2016年末に破産保護を申請し、全店舗を閉めたアメリカンアパレル。日本と同様、アメリカのアパレル業界にも不況の波が押し寄せています(撮影:AP/アフロ)

【9月22日5時追記】9月8日5時50分の記事初出時、ザ・リミテッド社傘下にあるブランド名を「ビクトリアズ・シークレット」と表記していましたが、これは誤りでした。また、アメリカン・アパレルの生産国に関する記述も誤解を与えかねないものでした。以上の記述部分を削除した上で当記事を再配信いたします。

ここ1年、アメリカの有名ファッションブランドには立て続けに異変が起こっています。

2016年末には、カジュアルウエアブランド「アメリカンアパレル(American Apparel)」が破産保護を申告し、世界中に110ある店舗すべてを閉店させました。今年の年明けには、アメリカ大手アパレルチェーンの「ザ・リミテッド(THE LIMITED)」が、日本の民事再生法にあたる破産法の適用を申請し、42州に展開していた約250店舗が閉店しました。

破産2社の共通点は「安さをウリにしていたこと」

アメリカを代表するブランドの破産が相次いでいる裏側では、いったい何が起こっているのでしょうか。

破産した2社の共通点は、低価格を売りにしてきたブランドであることです。安さを武器にすることは、規模の経済で勝負するということであり、巨大な資本を持つファストファッションにはとても太刀打ちできません。この2件の倒産は、“安売りの限界”を象徴しており、低価格ブランドがファストファッションの波にのみ込まれていく風潮は、今後も続いていくでしょう。

ただ、不振にあえいでいるのは、低価格ブランドにとどまりません。デザイナーズブランドやセレクトショップも同様です。ハリウッドのセレブリティから支持を得ている「ビーシービージーマックスアズリア(BCBGMAXAZRIA)」は、アメリカで展開する約180店舗のうち、120店舗を撤退。ルイ・ヴィトンのデザイナーであるマーク・ジェイコブズが手掛けるブランド「マークジェイコブズ(MARC JACOBS)」も、2017年の秋冬シーズンでメンズ製品の取り扱いを終了しました。

近年の西海岸ブームを牽引してきたライフスタイル複合セレクトショップ「フレッド・シーガル(Fred Segal)」を運営するMFSJは、今年の8月をもって同事業を終了。同じく西海岸をコンセプトにした「ロンハーマン(Ron Herman)」のロサンゼルス店に先日足を運んだところ、週末にもかかわらず、店内は閑散としていました。西海岸ブームの最盛期は、どうやら過ぎ去りつつあるようです。

それでは、ファッションにこだわりを持っているお客さんたちはどこへ流れているのでしょう。私が今年7月にアメリカに滞在した際、支持されるブランドには「ソーシャル」「アスレジャー」「クラフトマンシップ」の3つのカテゴリーがキーワードとしてあることを肌で感じました。

まず「ソーシャル」から見ていきましょう。この消費のポイントは「自分の購買行動が社会にどのような影響を与えるのか」という点で、フェアトレード、オーガニック、エシカルなどのトピックスに関心を持ちます。金銭的に余裕のある層だけでなく、ミレニアム世代にもその傾向が強いように思いました。

NY5番街に洋服の山を展示

ソーシャルの一例となるのが、ラグジュアリーブランド「ヴェトモン(VETEMENTS)」のあるキャンペーンです。アパレル業界の過剰生産に対する問題提起として、ニューヨークの5番街にあるサックス・フィフス・アベニューのウィンドーに洋服の山を展示しました。洋服の山は、百貨店の在庫や従業員の古着で構成されており、「ヴェトモン」の公式インスタグラムでは、「アメリカで売れ残っている洋服の在庫は、年間500億ドル(約5兆円)に達する。過剰生産を防ぐことこそが、サステイナビリティや二酸化炭素排出量の削減につながる最もシンプルな解決方法だ」と、その狙いを語っています。

デザイナーズブランド、「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」のノーファー宣言や、急成長するメガネブランド「ワービー・パーカー(Warby Parker)」が掲げる「1つメガネを買えば、途上国に1つメガネが寄付される」という仕組みも、ソーシャルというキーワードに当てはまる例と言えるでしょう。

ソーシャルなブランドの支持層は、多くがデジタルネイティブ世代。マスメディアで流れないファストファッションの裏側にある事情も、日々触れるデバイスの中からごく当たり前に情報収集しています。

次に「アスレジャー」について見ていきましょう。数年前から流行り始めたアスレジャーという言葉は、アスレチック(運動競技)とレジャー(余暇)を組み合わせた造語で、機能的なウエアを中心とした動きやすいコーディネートが特徴。健康志向が高まっている中、素材や機能にこだわったアイテムでトレーニングやスポーツ、ヨガといったワークアウトの時間を楽しみたいという人たちが増えているのです。

注目ブランドの一つ、2017年創業の「ミニストリー(Ministry)」は、ドレスウエアにおいても消臭や吸湿速乾、通気などの機能性を追求しており、ついには宇宙服に使われている体温調節素材まで取り入れてしまうほど。こういった技術力の高さも、アメリカの人たちの心をしっかりとつかんでいます。

そして、3つ目のキーワードが、「クラフトマンシップ」です。この火付け役となったのは、“感覚に敏感な者”という意味を持つヒップスターたち。ヒップスターの聖地といわれるブルックリンから「丁寧に作られたものを長く大切に使う」という価値が見いだされ、ほかの州にも徐々に影響を与え始めています。

代表的なブランドとして挙げられるのが、デトロイトの自動車メーカーから転身を遂げた「シャイノーラ(SHINOLA)」。アメリカの製造業を守るという理念を掲げ、商品はすべて国内で製造しています。職人たちがハンドメイドで生み出す腕時計は、バラク・オバマ前大統領も愛用するほどのクオリティ。今では自転車や革製品、文具、洋服などの製造も手掛けており、ラインナップは年々増えていくばかりです。

「シャイノーラ」の店内には工房があり、買ったアイテムにその場で刻印を押してくれるサービスもあります。私がニューヨークの店舗を訪れたときも、多くのお客さんが興味深げに職人さんの作業を見つめていました。

今回ピックアップした3つのカテゴリーは、必要なモノやサービスに満たされた成熟社会において、どれも精神的豊かさという本質的な価値をもたらしていくものといえます。今はトレンドとして認識されていますが、私はブームの移り変わりや志向性の変化によって淘汰されることはないと推測しています。トレンドがカルチャーに昇華していくプロセスを、今後も追っていきたいと思っています。