「背に腹は替えられない」という事情も垣間見える(写真:freeangle / PIXTA)

愛知労働局が、名古屋市中区に本社がある「大宝運輸」に対し、複数のトラック運転手に違法な長時間残業をさせたとして、9月4日に行政指導を行い、同時に社名公表にも踏み切った。

全体の2割を超える84人の運転手が、いわゆる「過労死ライン」とされる月80時間超の残業をしており、最長では約197時間の残業もあったという。

「社名公表」は最善の策なのか

世間の受け止め方としては、「とんでもない過重労働をさせる企業だ」とか「こんな長時間労働は許されるはずがない」という印象が大半であろう。だが、冷静に会社の言い分にも耳を傾けると、会社を100%非難することもできないのではないか、ということにも気がつかされる。

大宝運輸は愛知地盤で東海3県が配送エリア。積み荷は食品関連が半分程度を占める。名証2部に株式を公開する上場企業でもある。長時間労働が続いている背景として、同社は記者会見で「去年から取引先を減らすなど長時間労働の改善を進めたが、手取りが減ったことで会社を辞めてしまう運転手が増え、人手不足が続いている(東海テレビ 2017/9/4 19:00配信)」と述べている。同社の有価証券報告書を分析すると、これは事実のようだ。

貨物輸送量は2014年度の46万1000トンから2016年度には43万5000トンに減っている。一方で、貨物輸送事業に携わる従業員が同445人から同416人に減っており、1人当たりの貨物輸送量はまったく減っていない。

過去3年の貨物輸送量は減少傾向にあり、会社が仕事量を減らそうとしている様子はうかがえるものの、ドライバー職の社員も減少しており、ドライバー1人当たりの仕事量はほとんど変化していない。効率化などによる残業削減も、「焼け石に水」であったということだろう。

『会社四季報 2017年夏号』(東洋経済新報社)に記載されている大宝運輸の平均年収は483万円。これ自体は低くないが、平均年齢は45.7歳と一般的な企業より高く、20〜30代の若い従業員の給料は平均的な水準に比べて決して高くないと想定される。「残業手当が減るなら退職を考える」という社員が一定数出てくることはやむをえないであろう。

「社員を安く使い捨てて、会社や経営者だけが儲けているのではないか」という批判もあるだろう。ただ、2016年度の有価証券報告書によると、役員報酬は社外取締役を除く4人で1億0305万円であり、1人当たり平均は2000万円程度で、上場企業役員としてべらぼうに高いワケでもない。

また、会社自体についても、2016年度は売上高88億円に対し、純利益は2.3億円なので、売上高純利益率は2.64%にとどまる。「社員を犠牲にして会社に利益をため込んでいる」という批判も当てはまらない。

数字上のデータを総括すると、厳しい競争の中、経営の舵取りに苦労しているという姿が浮かび上がってくる。

また、インターネットで確認すると、大宝運輸は目下、ハローワーク、民間求人媒体含め求人を募集している。しかし、現在は「売り手市場」といわれており、運輸業の有効求人倍率は3.41倍と極めて高く(全職種では1.31倍)、新規採用が難しい環境が続いている。

こう考えると、会社として努力をしていなかったわけではないが、経営環境の厳しさから、労働基準法を守り切れなかった、という側面があったのかもしれない。

もちろん、労働基準法違反を行った大宝運輸に何らかのペナルティを与えることは必要であるが、社名公表が最善の策だったかどうかには疑問が残る。今回社名が公表されたことで、いっそう新規採用が難しくなったり、新たな退職者が出たりして、既存社員1人当たりの負荷がさらに高まり、労働環境が逆に悪化してしまうおそれがありうるからだ。

建設的な議論や政策につなげる

「労働基準法を守れない会社は潰れてしまえばいい」という意見があるかもしれないが、会社が潰れると大量の失業者が生じてしまうことはもちろん、大宝運輸を含め、運輸業は私たち一人ひとりの生活、ひいては日本経済を支えるためになくてはならない産業である。

たとえば、日本中どこでも、コンビニでいつでも気軽に弁当やジュースが買え、スーパーには新鮮な野菜、肉、魚が並んでいるのは、運輸業の会社や、そこで働く方々のおかげである。

しかしながら、わが国になくてはならない産業のはずなのに、統計的に見ても、多くの運輸業の会社が人手不足や長時間労働に苦しんでいる。

とするならば、今回の企業名公表においても、大宝運輸をブラック企業と批判するに終始するのではなく、これを機に、運輸業の経営や労働環境を厳しくしている構造問題が何なのかということを明らかにし、どうすればそれを改善していけるのかということに着眼し、建設的な議論や政策につなげていくことが望ましい。そうしなければ、同じことが繰り返されるだけだ。一罰百戒だけで済ませていい問題ではない。