7日、シンガポールの商業ビル内の登記場所には、北朝鮮との取引で米国から制裁対象となったトランス社は実在しなかった(一部画像を加工しています)

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 【シンガポール=吉村英輝】国連安全保障理事会が北朝鮮への新たな制裁決議を協議するなか、北朝鮮が制裁を巧みにかいくぐっている実態も指摘される。

 米国が独自の制裁対象にしたシンガポール企業を訪ねると、登記住所にその実体はなかった。国際化が進んだ複雑な商取引に紛れ込み、新たな制裁の履行も“ザル状態”と化す危険性をはらんでいる。

 米財務省は先月、「トランスアトランティック」(以下トランス社)などシンガポール企業2社を含む、中国やロシアなど計16の企業・個人を独自制裁対象に追加指定した。抜け道をふさぎ、対北圧力を高める措置だ。

 ロシア人の1人がトランス社を通じ、2006年に米財務省がブラック・リストに入れた北朝鮮の銀行と燃料油の購入契約を結び、米国の金融システムを通じ迂回(うかい)決済を試みたとされる。

 日系企業も事務所を構えるシンガポール中心部の商業ビルの29階。トランス社の登記場所には、別のコンサルタント会社が入居していた。事務所の女性は「その会社はここに登記しているだけ」と答え、それ以上の質問には回答しなかった。

 トランス社は昨年5月、建設関連機器卸業としてシンガポールに登記され、資本金は約8万円。シンガポール人の代表は地元メディアに、業務には携わっておらず「名義株主」だと主張した。

 シンガポール外務省は、米国側からシンガポール企業2社を制裁対象にするとの事前通告を受け、2社を「捜査中」とするが、詳細は不明だ。

 シンガポールは、優遇税制などで海外から企業誘致を進め、毎月数千社が新たに登記される。専門家は「レンタルオフィスへの登記やペーパーカンパニーも多い。当局も完全な把握は不可能だ」と指摘する。

 キューバから武器を積み込んだ北朝鮮の船がパナマで13年に拿捕(だほ)された事件では、シンガポールの運送会社「チンポウシッピング」の関与が発覚。同社の登記住所は、在シンガポール北朝鮮大使館の所在地と同じだった。

 シンガポールの裁判所は15年、北朝鮮の武器密輸に関連して不正に約7万2000ドル(約780万円)を送金したとして同社に有罪判決を出した。だが、控訴を受けて今年5月、裁判所は会社側が武器の購入や輸送ということを知らなかったなどとして罰金刑の一部を取り下げた。

 米国の北朝鮮専門ニュースサイトの代表は、北朝鮮に利用される東南アジア企業が「時には無自覚に、規制対象品を扱っていることが多い」と指摘している。