馬になじみがない人でも比較的わかりやすい。ところが「調教師」というのは、いったい、どんな人がなって、どんな仕事をしているのかがわかりにくい。今回は中央競馬の調教師について述べてみたい。

「調教師」は、何を仕事にしているのか

調教師の仕事を簡単に説明すると、競馬に使われる競走馬を馬主から預かり、育成と訓練をしてレースに出走させるということになる。厩舎を自ら経営し、調教師や調教助手を雇用して競走馬を出走させながら、賞金と馬主からの預託料で運営していく。

ただ、馬を鍛錬し調整するトレーナーということだけでなく、預けてくれる馬主を探したり、騎乗してくれる騎手を確保したり、出走するレースを決めたりと、競馬をマネジメントする大きな役割もある。

筆者が取材活動を始めた当初、調教師は怖い存在だった。調教師は現場では「テキ」と呼ばれる。騎手の逆の「手騎」から「テキ」となったという説と、ステッキを持っていたから「テキ」になったという説がある。われわれは調教師を「先生」と呼ぶが、名門と呼ばれた厩舎の調教師は威厳があった。われわれにはあまり本音を話さないような職人気質の方も多かった。

ところが、今は営業マンのような調教師が増えた。マスコミ対応も仕事のうちでソツがない。分業化も進み、チームとして戦う要素が強くなった。「トレーナー」の側面よりも、経営者でありマネジメント能力が問われるようになった印象がある。

競馬ファンのカーレーサーが面白い例えをしてくれた。競馬の厩舎とレーシングチームは似ているというのだ。

マシンと競走馬、ドライバーとジョッキーは立場が同じ。自動車はメーカーが造り、競走馬は牧場が生産する。車づくりに携わるメーカーのエンジニアやチームのメカニックは、競馬でいえば牧場の育成担当や厩舎の調教助手・厩務員。レーシングチームのスポンサーは厩舎でいえば馬主。そして、マネジメントするのが監督と調教師だ。

実にうなずける話で、競馬を知らない人でも何となくわかっていただけるのではないだろうか。チーム一丸で成績を上げていくという点もよく似ている。現代の競馬は「厩舎」という「チーム」で戦い、その監督が「調教師」というのが最もわかりやすいニュアンスだろうか。

調教師は免許制、試験合格は毎年5〜8人程度

調教師は免許制だ。JRAは競馬法により農林水産大臣の認可を受け調教師試験を施行し免許を交付している。試験は難関だ。

1次試験は筆記で、(イ)競馬関係法規に関する専門的知識及び労働関係基本法規に関する一般的知識、(ロ)調教に関する専門的知識、(ハ)馬学、衛生学、運動生理学、装蹄、飼養管理及び競馬に関する専門的知識、の3種類の試験と身体検査がある。

現在は外国人にも開放されているが、実績が優秀と認めた外国の調教師は(イ)を日本語で受験しなければならない。門戸は開かれているが当然難しい。2次試験は口頭試験で、(イ)競馬関係法規、厩舎の経営及び管理に関する専門的知識並びに一般常識、(ロ)衛生学、運動生理学、装蹄及び飼養管理に関する専門的知識、(ハ)馬学及び競馬に関する専門的知識、(二)調教に関する専門的知識の4種類と人物考査がある。

28歳以上なら特に厩舎などでの経験は問わないが、一般人がいきなり受験しても合格できるような試験ではない。ほとんどが騎手、調教助手、厩務員の経験者だ。JRAの職員や経営委員会の委員、馬主登録を持つ人、騎手免許を持つ人は調教師試験を受験できない。騎手が調教師に転身する場合に現役を引退するのはこのためだ。禁錮以上の刑を受けた人、競馬法や日本中央競馬会法などの規定に違反して罰金刑を受けた人、暴力団員、このほか競馬の公正、安全な実施の確保に支障を生ずるおそれがあると認められるような理由がある人は受験できない。

調教師試験に合格するのは毎年5〜8人というところだろうか。難関を突破したものだけが厩舎の開業を許される。以前は通算1000勝以上を挙げていた騎手に1次試験免除の特典があったが、今はなくなっている。合格すると約1年間、すでに開業している調教師の下で研修を積むのが通例。研修中が馬主らとの人脈を確保したり、開業時の管理する競走馬を確保する準備期間とされている。現在、東西で厩舎を開業する調教師は193人いる。定年は70歳と決められている。

調教師の収入となるのは、管理する競走馬が獲得した賞金と、競走馬を預かるために馬主に支払ってもらう預託料だ。この中から厩舎に所属する調教助手や厩務員の給料を経営者として支払わなければならない。

預託料の相場は1頭当たり1カ月で60万円から70万円といわれる。厩務員1人で2頭担当するのが通常の形だ。競走馬の飼料代やケガをした場合の治療費などさまざまな経費がある。中央競馬で東西2カ所にある美浦(茨城県)、栗東の両トレーニングセンター(トレセン)の馬房数は決まっており、各厩舎は成績に応じて管理する馬房数が増減する「メリット制」によって、馬房数が定められる。

標準的な厩舎なら20馬房で、そうなるとトレセンに入厩できるのは20頭ということになる。厩舎に所属できるのは馬房数の最大2.5倍。20馬房で管理馬が50頭いればトレセンと牧場を往復しながら出走が近い馬と出走直後の馬をうまく入れ替えてやり繰りしなければならない。現役だけでなく将来的に入厩する予定の若駒も含めれば80頭から90頭を管理することになる。

以前の調教師は、馬を入厩させてくれる馬主探しに困ることはあまりなかった。昔の有力調教師なら牧場を回る際にも、馬主が経費を負担していた。ところが、今は調教師が有力馬を入厩させるために奔走する時代になった。美浦のある若手有力調教師は「移動の経費だけでも大変です」と言う。北海道の生産牧場や美浦近郊の調整のための牧場だけでなく、馬主の都合で関西や九州の牧場にも管理馬を預けている。調教師は移動だけで年間500万円から多ければ1000万円もかかるという。

調教師の「1週間」はとにかく忙しい

調教師は1週間をどう過ごすのか。週末のレースに向けた毎日の動きを美浦の若手の有力調教師に聞いてみた。

馬の調教は朝が早い。馬が馬場入りするのは季節によって変わるが、基本は午前6時から、と考えていいだろう。スタッフは午前3時ごろ厩舎に行って担当馬の状態をチェックしたり、馬房を掃除したり、運動するために馬装を整備する。曳き運動(歩行訓練)などで十分ウォーミングアップしてから、毎週水曜日(厩舎によっては木曜日のところもある)は強めの調教をして、目安となるタイムを計測する。これは俗に「追い切り」と呼ばれる。

もちろん調教師はこの指揮を執り、週末に出走する馬を中心に状態をチェックする。追い切りを強めにするか軽めにするかメニューを決めるのも調教師の仕事だ。スタッフはこの後、馬のクールダウンを行い、馬装を外して洗い場のシャワーで馬の汗を流して脚元など馬体を細かくチェック。異常がないことを確認して馬を馬房に入れて馬のご飯である飼い葉を与える。

厩務員は1人で2頭担当しており、このルーティンを繰り返す場合が多い。午前中いっぱいはこの作業に追われる。午後にも馬の手入れ、寝わらの片付け、飼い葉を与えるなどの作業があり、1日の仕事を終えるのは午後5時ごろになる。調教師は追い切りの時計をチェックして状態を把握したり、合間に競馬専門紙やスポーツ紙などマスコミの取材を受けたりと忙しく過ごす。

木曜日は朝に管理馬の状態をチェックした後、美浦近郊の牧場に預けている馬の状態を見に行く。午後には戻って週末に出走させる馬の出馬投票を行う。金曜日もトレセンや近郊の牧場で管理馬をチェック。午後には週末に管理馬を出走させる競馬場へ移動する。土曜日と日曜日は出走させた管理馬のレースに立ち会う。出走する競馬場は1日に1カ所とは限らない。場合によっては福島競馬場で午前中の早いレースを見た後、午後には東京競馬場に移動しているということもある。

金曜、土曜、日曜の夜は馬主との会食などが当たり前のようにある。もちろん金曜、土曜、日曜もトレセンでは馬の調教が行われている。トレセンの休日は月曜日。しかし、調教師はこういうときこそ北海道の生産牧場を回ったり、遠方の牧場に出掛けたりして、管理馬の状態を把握する。

そして、調教師は火曜日も月曜日と同様に過ごすことが多いという。この間に管理馬の出走レースを決めたり、調整メニューを考えたり、出走させる馬の騎乗者を手配したりと、やらなければならないことはたくさんある。馬の状態を把握し、いい状態でレースに送り出すこと。故障につながるような異常を早めに発見して未然に防ぐこと。難しいことを当たり前にこなさなければならないのだ。

ファンが想像するほど儲かるわけではない

馬主にいい馬を買ってもらい、厩舎に預けてもらうために、馬主を生産牧場や競走馬のセールに案内することも大切な仕事だ。いい馬を仕入れなければ成績は上がらない。そうした努力も必要になる。ある調教師はこう述懐した。「決して楽ではないし、皆さんが思っているほど儲かるというものでもない。競争も激しいし少し成績がよかったからといって安心もできない。馬に対しての熱意がなければできない仕事だと思う」。これは本音だろう。

生き物相手とはいえ、調教師の生活に休みと呼べる日はなかなかないというのが実情だ。以前よりもはるかに大変な仕事になったというのが取材するわれわれの実感でもある。トレセンの厩舎だけで戦うのではなく、そこを含めたより大きなチームで戦う時代になった。すべてを1人で把握して指揮することも難しい。それぞれの分野で信頼できるスタッフが必要な時代に変わった。

それでも調教師として管理馬が大きなレースを勝てば名誉と大きな充実感を得ることができる。それを目標に日々の努力を続けている。

今は海外遠征も当たり前の時代になった。日本のG気世韻任覆世界のビッグレースを制するチャンスもあり、夢が広がっている。現代の調教師たちは、世界の頂点に立つ夢を抱き、競馬に真摯に向き合っている。調教師をはじめとする厩舎のスタッフの努力を思い浮かべながらレースを見てみると、競馬に携わる人たちの熱い思いが理解できるかもしれない。