ミャンマー・ネピドーで記者会見に臨むアウン・サン・スー・チー国家顧問(2016年8月30日撮影、資料写真)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】(写真追加)イスラム系少数民族ロヒンギャ(Rohingya)擁護を拒み続ける頑なな姿勢をめぐり、国際社会から厳しい目が向けられているミャンマーの事実上の指導者アウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)国家顧問(72)だが、国内では、イスラム系少数者に対する負の感情を背景に賞賛する声が上がっている。

 西部ラカイン(Rakhine)州では8月25日以降、ミャンマーの治安部隊とロヒンギャの武装集団の戦闘が激化しており、地域のロヒンギャのが大挙して避難している。過去2週間で約16万4000人が土地を追われ、隣国バングラデシュに入国しており、その膨大な避難民の数に国際社会は衝撃を受けた。

 仏教徒が多数を占めるミャンマーでは、市民権を拒否され、不法「ベンガル」移民とのレッテルを貼られたこの無国籍少数民族の歴史の中で、直近の戦闘は、最も新しい暴力事件として記録されることとなった。

 衝突をめぐる政府の対応に、世界のイスラム教国家や国連(UN)からミャンマー政府への非難の声が寄せられている。その一方で、軍事政権に対する長年の平和的反対運動において国内外から賞賛を集めたスー・チー氏に対しては、ロヒンギャを擁護する姿勢をみせるよう、国際社会からの呼びかけが行われている。

 しかし、スー・チー氏はこの呼びかけに応える姿勢を見せていない。そして、このロヒンギャ問題が、軍政からの脱却を目指す同国に暗い影を落とし始めている。

 かつては自由への導き手とスー・チー氏を称賛した人権擁護団体も、現在の同氏の姿勢には批判的だ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)のジェイムズ・ゴメス(James Gomez)氏は、ロヒンギャ擁護を表明しないことで、モラルと政治的な信用を失いつつあると厳しいコメントを発表した。

 ネット上では同氏に授与されたノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を取り消すよう求める請願運動が行われ、これまでに36万筆の署名が集まっている。

 また、同じくノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者のパキスタン人活動家、マララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)さんも、ロヒンギャが置かれている窮状をめぐりスー・チー氏とミャンマー政府を非難した。

■「大量の偽情報」

 それでもスー・チー氏は歩み寄る姿勢をみせない。歩み寄るどころか、スー・チー氏の国家顧問執務室は、ロヒンギャの武装集団によるものとされる残虐行為を捉えた写真をフェイスブック(Facebook)に投稿し、NGOや国際メディアの危機報道姿勢を逆に非難した。

 スー・チー氏は6日、ミャンマーの治安部隊とロヒンギャの武装集団の衝突が発生して以降、初めて声明を発表。「大量の偽情報」が危機の実態をゆがめているとして非難した。しかし、この声明では、ロヒンギャのバングラデシュへの避難については言及されなかった。同氏のラカイン州訪問もまだ行われていない。衝突ではこれまでに約430人が死亡と公式には発表されている。

 もちろん、ロヒンギャの人々の仕事や移動の自由などを制限する刑罰法を廃止するとの誓約もなかった。こうした厳しい制限は、ロヒンギャの武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の組織拡大のための強力な宣伝ツールとして働き、そして8月25日の襲撃へとつながった。

■スー・チー氏の評価、国内では健在

 ミャンマー国内でのスー・チー氏の人気は衰えをみせない。ミャンマーのソーシャルメディアには、外国メディアをこきおろし、マララさんの声明をあざ笑うミームや漫画、コメントがあふれている。

 フェイスブックで2万2000回共有された「われわれは彼女を誇りとする」のコメントは、スー・チー氏の姿勢を強く支持するものだ。

■約25万人がバングラデシュへ避難

 8月25日の襲撃では、2万7000人のラカイン仏教徒とヒンズー教徒も家を追われた。これによりロヒンギャ武装集団に対する怒りが巻き起こっているが、政府の治安顧問であるタウン・トゥン(Thaung Thun)氏は、武装集団がラカイン州に「イスラム国家の創設」を求めているのだと、仏教ナショナリズムの決まり文句を唱える。

 ミャンマーの人々の多くは、危機に直面している国、さらにはその国の政治家が厳しく批判されていることに困惑を隠せない。「ミャンマー国民が(スー・チー氏)に対する批判を理解できないのは、これが国家安全保障の問題だからだ」とミャンマー平和センター(Myanmar Peace Centre、MPC)のニョー・オン・ミン(Nyo Ohn Myint)氏は話す。

 昨年10月以降、約25万人のロヒンギャがバングラデシュへ避難した。ラカイン州のかつての推定人口1100万人からするとこれはかなりの数だ。

 スー・チー氏は同国における複雑な状況を解決するには、時間がかかると繰り返し述べている。しかし、虐げられた人々の擁護者というスー・チー氏の名声はすでに見る影もない。

 アムネスティ・インターナショナルのゴメス氏は、スー・チー氏に対し「その地位を利用して自制と事態の沈静化を呼びかけるべきだ。最低でもそれくらいはすべきだ」と語った。
【翻訳編集】AFPBB News