日野皓正ビンタ騒動と映画『セッション』はどこまで似ているのか?【コラム二スト木村和久】

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― 木村和久の「オヤ充のススメ」その177 ―

 世界的に有名なジャズトランペッターの日野皓正氏のビンタ騒動が報道されました。すでにビンタされた中学生が謝罪。日野氏もやり過ぎた面を謝罪し、騒動自体は収まっています。しかし、ネットでは映画『セッション』に出てくるシーンと同じようなことをやったのではないかと、盛り上がりを見せています。ここで、どれぐらい似て、何が違うのか書いてみたいと思います。

 映画『セッション』は、今年のオスカーを総なめにした『ラ・ラ・ランド』の監督であるデイミアン・チャゼルの出世作です。2014年公開で、アカデミー賞は助演男優賞など3部門を受賞しています。非常に個性的で伝説的な映画として社会的評価は高いです。

 けど、あまりにもマニアック過ぎるのか、日本での興業収入は5億円程度と、オスカー作品にしては低いです。

 映画のストーリーはというと、日野皓正風の熱血天才コンダクター、テレンス・フレッチャーと弟子の生徒アンドリュー・ニーマンとの交流。そして激突、裏切りと続き、最後のセッションが今回の事件と似ていると話題になっているのです。

 いろいろと複雑な交流があってのラストセッション。師匠のフレッチャーは、アンドリューを1回ステージから追放します。しかし、そこで引き下がるアンドリューじゃない。もう1回ステージに戻って来て、突如ドラムを叩き始めるのです。辞めさせようとするフレッチャー。けど辞めないアンドリュー。そして、ほかの演奏者がアンドリューのドラムに乗っかってきた。それを感じとったフレッチャーは、やがてアンドリューに合わせて指揮を取り始めたのです。後は見てのお楽しみです。

 どうです。ビンタ騒動と似ていませんか。ただ現実のセッションは映画と違いました。

 まず中学生ドラマーは最初から自分のパートを持って、それを演奏していた。次第に調子づいてきたのか、一向にソロパートをやめない。やがてドラムのリズムに合わせて、ほかのメンバーが演奏しだした。そこまでは映画みたいですが。

 ここからが現実のお話となるのです。日野皓正氏は、自分のパートをはるかに逸脱して長いソロをやっているから、ドラムのところに行って演奏をやめるように指示した。ところが制止しようとしても演奏をやめない。

 そこで、スティックを取り上げてしまう。そしたら中学生ドラマー君は手でドラムを叩き始める。個人的にはこれこそ、映画も顔負けのパフォーマンスだと思うのですが。

 日野氏は、手でドラムを叩いて、一向にやめない中学生を手で押すようにしてやめさせた。そしたら「なんだその反抗的な目つきは〜」と言って、日野氏がビンタしたのが事の顛末です。

 映画と同じようなことは、なかなか起きないんですね。日野氏とドラムの生徒は1年以上の交流があり、師弟関係なんだそうです。もし映画的な展開を目指すなら、何か画期的なドラム演奏をソロパートで演じて、日野氏を唸らせないといけませんよね。

 それにしても、天下の日野皓正を相手にマジギレさせるんだから、大物中学生ですよ。日野皓正氏は顔も怖いし、振る舞いも全部怖い。一度、何かのパーティの余興で彼のタップダンスを見たけど、それが上手いのなんの。日野皓正氏の父親というのはタップダンサーもする、トランペッターでした。だから、彼はジャズトランペッターというけど、リズム感も素晴らしいのです。

 その日野皓正を唸らせて、30秒ぐらいで演奏を横取りできたら、大事件ですがね。一瞬、中学生は淡い夢を見たのでしょう。

 気になるのは、その中学生が映画『セッション』を見たのか、あるいは内容を知っていたかということですが。個人的な想像では、ソロパートを延々演奏するシーンは知っていたと思いますよ。だから、真似してやってみたと。先生のキャラクターも映画そっくりだしね。けど、読みが甘かった。実際の日野皓正氏のキャラクターは、映画の師匠役よりも数倍怖かったってことですね。