「Thinkstock」より

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 5月16日、文部科学省は中高生や学校、塾を驚かせる発表を行った。2020年度よりセンター試験にかわって導入される「大学入学共通テスト」において、英語の4技能試験への完全移行の先送りを示唆するもので、完全移行のA案と、従来のマーク式2技能試験と4技能試験を併用するB案のどちらかに近日中に決定するというものだった。

 従来のセンター試験では「読む」「聞く」の2技能がマークシート形式で問われてきたが、「書く」「話す」といった英語を使う能力は評価されないことから、受験勉強では英語が使えるようにならないという指摘があった。2014年に中央教育審議会(中教審)が「読む」「聞く」「書く」「話す」のすべてを問う4技能試験を20年度から導入すると発表したことにより、この形式で受験することになる中学3年生以下とその親を中心に4技能試験への関心が高まり、多くの生徒がその準備を始めていた。

 その後、7月13日に大方の予想通りB案になり、20年度から23年度までの4年間は従来のマークシート式2技能試験と外部検定試験を利用した4技能の併用に決まった。この発表後は、過渡期の4年間に受験を迎える現在の中学3年生から小学校6年生の生徒や親から、「何を勉強したらいいのかわからなくなった」という声を多く聞く。

 本稿では、なぜこのタイミングでB案になったかを考えることで、日本の英語教育の課題を整理するとともに、20年以降に受験を迎える小中学生たち、なかでも過渡期の4年間にあたる生徒が迷わずに学習するための考え方をお伝えしたい。

●なぜギリギリのタイミングでB案になったか?

 14年に中教審が4技能試験の導入を検討すると発表した当初から、文科省は、新テスト初代受験生の現中3生が高校に上がる前に方針を固めておきたいという思惑を持っていたと思われる。実際に当時の文部科学大臣政務官の山本ともひろ氏は、私がナビゲーターを努めるラジオ番組『In the Dreaming Class』(15年3月31日放送)で、「2017、18年度には方針を固めたい」と述べていた。そういう意味で、中3生が高校に上がる前の年である今年は、ギリギリのタイミングだった。

 ここへきて急に4年間の移行期を設けるに至ったのは、一つには外部試験の採用プロセスに時間が掛かっていること。もう一つは、ライティングとスピーキングを教える学校の準備不足だ。

●外部試験の採用には越えなければいけない2つの壁

 一つはアウトプット系2技能をいかに公正かつ大量に採点するかだ。たとえば「Speaking」を面接形式で行う場合、現在のセンター試験の受験者50万人が全員受けると仮定すると、1人が10人の受験者を面接できるとしても5万人の試験官が必要になる。ネイティブレベルの試験官を離島も含めて全国に配置するのも難しいし、これだけの数の試験官に公正な採点基準を伝えるのも相当困難である。

 この問題を解決するために4技能試験の本命と目されるTEAP(Test of English Communication)とGTECは、CBT(Computer Based Testing)を導入して、遠隔地に試験官を配置しないで採点を海外にアウトソースすることを試みている。ただ、この形式も最近始まったもので、50万人の受け皿として十分な実証データが揃っていない。4年間の導入期を通じて受験者のデータを揃えながら公正なテストへと成長させていこうというのが、両テストが考えていることだろう。

 もう一つの壁は費用だ。現在のセンター試験受験料は、3教科以上で1万8000円。これは新テストになっても英語以外の教科でかかる。外部試験を採用するとは、それ以外にコストがかかることになる。前述のTEAPは1万5000円、GTECは9720円となっている。年間2回の受験が認められるので、高スコアを目指して2回受験したいというのが、多くの受験生の思いだろう。文科省は、各テストへ受験者の負担軽減策を求めるとしているが、ここに国からの補助金などは期待できなそうだ。低所得者層への無償化も各試験に要請するようであるが、TOEFLなど海外団体の実施する試験がこれに応じるかは疑問である。

●アウトプットへの高度なフィードバックが社会的なボトルネックに

 上記の外部試験採用は、解決の目処を付けることができそうであるが、教える側の準備に関しては、4年の移行期間中に解決できるかは疑問である。アウトプット系の2技能を伸ばしていくためには、生徒のアウトプットに質の高いフィードバックをする必要がある。このフィードバックができる人材が学校教育の現場には圧倒的に足りていない。

 文科省は、中学、高校の英語教員に英検準1級相当以上の英語力を目標に定めている。これからの中高生は、国際基準のTOEFLでのハイスコアを目指す生徒も増えてくることを考えると、この目標自体も低すぎるといわざるを得ないが、この目標ですら中学では32.0%、高校でも62.2% の教員しかクリアしていない(文部科学省HP 平成28年度「英語教育実施状況調査」<中学・高等学校関係>より)。

 準1級以下の英語力しかない教師でも4技能を教えられるようになるにはどうすればいいか。この問題に対する答えは今のところ文科省からは出てきていない。インターナショナル・バカロレア採用校を増やすなど、海外から優秀な教師を招聘することなども積極的に行っており、それは素晴らしい取り組みではあるが、既存の中学高校の指導者の英語力不足の問題は残ったままだ。

 学校で質の高いフィードバックを受けることができないのに、試験だけは4技能化されていくことになると、生徒の負担で自分のアウトプットにフィードバックをしてくれる教師なり、塾なりを探さなければいけなくなる。こうなると、経済格差による教育機会の不均等の問題も出てきてしまう。日本は、OECD諸国のなかでGDPに対する教育支出が圧倒的に少ない。

 その分を塾や予備校などへの個人支出として支えているわけだが、4技能化でますますこの傾向が強くなるだろう。

●中3から小6の過渡期の生徒も迷わず4技能

 20年度から23年度までは、2技能と4技能試験が並列して行われることになる。この期間に受験を迎える中3から小6の生徒も迷わず4技能に向けて準備をすべきだろう。

 理由は3つある。1つめは、どちらのテストを採用するかは、受験生ではなく大学側が決めるからだ。文科省は先日の発表のなかで「各大学は、認定試験の活用や、個別試験により英語4技能を総合的に評価するよう努める」と記述している。多くの大学が4技能試験での選抜をメインと考えるようになるであろうし、国立の二次試験や私大トップ校での個別問題ではライティングの配点が年々上がってきている傾向にあるので、アウトプット系のなかでも特にライティング力は受験において重要な要素になる。

 2つめの理由は、長期的視点に立つと、4技能を受験で学べるというのは大きなチャンスになるからだ。過渡期世代のすぐ下は、4技能で大学に入る世代が控えている。社会に出た時に、下の世代に英語力で差がつくことがないよう、4技能を学び英語が使えるようになることを目指すべきだ。今までの上の世代は、スピーキングやライティングが社会に出てから大切になることはわかっていても、受験では出題されないからという理由で、学校や塾では教えてもらえなかった。4技能を本格的に学ぶチャンスが到来した。

 3つめは、学習効率の問題だ。実は、インプットだけを勉強する従来の学習法よりも、アウトプットとインプットの双方を回すように学習するほうが効率がいい。たとえば、英語圏の英語の授業で大切にされている「Summary Writing」と呼ばれる要約の練習がある。これは本やエッセイを読んで、一番大切なところだけを抜き出しながら、書き換えなどをしてコンパクトにまとめるものだが、単に読むだけで終わらせるよりも、要約を通じて実際に使ってみることで単語や表現を吸収したり、理解を深めるのにも役に立つ。4技能をぐるぐる回すように学ぶのが実は一番効率のいい学習方法なのである。

●グローバルスタンダードのTOEFL iBTを目指しつつ

 最後にどのテストをどのように活用すればいいかについて考えたい。そもそもの今回の英語教育改革は、日本の英語教育がグローバルスタンダードから取り残されていることが問題なのだから、ゴールはグローバルスタンダードに置くべきである。その意味でいうと、現在採用検討の俎上に上がっている試験のなかでは、TOEFL iBTが最も国際的認知が高いので、このテストで高スコアを目指すのが最終的なゴールになるだろう。文科省が認定するスーパーグローバル大学に進学し、そこから海外大学に交換留学する場合にもTOEFLが必要になる。今回の英語教育改革の目標は、日本の大学に進学するための英語力も、海外の大学に進学するための英語力も同じになっていくことだ。大学入学後も視野に入れて、どの試験を受けるかを考えてほしい。

 しかし、英語4技能 資格・検定試験懇談会が運営する「英語4技能試験情報サイト」によれば、TOEFLは他の試験に比べて中心的測定領域が1ランク高い。たとえば海外一流大学の足切りラインとして一般的にいわれているTOEFL100点は、英検1級レベルである。このレベルを目指す高校生は、ごく一握りのトップクラスの生徒だけである。長期的な視点にたってTOEFLで高得点を取ることを念頭に置きながらも、英検準1級レベルのB2までは国内で知名度の高い英検や、学校で受験する機会があるGTECなどを活用するといいだろう。

 今回の英語教育改革は、今まで学校で教える英語と、大学に入るための英語、そして社会に出てから必要とされる英語、これら今までバラバラであったものが、4技能試験を軸に一直線に揃う画期的なものだと考えている。TOEFLで100点を取得した人がメールも書けなければ、会話もできないということは想像しづらい。大学はグローバルな体験をするのには最も適した時期になるし、これからはたくさんの日本人が海外に学び、国内でも英語で授業を受けるようになっていくだろう。これからは4技能試験で自分の英語力を証明できる人が、多くのチャンスを掴んでいく。
(文=三石郷史/英語塾キャタル代表)