あなたの遊び方、間違っていないだろうか?

大人になり、ある程度の経済力を手にすると、遊び方の流儀が問われるようになる。

酸いも甘いも経験し、東京で遊び尽くした港区民たちの、次なる遊び方。

彼らの最新事情を、飲食店経営者であり港区おじさんジュニアと呼ばれる剛(32歳)が探っていく。

これまでに、パーティールームで興じるトランプの楽しさや、タクシー代は渡さない新ルール、世界中どこでも通じるネットワークの強さなどを学んできた。

さて、今週は?




店を予約する際の注意点。どの席を予約する?


「剛さぁ、来週の食事会、悪いけど店決めてもらえるか?計6名で宜しく。」
「分かりました!探しておきます!」

数人で飲んでいる時、高級外車の輸入業を営むケンさんから、来週の食事会の店を探すよう指令が入った。

「えーケンケン、来週も食事会なの?それ、真衣たち誘われてないんだけど。」

隣に座る真衣が、わざとらしくふてくされたフリをしている。

ケンさんの本名はケンタだけれども、皆から、ケンケンの愛称で呼ばれている。

女性陣は、むしろ正式名がケンタさんだということを知らない者がほとんどだろう。

僕もケンさんと呼んでおり、ケンタさんと呼ぶことは滅多にない。

これはケンさんがそれだけ周りから慕われていることの証でもある。

「いつもの感じで、よろしくな。」
「個室で、探しておきます!」

港区の上層部から店の手配を頼まれた時、絶対に守らなければならないルールがある。

それはカウンター席がベストな店以外、“個室を押さえる”ということだ。

このような手配をする際に、個室がない店ならば仕方ないが、個室があるのにも関わらず、そこを手配しなかった場合、港区では“脳なし”の烙印を押される。

これは何もビジネスの会合に限った話ではない。今回頼まれたようなカジュアルな食事でも、皆個室を好む。

最初、僕にはここまで異様に、男女共に個室にこだわる理由が分からなかった。でも、港区の事情通になった今ならば、その理由が分かる。

港区ではどこで誰に見られていたり、話しを聞かれているか分からない。自分の知らぬ所で、勝手に噂話が一人歩きしていることも多いからだ。

隣のテーブルにいたのが知人の知人、なんてことが日常茶飯事なのだ。


隣の彼女が大声で話している彼の年収詳細。それ、知り合いです


港区、会話が筒抜け問題。


「ケンケン、そう言えば。」

真衣が刺身をつつきながら、ケンさんの方に上半身ごと体を向ける。

「この前、隣の席でケンケンの話題になってたよ。ケンケン、今彼女いるでしょ?」

「どういうこと?俺の話?」

男は結婚していても、彼女がいても、まだ女性からモテたいという欲求が心のどこかにある。

だから結婚していることを隠して遊ぶ人がいるし、彼女がいるにも関わらず、いないと言い張る人も多い。

男性陣はケンさんに彼女がいることを知っている人は多い。しかし女性陣に対しては、公にしていないはずだ。

「その子とハワイ旅行に行って、ハレクラニのジュニア スイートに泊まったでしょ?その子が、隣の席でずーっと、その旅行の詳細を大声で話してたよ。」

港区の怖いところは、自分の知らない所で自分の話を勝手にされること。そしてそれを、誰かが聞いている、ということだ。

他の土地ならありえないことかもしれないが、隣の席に座っている人が直接は知らなくても、間接的な知人だということは頻繁に起こりうる。

「嘘だろ?なんて言ってたの?」

「この年収の割には意外にケチだとか(笑)後はどうしてもケンケンと結婚したいから、今周りを固めている最中なの、とか言ってたかなぁ。」

ケンさんの顔が、途端に硬直した。




しかし、ここで一つ疑問が湧く。

何故真衣は、隣に座っていた女性たちの話している人が、ケンさんだと分かったのだろうか?自分の彼氏を、フルネームで呼ぶとは考えにくい。

「それ、本当にケンさんの話なの?」

「間違いないよぉ。ミッドタウンに住んでて、外車の輸入業してて、一見羽振りがいいと言ってたし。何よりこの界隈で“ケンケン”と言えばすぐ分かるでしょ。」

決して国家機密に関わるような会話をしている訳でもなければ、株価が変動するような話をしている訳でもない。

会話の内容は男女のもつれだったり、単なるウワサ話のレベルに留まるのかもしれない。

しかし、今回のように男のプライドを壊すような、女性同士のエグい会話も、こうして全く関係のない所で筒抜けになる。

また、女性陣が話す会話はディテールが細かく、すぐに誰のことを話しているかが特定できる。

特に港区界隈で有名であればあるほど、勝手に話題にのぼり、そして好き勝手言われてしまう。

その彼女が、ケンさんのいない所で鼻高々に、ケンさんのことを偉そうに話している姿が、容易に目に浮かんだ。

「ケンケン、付き合う彼女考えた方がいいかもね。」

真衣が、嬉しそうにニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。


隣の席だけでなく頭上にもご注意を!?至るところで目撃される港区


壁に耳あり障子に目あり。


「私、実はつよぽんも彼女と一緒にいるの、見たことあるんだ。」

「え?俺も?!いつ??」

一生懸命、記憶を手繰り寄せる。しかし、真衣に遭遇した覚えは一切ない。

「広尾の、『明治屋』に彼女と入っていくの、見たよ。つよぽん、意外にいい車乗ってるんだね。ちょっとポイントアップした!」

明治屋へ行ったのは、たしか先輩の家へ呼ばれた際に買い出しに行った時だ。しかも車まで見られていたとは...

そして一緒にいたのは彼女ではない。むしろ名前すらうろ覚えなのに、一体何を言われるか分からない。

「真衣ちゃん、どこにいたの?声かけてよ。」

「私、『ブレッドアンドタパス サワムラ』の二階から見てたの。そしたら偶然つよぽんとその彼女が車から降りてきて。路駐してたでしょ?」

グランド ハイアット 東京の『フィオレンティーナ』、『オランジェ』、『マデュロ』あたりは行けば必ず誰かに遭遇するので気をつけていたが、二階から見られているなんて、防ぎようがない。




「彼女、可愛いじゃん。ちょっと頭は弱そうな感じがするけど。」

-いや、だから彼女じゃないってば。しかも真衣よりは頭は弱くないはず。

そう突っ込もうと思ったが、面倒なのでもはや返す言葉もなく、黙って見過ごすことにした。

それにしても、会話は筒抜けだし、女性といるだけで彼女だと勝手に噂されるし、やはりこの街は、異常に狭い。

「だから港区は怖いなぁ...どこで誰が見て、聞いてるのか分からないから。」

ケンさんが、なみなみと注がれた日本酒のお猪口を見つめながら、ボソッと呟いた。

皆個室を好むのには理由がる。会話が隣に漏れぬよう、誰かと一緒にいる所を見られぬように。

芸能人でもないのに勝手に噂され、好奇の目にさらされるのは真っ平だから。

「あとは、剛も気をつけるんだな。その“つよぽん”とかいう変なあだ名から、誰かがお前の話をしていたら、すぐにバレるぞ。」

いつ、どこで見られているのかも分からないし、自分の知らない所で勝手に話は回る。

気をつけようはないが、とりあえずマスクかサングラスはすべきなのか?それとも、分かりやすいあだ名はつけられないようにすべきなのか?

万全の対策がわからぬまま、夜は更けていった。

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