「気持ちの悪い恋愛」を全力でしてもいいじゃないか! 『あげくの果てのカノン』米代恭インタビュー

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例え世の中が非常事態でも、頭の中を占めるのは、妄信的に思い続けてきた恋しい人のこと。「変わっていく」あの人のことを受け止められるのは「変わらない私」だけなのだ──。SF設定にしたことで恋の持つ切実さと異常性が際立つ『あげくの果てのカノン』。

 

好きでい続けることがアイデンティティになる

 異星生物と戦闘の最中にある、荒廃した街。雨の中をわき目もふらずに歩いていく一人の女性がいる──。「世の中はそれどころではないのに、恋のことしか考えていない」(米代さん)女の子・かのんだ。『あげくの果てのカノン』は、かのんと、異星生物を駆除する戦闘員にして国民的ヒーローである狎菁抬瓠覆燭世郡婚者)との恋物語。

 かのんの恋は、周囲の人から爛好函璽ー”と揶揄されるほどに一方的なものだった。

「かのんはずっと先輩しか好きじゃないし、世界イコール先輩なんですよね。妄信的な信者のように」

 かのんの姿に、誰もが経験のある片思いのピュアネスさと狂気性とが映し出されていく。

「共感できるという感想と怖いという感想とに二分されましたね。怖いと言われて私はびっくりしたんですけれど(笑)」

 8年ぶりに先輩と言葉を交わしたかのん。それだけで幸せだったのに、先輩は意外にも、かのんを特別な女の子として扱うようになっていく──。

「好意を向けられたことで、先輩を好きでいることが、かのんにとってのアイデンティティになってしまった。でも性行為があったわけでもないからか、恋仲になったことへの自覚は薄いんですよね。先輩の奥さんの存在もわかってはいるけれど、爛如璽伸瓩任靴ない。不倫への罪悪感より、好きな気持ちのほうが勝るタイプですね。いただいた感想で『かのんは先輩から倏レス瓩鬚發蕕ぢ海韻討い訃態ですね』というのがおもしろかったです」

 爆レスはアイドル用語で、アイドルがくれる大きなレスポンス、というような意味。恋仲になってもなお、かのんは「信仰」を続けていることがよくわかる言葉だ。

変わる僕のために君は変わらないでいて

 一見完全無欠のように思える先輩のことはというと、「ずるくて、心の弱い人として描きたかった」と米代さん。

「自分のすることがかのんにとっての正義である、という無意識の傲慢さがある。何があっても自分から離れない女の子を、先輩は犖つけた瓩里世隼廚い泙后もし先輩が普通の社会人だとしたら『この子ちょろいな。遊べるぞ』という感じだと思いますが、戦闘員というSF設定にしたことで、先輩にもかのんじゃなきゃいけない切実さが発生してしまったので……」

 かのんでなければならない理由。それは、かのんが絶対に「変わらない」女の子だから。負傷した体を「修繕」することで心も「変わってしまう」先輩。それでも変わらず、自分を丸ごと愛し続けてくれるかのんがどうしても必要なのだ。

「先輩は、特殊な環境にあって、寄りかかれる人間を作らなければ自分が保てなくなっている状態。かのんもそれをわかっているから、自分は変わっちゃいけない、好きでい続けなければいけないというような強迫観念みたいなものもあるのだと思います」

気持ちの悪い恋愛を全力でしてもいいじゃないか!

 米代さんにとって恋愛は「すごく尊くて美しいもの」であり、「すごく気持ち悪くて、不健全なもの」でもある。

「牋貪咾帽イ瓩辰徳播┐覆發里箸靴動靴錣譴笋垢い任垢、実際は超重いし、暴力だとも思うんですよ。先輩は高校時代に一度断った後にも自分に一途でい続けたかのんに爆レスをあげたけれど、普通は、付き合うつもりのない相手から一途に思い続けられたら、何度も断るという罪悪感を背負わなければいけなくなる。そこに考えが至らない時点でかのんも残酷なのだと思います。先輩は先輩でかのんのことを狷散餃瓩箸靴銅分に一番いい形でフィットさせるために、甘い言葉を報酬のように与えていたりするし……。二人の関係は、超不健全だと思います(笑)」

 けれど、健全でなくとも、歪んでいたとしても、これこそが二人にとっての恋なのだと、読んでいるうちにわかってくる。

「そうなんです。健全な恋愛をしている人が実際世の中にどれくらいいるのかな?とも思うんですよ。気持ちの悪い恋愛を全力でしてもいいじゃないか!と言いたい。恋愛するのに冷静ぶってどうするの?って思います」

日常の中にある、一番異常で一番身近なものが恋愛

 こんなにも読者に強い感情を喚起させる恋愛を描く米代さんだが、意外なことに恋愛ものを描くことに苦手意識があったのだという。

「この話を描くために、恋愛についてめちゃくちゃ考えました。そうしたら実生活でも、常に相手のことを冷静に見たり、計算したりするようになって……恋愛ができなくなりました(笑)。私も恋愛に思考が支配されてしまうタイプだったんですが」

 ただ題材として「恋愛ほどおもしろいものはない」とも思っている。

「矛盾と複雑さをはらんでいるからだと思います。普段はすごく理性的な人が、ある日突然、全く理性的に考えられなくなる──リミッターが外れてしまうみたいなことって恋愛独特のものだと思うんですよね。すごく無防備で、生物として危うい状態になる(笑)。私の描きたいものの一つとして、狷常の中に非日常を設定して、それを現実の社会とどうすり合わせるか瓩箸いΔ里あるんですけど、恋愛は日常の中にある一番異常で、一番身近なものなのかな、と思います」

文=門倉紫麻
(C)米代恭/小学館

 

米代 恭よねしろ・きょう●東京都出身。2012年「アフタヌーン四季賞」佳作を受賞した『いつかのあの子』でデビュー。ほかに『おとこのことおんなのこ』(「ふぞろいの空の下」改題)、『僕は犬』がある。『あげくの果てのカノン』は15年から『月刊!スピリッツ』で連載中。