食材は下ごしらえされ、後は切るだけ。2品の料理が約20分でできる(写真:オイシックスドット大地)

下ごしらえした野菜や肉、魚と調味料をセットにした「ミールキット」。今、働く女性を中心に手軽に作れる献立キットの需要がじわりと広がっている。

有機野菜宅配の最大手・オイシックスドット大地は、2013年7月から「kit Oisix(キットオイシックス)」と呼ばれるミールキットを販売している。ミールキットを購入する会員数は2017年6月末時点で5.5万人と1年前から約45%も増加。累計出荷数は600万食を突破するなど、オイシックスブランドを支える商品に育っている。

専用工場を再度増強

当初は神奈川県海老名市の物流センター内部で製造していたが、出荷数量増加を受け、2015年6月には物流センターに隣接する形でキットオイシックスの専用工場を立ち上げた。工場新設によって生産能力は4倍となったが、今後の販売増加をにらみ、さらなる設備増強をする方向で検討に入っている。

「キットオイシックスを始めた2013年ごろは一部の企業がやっているだけで、ミールキットという言葉すら認知されていなかった」。オイシックスドット大地の菅美沙季・執行役員はサービス開始時をこう振り返る。

ミールキットとは具体的にどういう商品なのか。キットオイシックスの定番商品である「ジューシーそぼろと野菜のビビンバ」は、ニラやエノキ、小松菜や合いびき肉のそぼろ、調味料など必要な食材がセットになって送られてくる。中にはわかりやすいレシピが入っていて、そのとおりに料理すれば、手作りご飯が簡単にできるというものだ。

キットオイシックスの基本セットの場合、メインとサイドの2品の料理を20分で作ることができる。

同社では、キットオイシックスのサービス開始に合わせて、小学生以下の子どもがいる女性100人を対象に、食事と時短に関する意識調査を行った。その結果、最も時短したい家事を「食事」と答えた人の割合が65%と断トツ。さらに実践している時短調理について感じている不満では「野菜が少ない」と回答した人の割合が62%に上った。

「かつて時短調理の解決策は冷凍食品か総菜、外食以外の選択肢はなかった。ただ、それだけでは自分で作っている感じがないので罪悪感を持っていた方もいたと思う」(菅執行役員)。

2人前980円〜という設定

こうした問題の解消を目指してスタートしたキットオイシックス。当初は4メニューを週替わりで展開していたが、現在は管理栄養士が監修する「デイリー」、幼い子どもがいる世帯向けの「キッズ」、有名シェフや料理研究家監修の「シェフ」など、さまざまなカテゴリーに分類したうえで、15〜20種類を週替わりで提供している。料金は2人前980円〜という設定だ。


定番商品である「ジューシーそぼろと野菜のビビンバ」(写真:オイシックスドット大地)

昨年夏からは子どもと自由研究ができるキットオイシックスを販売した。マヨネーズを手作りしたり、うどんを小麦粉から作るなど、さまざまな体験を盛り込んだうえ、子どもが記入する研究シートも同封した。売れ行き好調だったことを受け、今夏も販売に踏み切った。

さらに、今年3〜4月には人気インスタグラマーが監修するキットオイシックスを投入した。調理だけではなく、インスタグラムに投稿するうえでの撮影テクニックやスタイリング例まで詳細に解説されている。「単なるミールキットで終わるのではなく、よい食生活をより多くの人に届けるためには、さまざまな仕掛けが必要だと感じている」(菅執行役員)。

セブンもミールキットに参入

競合他社もミールキットの強化を進めている。オイシックスドット大地と同じく、有機野菜宅配を手掛けるらでぃっしゅぼーやは2014年6月からミールキットを提供している。同社の特徴は包丁やまな板をいっさい使用せず10分以内で調理が可能という点。毎週10種類の新商品を投入している。

大手流通企業もミールキットへの参入に踏み切ろうとしている。セブン&アイ・ホールディングスは事務用品通販大手のアスクルと11月から開始する生鮮品の宅配「IYフレッシュ」を通じて、ミールキットを販売する。これは利用者はサイトでレシピを選ぶと、1分程度の動画で作り方を確認でき、夜までに注文すれば、食材セットが翌日には届くというサービス。東京都文京区と新宿区で開始し、2020年までに首都圏に販売対象地域を広げていく予定だ。

女性の社会進出共働き世帯の増加という社会現象を背景に、時短ニーズは伸びる一方。「料理したい」「野菜を取りたい」という声はますます大きくなっている。時短と質の高さをうまく共存させられるかが、ミールキット定着のポイントとなりそうだ。